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からだ思考

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からだについてかんがえる、あたまのなかを書いています
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記事一覧

身体係数と、健常と、障害と、社会と。

身体係数と、健常と、障害と、社会と。

今週、大学のバイオメカニクスの講義で重心推定のための身体係数についての話をした。重心の推定には、例えば前額面で考えるときには、各セグメントの長さと、体重に対する重さの比と、既に過去の研究で明らかにされているセグメントの重心位置の推定結果が必要になってくる。

全身の重心を推定するためにセグメントの重心が推定されている既存の結果が必要になる、という矛盾はあるが、今のところ教室で基本的なバイオメカニク

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「子ども」と「道具」と「運動発達」

「子ども」と「道具」と「運動発達」

「この道具は使っていい道具ですかダメな道具ですか」という質問をよくもらう。例えば「食事のときにピンセット型の練習箸を使ってもいいですか」などの具体的なものから、「抱っこ紐ってどうですか」などの漠然とした疑問まで、「子ども」と「道具」をめぐる問いかけは尽きない。そういう質問を受けたときに考えていることが、意外と運動能力の本質と繋がっているような気がしたので文章にまとめてみたいと思う。

万人にとって

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提示されたものが死だとしても

提示されたものが死だとしても

深夜に96歳の男性が「ラーメン食べたい」と言ったら、どうしますか? 「ほどほど幸せに暮らす」を目指す事業者の挑戦

この記事に寄せて。

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病院に勤務していたときに、COPDという慢性の肺疾患を抱えている70代の男性が、誤嚥性肺炎で入院してきて、リハビリの担当になった。

普通の水分を取ると、食道ではなく気管に水分が入ってしまう。その状態を日常的に繰

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暇な子どもたちは未熟なホモ・サピエンスから成熟したホモ・ルーデンスとなった

暇な子どもたちは未熟なホモ・サピエンスから成熟したホモ・ルーデンスとなった

自粛生活ではたと気づいた都会の子どもは忙しくて、土日に誰かと遊ぼうと思ってもみんな習い事に行っていたりサッカーの試合だったり、親と一緒にお出かけしたり、基本的にはどこにも誰もいなくて、もれなく我が家もそれを前提に家族の予定を入れていたりしたので、ずっと、暇とは無縁だった。

それが、毎日保育園もなく、土日も平日も関係なく、家にいていい何してもいいってことになったので、親はともかく子どもは暇になった

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規則正しい生活と運動は心身を守る 〜2日で1000人以上集まったコミュニティへのお誘い〜

規則正しい生活と運動は心身を守る 〜2日で1000人以上集まったコミュニティへのお誘い〜

 子どもを育てて5年。心から実感していることがある。規則正しい生活と、十分な運動と、空腹を感じてからの食事と、たっぷりの睡眠、これらが満たされると子どもは心身健やかである。

 きっと本来は大人も同じなのだろうと思う。ただし大人はもっと複雑な社会環境の中に生きているので、規則正しさも、運動に割く時間も、食事のタイミングや量も、睡眠でさえも、コントロールするのが難しかったりする。

 COVID-1

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子どもの邪魔をしない教示とフィードバックについての一考察

子どもの邪魔をしない教示とフィードバックについての一考察

運動学習、という学問のテーマがある。英語だとmotor learning(そのままだ)と呼ぶ。最近はスキャモンの成長曲線とゴールデンエイジという言葉への誤解もそこかしこで生まれているが、運動にしろ勉強にしろ、とにかく詰め込めばいいというのは大きく間違っていて、「効果的に、あとできちんと応用できるように」運動を教えるというのはひとつの大きな課題であるという認識のもと、運動学習の様々な視点について昔か

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死についてのひとつの考察としての魚の最期

 いま、この、『分解の哲学』という本を読んでいる。食べることについての本を何冊か選んで読んでいた過程で、amazonのオススメリストに出てきた本だ。食を扱う分野では発酵が注目を浴びて久しいので、表題の通り分解の話もその流れの下流(あるいは上流)にあるのではないかと思ったのだが、ところがどっこいこの本は食べ物の本でもなんでもなくやっぱり哲学書なのであった。

 この本を読み始めたとき、ちょうど自宅の

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こちら側をあちら側に差し出しつづける、ということだ、生きるということは

こちら側をあちら側に差し出しつづける、ということだ、生きるということは

わたしは理学療法士なので、ひとの爪が切れない。
理容師とか医師とか看護師とか鍼灸師とか、ひとに刃物(や針、や火)を当てることができる職業というのは限られているのだ。

けれども患者さんの足の爪が割れていたり、それを痛いとか不快だとか思って訴えが強い場合には、ご本人や家族にわたしの職業の限界をきちんとお伝えした上で了承を得て、手の届かない(あるいは手先を使えない)本人の代わりに、または目の悪い(ある

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「視覚」と「運動」の関わりは新生児期を土台としている

「視覚」と「運動」の関わりは新生児期を土台としている

少し前に『眼の誕生 ーカンブリア紀大進化の謎を解く』という本を読んだ。眼と言えば感覚器官の代表格で、わたしたちの社会の大部分は視覚を持ち合わせていることを前提に作られていると言っても過言ではない。

むかし病棟に勤務していた頃に、視覚を失った患者さんに出会った。糖尿病で50代で視力を失ったその患者さんは、世界を、文字通り「手探り」で確認していた。

その患者さんが病棟内で生活できるように工夫しよう

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「感覚を大事にする」と「生きやすくなる」

「感覚を大事にする」と「生きやすくなる」

五感(視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚)=感覚は五つである、と定義したのはギリシャ時代の哲学者アリストテレスだ。現在ではこの5つの感覚は「古典的な五感」などと呼ばれている。

現在は、感覚系の種類は大きく以下の6つに分類されていて、それぞれの系が受け取る刺激の種類は多岐に渡ることがわかっている。(カッコ内はそれぞれが感知する刺激の種類だ。)

視覚系(光(光子))
聴覚系(音(圧力波))
前庭感覚系(

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A4がフィットしないこの手と運動の深化の道筋について

A4がフィットしないこの手と運動の深化の道筋について

少し前に体操競技のインターハイにチーム帯同する友人の大会前泊に同行する山形旅行に出かけた。体操競技とは全く関係のない旅行なのだけれど宿泊先で出場するチームに出くわしたりしたことで、話題の中には体操競技をテーマにしたものがいくつかあった。

男子体操競技は、床運動以外の種目では道具というか装置というかそういうものを使う。鞍馬、跳馬、平均台、吊り輪、鉄棒。厳密に言えばあの床も、ただの床ではないしなりを

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エビデンスと経験値の間

エビデンスと経験値の間

先日、友人がこんな質問に答えていた。真摯な答だ。

さて、小学生は筋トレすると背が伸びなくなるのだろうか。コメント欄を見ると、これではよくわからない、もっとエビデンスを出せ、調査しろ、とある。なるほど読む側はそう捉えるのだなと興味深かった。

では「小学生は筋トレすると背が伸びなくなる」の信用に足るエビデンスとは何であると考えられるだろうか。

今の科学的アプローチの条件で一番信頼性が高いと言われ

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飽くなき夢の行き着く先は翼か義足か

飽くなき夢の行き着く先は翼か義足か

人間に機械のインターフェイスを取り付けて計測するような実験をしていると、機械に対する人間の不具合にも気づくようになる。筋の電位ひとつを計測するのにも、生きているこの身体が産生し続けている皮膚の角質が邪魔でヤスリで擦り落とす。汗をかくと接触面が不安定になるので実験室の温度は低めに設定しなければならない。生きている自分たちの身体に興味を持ってはじめた計測が、いつしか生きていることの一部を排除していかに

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わたしたちの生きているサインはいつも誰かにdetectされている

わたしたちの生きているサインはいつも誰かにdetectされている

雪の残る山へ、出かけた。一晩泊まって明けた朝、道の脇にポツポツと雪の凹みがあることに気づいた。夜は雲もなく月がきれいで、前日は晴れて木の枝にはりついた雪や氷が溶けて水滴を垂らしていたから、そうかなどうかなと思いながら近づくとどうやらそれはやはり動物の足跡だった。

夏頃、森の中に落ちていたオニグルミの実が齧られていて、リスが食べたのかなと想像したのだけれど犯人はわからずじまいで、もしかしたらネズミ

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