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小説を書いてみた

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スカイダイビング、ヒッチハイクに次ぐ緊張感で小説を書いて見ることにしました。吐きそうなくらい緊張です。
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記事一覧

お前が偽善者 【短編小説】

お前が偽善者 【短編小説】

鼻の奥にツンとした刺激を感じて
文寿は顔を歪ませた。

臭いが来る方向を見ると
女性が路上で何かを叫んでいる。

『犬猫の殺傷処分をゼロにする取り組みに
ご署名下さい。この子達に何の罪もありません』

抱き抱える胸には、小刻みに震える
茶色の子犬が見える。

偽善者だ。

文寿はマスクの鼻の部分を摘むと
足を早めた。

子犬を抱くその手は
白く細く皺さえも無く
指には大きな光る石が良く映えていた。

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存在を問う自体が無駄【戯言小説】

存在を問う自体が無駄【戯言小説】

『自分なんか居なくても良い存在だ』

 そう言いながら火を着けたばかりの煙草を
足元に捨て靴底で踏みつけた。

 何やっても上手くいきやしない。
バイトの面接に落ちた回数も数えきれない。
田舎に居る親も、俺とは出来の違う弟しか
息子は居ないと生きてるはずだ。
それは今に始まった事じゃない。
あいつらの事も考えたくない。

 キンキンに冷えた冬の街を
薄くなったダウンを着て、俺は歩いている。
そんな

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つぎはぎを繋げて【エピローグ】

つぎはぎを繋げて【エピローグ】

『ほら、春日居先生の身長を後少しで超えるよ』

僕は先生と背中を合わせて言う。
本当だねと少し悔しそうに
でも嬉しそうに笑う先生がいる。

あれから僕は
何回ともなく桜の季節を過ごした。
今は病院ではなく
併設する寮が僕の住まいだ。

もともとは職員用の寮なのだけど
病院に近いこともあるし
通信教育で高校にも通っている。

『ピアノじゃなくて本を書くって?』
先生は僕と向き合い直して座り
コーヒー

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つぎはぎを繋げて【最終話】

つぎはぎを繋げて【最終話】

「先生、もう誤魔化す必要はないよ。
僕は僕の顔や手を見るとそれが嘘じゃないって分かるんだ」

先生は俯いたまま静かに立ち上がって
回診が全て終わったらまた君の病室に来るよ、と言って出て行った。

先生のあの様子だと、僕の仮説は間違ってなかったようだ。

僕はベッドから降りると本棚に向かい、
その中から迷わず1冊を取り出した。
大切に挟んである栞を取り出すと
抱き合う2人の男の絵を見た。
これは父と

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つぎはぎを繋ぎ合わせて②【小説】

つぎはぎを繋ぎ合わせて②【小説】

僕は
だんだん小さな悲鳴を上げる事が
多くなっていた。
そんなことは
先生にも看護師さん達にも言えない。

悲鳴が出そうな時は分かるようになって、
ぐっと悲鳴を飲み込むんだ。
あの栞は今も大切に本棚の中にある。

それに定期的に挟む本を変えているんだ。
誰も気にはしていないけれど、
僕にとっては
何か罪悪感があっても
宝物の様に思えて仕方がない。

ピアノを弾いていると
頭の中で罵声が飛び交う時が

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つぎはぎを繋ぎ合わせて①【小説】

つぎはぎを繋ぎ合わせて①【小説】

 完璧ですよと言う言葉が
自分の上を飛び交っている。
自分の身体に意識を繋げると、少しだけど体中がチリチリと痛い。
目を開けようとすると、瞼にぺったりとしたテープが張り付いている様な気がする。
手を伸ばしてそれを剥がそうとしたとき、
自分の手が上手く上がらない事に気が付いた。
僕の右手、
そう思って動かそうとしても
丸太の様に重く硬い。

「まだ無理しない方がいい。」
その言葉と共に、僕の肩にふわ

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日曜日の後始末【短編小説】

日曜日の後始末【短編小説】

そんな事は考えなくてもわかる。
いつものように愛想笑いで話を合わせればいい。
穢れた身体をシャワーで流してしまえばいい。
どうせいつものルーティンなんだ。

ヒリヒリする手のひらを見ると
皮がペロッと剥けている。
うっすら血のにじむ手を見つめ、
大した事ではないと分かると、
握り拳を作り、私は思いっきり壁を殴った。
鈍い音と鋭い痛みで一瞬気が遠くなりそうだったが、新たに滴る血を見て私は満足した。

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大切な事は底に沈む金魚から知る

大切な事は底に沈む金魚から知る

朝陽を浴びる事
好きな服を着る事
冷たい水で顔を洗う事
愛する人達の顔を見る事
出かける背中に声をかける事
好きな音楽を聴く事
大切な人達を想って作るご飯。
それを食べる笑った顔達。

当たり前の事が全く出来なくなって
自分が生きてるのか
死んでいるのか
生きたいか
死にたいかも分からず
眠る事も
食べる事も
どうやっていたのか思い出せない。

真白はずっと、ベッドで寝ていた。
ポッカリ心に穴が開

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遠回りの途中【小説】

遠回りの途中【小説】

男はやっと気が付いて顔を上げた。
陽に焼けた肌に、汗が丸く乗っている。

「すみません、気が付かずに」
作業服からタオルを出し
汗を拭きながら土手を上がってくる。

香澄は頭を下げながら、いえ、こちらこそ忙しい時にと言った。

「あのう、先日町内会でお聞きして、街灯が切れてしまったのをお願いしたくて伺ったのですけど」
しどろもどろで説明する香澄に男は
「えぇ大丈夫ですよ、防犯担当は私なので。そした

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応募致しました( ´ ▽ ` )

応募致しました( ´ ▽ ` )

THE COOL NOTER賞✨

以前から
第3回THE COOL NOTER賞に応募をしようと
挑戦してきました。

皆さんにも、我儘にも意見を頂いて
本当にありがとうございます( ´ ▽ ` )

私的に1番人気がなかった、reborn〜で挑戦してみようか、と天邪鬼が出ましたが、
1番最初に書いた処女作とも言えるもので
応募しました。

何故か知らないけど
この写真は私がnoteを始めた時の

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ぶんぶんぶん 蜂が飛ぶ【短編小説】

ぶんぶんぶん 蜂が飛ぶ【短編小説】

蜜蜂は、赤色が見えないと言う。

紺が私の薬指にはめてくれた
ガーネットの指輪が
私には灰色にしか見えない。

紺の紅潮した頬でさえ
どんよりとした灰色に見える。

私は私の目が可笑しくなったのかと
ごしごし擦ってみた。
それが紺には私が泣いていると見えたらしい。
さらに饒舌になる紺を置いて
私の意識は16歳に戻っていた。

紅子は私にとって親友であり憧れでもあった。

黒々とした長い髪を揺らし

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どうせ いつかは みんな逝くけど【short story】

どうせ いつかは みんな逝くけど【short story】

「可愛いからウチに来なよ」

「本当に君が欲しいんだ」

「もう食べてしまいたいくらいだよ」

そんな事を、ある人もこの人も言い
私を抱いて時には顔をくっつけ合った。

初めこそ嬉しかった。
この人が本当に愛してくれるんじゃないかと
その抱きしめてくれる手に期待もしたけど
違った。
ただわたしの見た目だったり
自分の寂しさからだったり
本当の愛じゃない言葉や手はだんだん冷たくなっていく。
私が嘘を

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知る未来で変わる僕、それとも変わらない未来を選ぶ僕 最終章【roman】

知る未来で変わる僕、それとも変わらない未来を選ぶ僕 最終章【roman】

温かい手で僕は頭を撫でられていた。ゆっくり目を開けると、懐かしいアサの顔がそこにあった。

「お寝坊さん、今日が何の日か分かってる?」 
彼女は、ここ最近1番気に入っているブルーのシャツを着ている。

ぼんやり目と頭が冴えてきた。
これは覚えてる。
アサの誕生日の朝だ。

気が付いた僕は跳ね起きた。
アサがいる。
僕は無意識にアサに飛びついていた。
どうしたの?とケラケラ笑いながらアサは僕を抱きし

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