マガジンのカバー画像

すーこ短編小説まとめ

50
私の書いた短編小説(ショートショート含む)のまとめページです。 読者のみなさま、いつもスキをありがとうございます。
運営しているクリエイター

記事一覧

消えた鍵のありか

消えた鍵のありか

 消えた鍵。落とした? 盗られた? いや、それは……ただの私の日常。

 私は片付けが苦手だ。両親の祖父母から苦手という筋金入りの片付け下手。モノの管理がとにかく苦手なのだ。デスクトップやフォルダ整理は割とできるのに、メールの管理もできるのに、現実世界の物理的なモノの管理は苦手だ。鍵もよく消える。カバンの中ならまだいい。家の中に迷い込まれたら、物のジャングルの中から見つけだすのは至難の技であったり

もっとみる
街クジラと海クジラ

街クジラと海クジラ

 街クジラが僕の街にはいる。
 僕の住む海沿いの街の沿岸に、一頭の小さなクジラが座礁した。たまたま下校時間に通りがかった僕が見つけて、慌てて近くの大人たちを呼んだ。大人たちは方々へ電話したり調べたりして、専門家の人たちがやってきて、みんなで協力して海へ戻すことに成功した。クジラが座礁すると、命を落とすことも少なくない。運良く海へ戻すことができたとしても。僕たちは、クジラの無事を願い、日々を過ごした

もっとみる
海砂糖を求めて

海砂糖を求めて

「海砂糖はね、それはそれは美しくって、優しい甘さで美味しいのよ」

 瑞江ちゃんが言っていたのを、ふと思い出して、こんなところまで来た。海砂糖がどこにあるかは知らない。全国津々浦々の旅館や土産屋を訪ね歩くも、手掛かりは得られなかった。次はどこに行けばよいのか……
「あのう、海砂糖をお求めの方、ですよね?」
「……はい。何か?」
「私の祖母から聞いたことがあります、海砂糖」
「本当ですか! それはど

もっとみる
銀河売りの旅へ

銀河売りの旅へ

銀河売り歩く交差点
人は僕になど目もくれない
この街に銀河を求める人は
いないのか

私のスマホはGalaxy
銀河だなんて素敵でしょ
小さなスマホに
星のように情報が詰まってる
この街で星なんてあまり見えないけど
小説やテレビのなかで見る満天の星空
スマホのカバーと壁紙の銀河系
実際は肉眼でどれほど見えるのかしら

銀河いりませんか
対価はあなたの「だいじ」です
あなたの「だいじ」と引き換えに

もっとみる
イチゴ舞う校庭で

イチゴ舞う校庭で

目次

 うわ、懐かし。これ、小学校のときのだ。この前、母さんと掘り出した本をパラパラとめくっていると、小学校のとき作ったイチゴジャムのことが書いてある。この頃、俳句の授業もあったからか、もう俳句詠んでる、俺。「舞」と「僕」が画数多くて不恰好になってるな。

 小学校五年生のとき、イチゴをみんなで育てていた。五、六年はクラス替えがないうえ、どうも先生も持ち上がりらしいから、初夏になったらみんなで収

もっとみる
花町風子のおなかいっぱい胸いっぱい

花町風子のおなかいっぱい胸いっぱい

Special Thanks

「あら花町さん! 今日はどちらへ?」
「ちょっとそこまで」
 エレベーターで一緒になった他部署の同僚と、たわいもない話をしながら外へ出ます。彼女はコンビニへ行くよう。私もいつもお世話になっているコンビニです。そこで別れて、私は大通りの横断歩道を渡ります。

 大通りをしばらく進むと、左手に見えてきますよ。ほら、都会のビル街でひときわ目を引く、あの昔ながらの喫茶店。名

もっとみる
指輪なら、はなまる指輪専門店へ

指輪なら、はなまる指輪専門店へ

 ポストの中身を整理していると、春色の葉書が目に入った。埃を被った小箱に目を遣る。あの指輪を蘇らせられるのだろうか。

 カランカラン。重い扉を引くと、古風な喫茶店風の店内で、にこにこ顔の若い女性と初老の男性が迎えた。
「いらっしゃいませ」
「この葉書を読んで来たんですが」
「ありがとうございます。こちらにおかけください」
 椅子に腰かけ、鞄から指輪を取り出す。
「この指輪を直していただけないでし

もっとみる
金魚、家族、同僚と、僕

金魚、家族、同僚と、僕

目次

 咳をしても金魚。風邪が長引いていて、それでも金魚の水かえをする。金魚は繊細でもろく、定期的に水かえをしないとすぐはかなくなることを知っているから。

 まず、今の水、水草とともに、バケツにそっと移す。いきなり環境が変わると、ストレスで体調を崩してしまうから。バケツはある程度高さが必要だ。水も入れすぎない。金魚が跳ねて、外に飛び出して瀕死になるのを防ぐために。決して体に触れてはならない。人

もっとみる
ライラックぽん 掌編・短編小説5編

ライラックぽん 掌編・短編小説5編

おはようよねちゃんさん

riraさん

くーや。さん

ぽんっ!📕

「ねえみて!」
「わあ!」
「おもしろいね~!」
「こっちも!」
「かわいい~!」

 外から子どもたちの声が聞こえる。4月もそろそろ終わる。あの子たちは、今年の新入生ね。この前あいさつ当番をしたとき、教えてもらったの。この前はまだ緊張と不安で硬い表情の子もいて、バラバラにあいさつしてくれたけど、すっかり仲良くなったのね。よ

もっとみる
あかねさす日のとける空あおいあい(仮)|目次 #シロクマ文芸部

あかねさす日のとける空あおいあい(仮)|目次 #シロクマ文芸部

赤と青の日記     (約 500字)

光る種の効能     (約2,500字)

一冊の葵色の本    (約4,000字)

追憶の手紙      (約4,500字)

星になったあなたと  (約1,500字)

金魚、家族、同僚と、僕(約2,000字)

イチゴ舞う校庭で   (約2,500字)

「明」を含む140字小説3編

今季「140字小説コンテスト」に応募した小説をまとめます。

「明」を含む140字小説5編

1

月明かりに照らされた、道なき道を行く。独り暮らしのお客様にお薬を届けに。駅から3時間。お客様はご無事だろうか。歩みを速める。明かりだ。あの家だ。「遠くまでありがとうねえ」「いえいえ、お待たせしました」「あの人と暮らした家で過ごせるのもあなたのおかげよ、さあ上がって。今日はお鍋よ」

2

「明朝決行

もっとみる
星になったあなたと

星になったあなたと

目次

 凍った星をグラスに。ひとり、夜空の星を見上げ、グラスを傾ける。琥珀色の梅酒の中を泳ぎながら、星の形の氷がキンと音を立てる。

 ねえ、あなた、覚えてる? 星のゼリーと氷を作ったこと。まだ年少の葵の夏休みの宿題で、「家族でおやつを作りましょう」っていうのがあったじゃない。ゼリーを作って、みんなで星型で抜いて、果物の缶詰めをシロップごとグラスに入れて、サイダーを注いで、星の形のゼリーを浮かべ

もっとみる
追憶の手紙

追憶の手紙

目次

 透明な手紙の香り。それは五月の風に乗って、かすかに薫った。

「きれいな茜色だなぁ」
「え?」
「え?」
 それが、藍さんとの出会いだった。
「ごめんなさい。独り言でした。お恥ずかしい」
「いえいえ。思わず口から漏れるほどに、たしかにこの空は美しいですよね」
「そうなんですよ! 空や自然が好きなんですよね。この茜色の空も綺麗で好きだ。木々や家々が黒々としていて、その対比も含めて美しい。燃

もっとみる
一冊の葵色の本

一冊の葵色の本

目次

 一冊の本を埋める。大切にビニールに入れて空気を抜き、そっと桐の箱に入れ、新聞紙でくるみ、布でくるんで、お菓子の空き缶に入れ、養生テープでしっかり封をする。藤の木を目印に、その少し手前の土の中に埋めた。

 その日は、葵の二分の一成人式の日だった。葵が帰ってくるなり、私に言った。
「お母さん、ただいま。この本を埋めたいんだけど、いーい?」
「本を埋めるの? もう読まないの?」
「ううん、ま

もっとみる