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薄楽俊
2024年5月4日 17:59
五月のノスタルジー あやめかる安積の沼に風ふけば をちの旅人 袖薫るなり 源俊頼風が万物を薫らせ蒼い静脈の這う近所の少女の乳房が膨らみ出戻りの姉の白い太腿はむき出しで縁側に投げ出され売春宿のぼくの恋人のお腹の産毛が陽炎のようにゆれるそんな五月の白昼に不如帰が鳴き出すと工事現場では必ず神隠しが起こり少女の腋臭のような沼の匂いが山から下りてきて夕暮の雨は予想
2024年4月20日 22:04
かなしみのアリバイ かなしみはそれっきりだった西日はどこまでも赤かったような気がする葉が揺れて夏なのに散って人の命の尽きた日にラムネ飲んでおれは風の中にでた愛すべきしがらみはプラカードでこしらえた棺と一緒に燃え野辺のけむりとなって消えていったあの連山の端はうつむいて笑うお前の横顔のようだああ やっぱり 西日はあの端山の向こう側まで赤く沈んでいたのだった野あやめを焙煎
2024年4月2日 18:37
蛇あなたは左なの?そうだな、少なくとも君よりはねじゃあ、そのまま左へすすんじゃったらどうなるの?そうだな、ぐるっとまわって右になるじゃあ、まっすぐすすんだらいいんじゃないだめさ、まっすぐ進めば・・・山あり谷あり そして 海または 崖 ないしは 壁 だなじゃあ、抜け道をくねくねよじれながらいくってのはどうかしらなんか君みたいだな神様にまた叱られるかなああ、人間に裸の羞恥
2024年3月21日 00:02
後朝のうた春はあけぼの山ぎわに目覚めた泡立つ光にふたりのときは美しくこわれ薄もやのたえだえにしずかに身を横たえるせぜのあじろぎ水おとはさやけくほそくまだ草むらに這うものの雲はすでに峰をはなれてたなびき 人の袖の涙もそのようにまたうつろいゆくものかしのぶもじずりわれならなくにまた巡り逢う日をおもいゆっくりと剥がれたときの表皮を抱くのみのわたくしなのです #詩 #現代
2024年3月16日 19:17
猫の噂 春雨のふるは涙かさくら花 ちるを をしまぬ人しなければ 黒主細い路地に入ってたぶんふと気を許したのかもしれないその猫は笑ったのであるちょうどそこに廃棄されたカーブミラーが放置されていたのがいけなかったどうもその猫は当局に拉致されたみたいだその前夜は春雨だったある子供が猫に踊りを教えていたという密告もあったようだ
2024年3月13日 23:55
春のわかれあの日 とぼとぼと歩いた その足跡を波がさらっていった 浜辺でもないのに ぼくは あのとき 泣いていた のかも しれなかったただ 立ち去っていく背中だけがみえた あれは なんだったのか 女といえばきこえはいいが そうだ あの波は 街の白昼の断崖まで ぼくらがわずかになった春をむしり取るように無言で働いた あのビルの解体現場まで たぶん 達してい
2024年3月10日 01:07
薔薇のはなしばらばらになったものをひろいあつめたってジグソーパズルのようにはつながるわけではない 夜と朝もめったにないたまたまでつながっているようにみえてるだけだ空き瓶に挿した薔薇がまだあるという奇蹟曇り窓に朝のひかりがとどまり、ヘアピンが部屋の隅に咲いているハンガーにはワンピースが生乾きのままぶらさがりシンクの皿に残る薄切りのレモンと青白いシーツが昨夜の雨をよみがえ
2024年3月7日 19:44
ミモザの頃用心しなければならない 今日が無事なのは 川面がひかりをはじき鳥の声がきらめいているからなのだ 朝からのこの道には ささやかな三月の平穏がながれ 午後のいつもの公園につづいている そこには昨夜の褥の春雷はなく ミモザの匂いの記憶があの噴水にたちあがるやわらかなはるのうれいああ 喪われている現在 恋は剪り時がむずかしいのだ #詩 #現代詩 #自由詩 #
2024年2月11日 00:02
たぶんジブラルタルまで俺は共産主義者だがこのトラックを盗んだその理由がけっさくだつまり、オンボロだったんだわかるかい 小僧廃棄するんだとさまだ六十キロは出せるのに書類に印鑑が押されたんだ だから俺はこの相棒と一緒に党を辞めたのさことわっておくが俺は今でも共産主義者だぜ運転手はそんなことを陽気に言った夕立があがると彼は窓を開けてタバコを吸いながらどこへ行くのかと聞
2024年2月4日 03:14
やっとひとりになれた夜 おれは波止場の見える安ホテルの一室で 情交の名残りでもあるかのようにシーツに落ちていた あの時の一本の縮れた女の陰毛を思い出していた湖水を染める晩秋の夕焼けはとっくに終焉しもうじき窓には無影灯のように青白い女の貧相な乳房が姿を見せるだろうおれが女をはじめて抱いたのは いや 抱かされたのは どうでもいいような研修会のあとの五階建ての薄汚れたこのホテルだった 初
2023年12月15日 01:27
いいですわ お貸しします でも明日のこの時間には返してくださいね 女はそう言うと身を起こし背を向けると何やらごそごそと裸なのに下着を脱ぐような仕草をしてはいどうぞと自分の肋骨を渡した そしてもうじき時雨がきますからこれで運んでくださいとバイオリンケースを渡した 私は高級娼婦を買うために用意していたそれなりの金額を女に渡し、これで弟によくしてやれますわと礼をいう女の声を背に夜の街に出るとすぐにタクシ
2023年11月23日 18:10
つらいコスモス 秋の日の無言の約束が静かな哀しみとなって 咲いているのだったつらいコスモスが あきらめて咲いているのだった 困惑のほほえみが さびしく揺れて暮れ方のコスモスは 取り返しのつかないぼくのしくじりをことあるごとによみがえらせる ちがうひととの陽だまりに果たされなかった約束は揺れ路傍のコスモスに今もうずく恋の蒼痣 ぼくらはこれから何年ものあいだ
2023年9月5日 20:12
ほろ酔いの唄高校の時だった誰とも口をききたくなくて図書室に入り浸りだった分からないことがやたらとできてグーグルもヤフコメもなかったからねおれの心の中はわだかまりばっかりだった父親も母親も友だちも学校も教員も社会とか国家とかいうものもややこしい幾何学不規則多面体みたいに 分からないままザラザラゴツゴツして突っ立ているんだよね おれの至近距離にさまあ それが「実在」が実在するっ
2023年7月21日 01:18
夕暮の路地の雨の中貴女の踵の折れたハイヒールを見つめわたしは薄紫に咲いたのでした白い少女のときもあったけどわたしはあのときから貴女の雨を聴くようになりました悲しい夜の腎臓にしとしと浅緑の雨が降り憂鬱な朝の子宮にじとじと浅黄色の雨が降り淋しい胸にひねもすしくしく青褪めた雨が降りそして わたしは貴女の心の雨になりましただけど 昨日の貴女は なぜか知らない人の夕焼け染みついて今