久世

2000年生まれ/東京在住/USHiphop/日露仏近代文学/現代思想/ファッション

久世

2000年生まれ/東京在住/USHiphop/日露仏近代文学/現代思想/ファッション

マガジン

  • Hiphopについて

    Hiphopとその周辺についてです。 サウンドに関してはあまり詳しくないので他の方を参考にしてください…

  • エッセイなど

    思想的なもの、Hiphop以外の音楽、芸術全般についてです。

記事一覧

固定された記事

アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)

はじめに 私たちの生きる現代が獲得したものは、言うことの疚しさだった。 現代という「最新」の時代は、全ての時代にまして物質的な可能性が開かれるのと同時に、「最も…

100
久世
1年前
119

Lil Uzi Vert「Eternal Atake」という特異点~2022年USヒップホップにおける場所と身体、モチーフ、幽霊について~

はじめに ラップ・ミュージックにあったのは「わたし探し」という実存的な問いではなく、とりわけ強固なわたしを形作ることであった。しかし、ふとした瞬間に立ち現れる実…

100
久世
1年前
41

引き裂かれた破壊的リリシスト、JID(JID「The Forever Story」全曲解説)

はじめにJIDはラップスキルとソングライティングというシンプルで最も重大な二つの技術において、間違いなく最も優れたラッパーの一人だ。 1989年、7人兄弟の末っ子として…

久世
1年前
117

青春と闘争、あるいはredveil(redveil「learn 2 swim」全曲解説)

はじめに今回redveilの新譜「learn 2 swim」について語る上で、まずは簡単にredveilの来歴と前作「Niagara」に触れながら、redveilの周辺を探っていこうと思う。 redveil(…

久世
2年前
126

ダークでアイロニカルなリアリスト、Vince Staples(Vince Staples「RAMONA PARK BROKE MY HEART」全曲解説)

はじめにVince Staplesはそのデビューミックステープ「Shyne Coldchain Vol. 1」から今作「RAMONA PARK BROKE MY HEART」に至るまで、常にそのフッド、ロングビーチと共に…

久世
2年前
159

最悪な世界と解しがたい信仰について(Denzel Curry「Melt My Eyez See Your Future」全曲解説)

はじめにDenzel Curryはこのアルバムで、"今世界で起こっていること"、人生そのものを表現しようとした。 そのためこのアルバムは、基本的にある程度陰鬱に進行し、世界が…

久世
2年前
135

「Let It Be」「Runaway」「Alright」という内的闘争の帰結、"かるみ"について

はじめに今回は、The Beatles「Let It Be」、Kanye West「Runaway」、Kendrick Lamar「Alright」という3つの楽曲を中心に、ドストエフスキー 、ビリー・ジョエル、ブルー…

久世
2年前
350

神は過ちを犯さないのか(Conway the Machine「God Don't Make Mistakes」全曲解説)

はじめにまず、当アルバムのタイトル「God Don't Make Mistakes」について、少々脱線しながら話していきたい。 そのためには、2020年、自身のレベールDrumwork、Griseldaの…

久世
2年前
88

"宿命づけられた芸術家"Kanye Westは、赦されるのか

Kanye Westが多少、落ち着いた(?)ようだ。 Kanyeは、家族への想いと、Pete Davidsonへの憎しみが爆発し、Instagramに連投、削除を繰り返していた。Kanyeは以前にもTwitter…

久世
2年前
89

夏目漱石について書こうと思った。絶望について。

この世界における諸問題の究極は、死ねない、ということのみにある。問題の発生は生誕であり、問題の解決は死である。 今私が話した内容は、思想でも考え方でもない。事実…

久世
2年前
17

海外アーティスト理解のためのヴィーガニズム 〜"正しさ"と戦う時代に〜

1、はじめに私たちは現在、自らの欲求のために、自由のために、正しさと戦う時代にいる。ほとんど完璧に論理的で、ほとんど完全に正しい思想がある。論理的正当性という強…

久世
2年前
61

象徴としてのPlayboi Carti

Playboi Cartiは現代Hiphopシーンの象徴としてある。 それのみで成立するほどの存在感のあるビート。それに徹底的に寄り添うビートアプローチ。浮遊感のあるサウンド、ベイ…

久世
2年前
293

芸術について

芸術の本質は自我にあり、その表現の本質は婉曲と迂言にある。 私が音楽ジャンルでとりわけHiphopを愛するのは、それが自我の音楽だからだ。Hiphopのリリックは、基本的に…

久世
2年前
27

"思い出とは、持っているものなのだろうか、失ったものなのだろうか。"

「思い出とは、持っているものなのだろうか、失ったものなのだろうか。」ウディの命題がある。 この模範解答は、持っているものであり、失ったものでもある。しかし、私は…

久世
2年前
5

Hiphopと反ワクチン、黒人コミュニティと陰謀論の親和性

先日、Neil YoungがSpotifyにワクチンに関するデマの拡散(Joe Roganのポッドキャスト)を辞めさせるよう公開書簡を送り、さもなければ自分の楽曲の配信をやめると言った。 …

久世
2年前
281

2000年以降リリースアルバムのベストイントロソングトップ10、とその周辺(Hiphop部門)

⚠️めちゃくちゃ長いので気をつけてください。 1、Common 「Be」より"Be(intro)"まず浮かぶのはこれだろう。 プロデューサーKanye Westによる弦楽器とシンプルな電子音が…

久世
2年前
46
アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)

アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)

はじめに

私たちの生きる現代が獲得したものは、言うことの疚しさだった。
現代という「最新」の時代は、全ての時代にまして物質的な可能性が開かれるのと同時に、「最も経験した時代」として概念的な不可能性が現出する時代でもあった。

例えば思考と存在の統一の崩壊、動物倫理という破壊的な論理的正当性、自由意志が存在しないという事実の確認―そういった不可能さ、不条理が押し上げられ、現前されていくだけの時代。

もっとみる
Lil Uzi Vert「Eternal Atake」という特異点~2022年USヒップホップにおける場所と身体、モチーフ、幽霊について~

Lil Uzi Vert「Eternal Atake」という特異点~2022年USヒップホップにおける場所と身体、モチーフ、幽霊について~

はじめに

ラップ・ミュージックにあったのは「わたし探し」という実存的な問いではなく、とりわけ強固なわたしを形作ることであった。しかし、ふとした瞬間に立ち現れる実存の叫び、その多くの場合に当てはまるニヒリズムは、現代のラップ・ミュージックまで引き継がれる本質的なものの一つとみなすことが出来るだろう。
またそうした方法は広く「エモラップ」によって大きく刷新されたが、それすら新たになりつつあると同時に

もっとみる
引き裂かれた破壊的リリシスト、JID(JID「The Forever Story」全曲解説)

引き裂かれた破壊的リリシスト、JID(JID「The Forever Story」全曲解説)

はじめにJIDはラップスキルとソングライティングというシンプルで最も重大な二つの技術において、間違いなく最も優れたラッパーの一人だ。

1989年、7人兄弟の末っ子としてアトランタに生を受けたJIDは、両親のファンクやソウルのレコード(特にSly and the Family StoneとD'Angeloの名前を挙げている)で音楽に出会い、そこから同郷のOutkast、T.I.、Goodie Mo

もっとみる
青春と闘争、あるいはredveil(redveil「learn 2 swim」全曲解説)

青春と闘争、あるいはredveil(redveil「learn 2 swim」全曲解説)

はじめに今回redveilの新譜「learn 2 swim」について語る上で、まずは簡単にredveilの来歴と前作「Niagara」に触れながら、redveilの周辺を探っていこうと思う。

redveil(以下veil)は、アメリカ東海岸に位置し、ワシントンDCにほど近いメリーランド州プリンスジョージズ郡で生まれ育った。
プリンスジョージズ郡、いわゆるPG countyは、国内で最もアフリカ系

もっとみる
ダークでアイロニカルなリアリスト、Vince Staples(Vince Staples「RAMONA PARK BROKE MY HEART」全曲解説)

ダークでアイロニカルなリアリスト、Vince Staples(Vince Staples「RAMONA PARK BROKE MY HEART」全曲解説)

はじめにVince Staplesはそのデビューミックステープ「Shyne Coldchain Vol. 1」から今作「RAMONA PARK BROKE MY HEART」に至るまで、常にそのフッド、ロングビーチと共に在り続けた。
同時にStaplesは、"人に見られたり話しかけられたりするのは好きじゃない"と述べ、カメラに映ることもステージに上がることも、パーティーに参加することも脚光を浴びる

もっとみる
最悪な世界と解しがたい信仰について(Denzel Curry「Melt My Eyez See Your Future」全曲解説)

最悪な世界と解しがたい信仰について(Denzel Curry「Melt My Eyez See Your Future」全曲解説)

はじめにDenzel Curryはこのアルバムで、"今世界で起こっていること"、人生そのものを表現しようとした。
そのためこのアルバムは、基本的にある程度陰鬱に進行し、世界がどれほど最悪なのか、自身の精神状態がどれほど危ういのか、かつそこから逃れようとする信仰を知的でユーモラスに、そして多様に表現している。

まず、世界が穢れていることは個人の極性によらない事実である。それを感得しない人間は単に視

もっとみる
「Let It Be」「Runaway」「Alright」という内的闘争の帰結、"かるみ"について

「Let It Be」「Runaway」「Alright」という内的闘争の帰結、"かるみ"について

はじめに今回は、The Beatles「Let It Be」、Kanye West「Runaway」、Kendrick Lamar「Alright」という3つの楽曲を中心に、ドストエフスキー 、ビリー・ジョエル、ブルーハーツ、夏目漱石、太宰治、ピカソ、スタンリー・キューブリック等にも通ずる"かるみ"について、芸術家が導き出す人生に対する解答がほとんどその一意に定まること、そしてそれが過度に感性的、

もっとみる
神は過ちを犯さないのか(Conway the Machine「God Don't Make Mistakes」全曲解説)

神は過ちを犯さないのか(Conway the Machine「God Don't Make Mistakes」全曲解説)

はじめにまず、当アルバムのタイトル「God Don't Make Mistakes」について、少々脱線しながら話していきたい。
そのためには、2020年、自身のレベールDrumwork、Griseldaの両レベールからリリースされたソロデビューアルバム「From King To A GOD」に触れなければならない。
「From King To A GOD」(以下FKTAG)は、「God Don't

もっとみる
"宿命づけられた芸術家"Kanye Westは、赦されるのか

"宿命づけられた芸術家"Kanye Westは、赦されるのか

Kanye Westが多少、落ち着いた(?)ようだ。
Kanyeは、家族への想いと、Pete Davidsonへの憎しみが爆発し、Instagramに連投、削除を繰り返していた。Kanyeは以前にもTwitterで、一時間に100件以上ツイートしたこともあった。

おそらくほとんどの人が知っている通り、Kanye Westは双極性障害を患っている。
そのため、Kanyeは躁状態になると、行動に歯止

もっとみる
夏目漱石について書こうと思った。絶望について。

夏目漱石について書こうと思った。絶望について。

この世界における諸問題の究極は、死ねない、ということのみにある。問題の発生は生誕であり、問題の解決は死である。
今私が話した内容は、思想でも考え方でもない。事実だ。こういった不都合な事実をどう受け止めるかが思想であり、考え方である。

漱石はこれを知りながら、最後まで書き通した。ドストエフスキーと同じように、呪われていたのである。その著作の中で、「門」が最も絶望的だ。
なぜなら、例えば前期三部作の

もっとみる
海外アーティスト理解のためのヴィーガニズム                               〜"正しさ"と戦う時代に〜

海外アーティスト理解のためのヴィーガニズム 〜"正しさ"と戦う時代に〜

1、はじめに私たちは現在、自らの欲求のために、自由のために、正しさと戦う時代にいる。ほとんど完璧に論理的で、ほとんど完全に正しい思想がある。論理的正当性という強固な外殻に覆われた、多くの人にとって不愉快な思想がある。そのひとつがヴィーガニズムだ。

ヴィーガニズムは、(宗教上の理由を持つ国を除き)特にアメリカ、イギリスにおいて広がりを見せており、今日のアメリカにおいて、人口の6%、イギリスでは人口

もっとみる
象徴としてのPlayboi Carti

象徴としてのPlayboi Carti

Playboi Cartiは現代Hiphopシーンの象徴としてある。
それのみで成立するほどの存在感のあるビート。それに徹底的に寄り添うビートアプローチ。浮遊感のあるサウンド、ベイビーボイス。アドリブが多く、比喩やかけ言葉、意味やライムすらほとんど持たない、享楽的かつ双極的なリリック。同じ言葉を繰り返すだけのフック。クラブミュージックとして、耳当たりの良い音楽として、(主にファッションなど)多様に

もっとみる

芸術について

芸術の本質は自我にあり、その表現の本質は婉曲と迂言にある。
私が音楽ジャンルでとりわけHiphopを愛するのは、それが自我の音楽だからだ。Hiphopのリリックは、基本的に自分とその周辺以外語らない。客観性がまるでないのだ。ポップミュージックや近年のロックという名前で世に蔓延るポップミュージックとの明確な違いはここにある。Hiphop が前述の意味において、本質的に、最も芸術的な音楽ジャンルである

もっとみる

"思い出とは、持っているものなのだろうか、失ったものなのだろうか。"

「思い出とは、持っているものなのだろうか、失ったものなのだろうか。」ウディの命題がある。
この模範解答は、持っているものであり、失ったものでもある。しかし、私は、持っているものであると主張したい。

我々が本当に持っているものは思い出だけだ。なぜなら、持っているということは、それが在り続けることではなく、所有という行為、状態に重要なのはむしろ、その間欠性にあるからだ。

プラトンは状態、事態、行為

もっとみる
Hiphopと反ワクチン、黒人コミュニティと陰謀論の親和性

Hiphopと反ワクチン、黒人コミュニティと陰謀論の親和性

先日、Neil YoungがSpotifyにワクチンに関するデマの拡散(Joe Roganのポッドキャスト)を辞めさせるよう公開書簡を送り、さもなければ自分の楽曲の配信をやめると言った。
そしてSpotifyは「今までコロナ関連のポッドキャストエピソードを2万件以上削除してきた。」と十分にデマや誤情報に関する措置をとってきたという態度を示した上で、この要望を(敬意を持って…らしい)拒否し、Youn

もっとみる
2000年以降リリースアルバムのベストイントロソングトップ10、とその周辺(Hiphop部門)

2000年以降リリースアルバムのベストイントロソングトップ10、とその周辺(Hiphop部門)

⚠️めちゃくちゃ長いので気をつけてください。

1、Common 「Be」より"Be(intro)"まず浮かぶのはこれだろう。
プロデューサーKanye Westによる弦楽器とシンプルな電子音が巧みな統一を保ちながらサンプルと混ざり合うビート。チープさと壮大さを併せ持った、どこか懐かしいようなサウンドだ。
そんなビートを1分以上たっぷり堪能させながら、Commonのシカゴ出身ラッパーらしい最高に詩

もっとみる