春枕

和歌、お能、文学、美術、食。「春の苑 紅にほう 桃の花 下照る道に 出で立つをとめ」 …

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和歌、お能、文学、美術、食。「春の苑 紅にほう 桃の花 下照る道に 出で立つをとめ」 銀座のおみせ春枕。https://www.harumakura.com

記事一覧

第32夜◇天地(あめつち)の中にみちたる草木まで~吉田兼邦

「木そのものが、神様だから。」 そう言ったのは、ひとりの宮大工さんでした。 ただ、目の前の木と向き合って、どうかその個性を、生かしてあげられますようにと、手をか…

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1か月前
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昨日うぐいすの声をきいた。今日はごうごうと嵐の音がする。春がきている嬉しさより、冬が遠のくさみしさの方が、すこし大きいけれど…おとで感じる季節のうつろい。この冬も、心に残るいろいろなことがあった。気をつけていってね。

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1か月前
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春宮会◇萩焼◇十四世 坂高麗左衛門窯 訪問

色とは、森羅万象そのものである。 萩焼を前にすると、いつもこのことばが思い浮かぶのです。ある特定の大地でもなく、空でもなく、もっと色々なかたちができあがる前、も…

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1年前
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第31夜◇秋の野に人まつ虫の声すなり~よみ人知らず

朝は落花を踏み連れだって出かけ、 夕には飛鳥にしたがって共に家へかえる。 そんな家族と、友人と、大切な人と、いつか別れるときがきて、ひとりぼっちになったら、松虫…

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1年前
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クリア江戸切子◇小林淑郎先生◇至高のハンドカット

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1年前
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第30夜◇桜散る木の下風は寒からで~紀貫之

今日、はらはらと舞い散る桜をみて、 「あぁ、空に知られぬ雪…」とこの歌を思いました。 花という、春に降る雪があり、 雪という、冬に舞う花がある。 花を見て、それは…

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2年前
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初冬の夕暮れ

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2年前
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第29夜◇過ぎぬれば我が身の老いとなるものを~肥後

桜の木の下で、さめざめと泣いている人がいました。 不思議に思って訳をたずねてみると、「花が咲いたらまた少し別れが近づいてしまいます。どうして涙を流さずにいられま…

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2年前
28

ご紹介ありがとうございました♡ユリさん

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2年前
19

ご紹介ありがとうございました♡chihayaさん

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2年前
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第28夜◇年のうちに花は咲きけりひととせを~在原元方

数年ぶりの寒波により、凍える日が続いておりますが、わが家の裏にたつ梅が、初めて年のうちに開花しました。 周りの木々は、まだ色づいた葉が落ちきらぬなか、紅白の梅が…

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2年前
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第27夜◇行き暮れて 木の下陰を 宿とせば~平忠度

行き暮れて 木(こ)の下陰を 宿とせば 花や今宵の 主ならまし (意訳:行くうちに日が暮れて、この桜の木の下を宿とするならば、花が今夜の主となってくれるでしょう。) 平…

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2年前
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第26夜◇明日ありと思う心の仇桜~親鸞

最も簡単なことは、最も難しい。 「南無阿弥陀仏と唱えるだけでよい」 一見とても簡単である。口に出して唱えるだけ? 昔教科書で、広く人々に馴染みやすく…、と読んだ…

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2年前
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第25夜◇咲きにほふ 花のけしきを見るからに~白河上皇

白河上皇が熊野詣でに訪れた際、参道に咲く花をご覧になり、詠まれた歌。 先日はじめて紀の国、和歌山県を訪れました。 南紀白浜空港に降り立ち、私は思わず目一杯息を吸…

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2年前
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和歌山◇熊野那智大社◇世にも綺麗な手水舎に出会いました。水に沈めた満開の紫陽花、なんと涼しげで清らかなこと..。

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2年前
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第24夜◇花見んと群れつつ人のあるのみぞ~西行法師

西行が桜を愛でながら口にした、小粋な呟き。 お能には、この続きがあります。 寝入った西行の夢に桜の精が登場し、 物言わぬ桜に罪はないと主張する物語。 そんなお能の…

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3年前
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第32夜◇天地(あめつち)の中にみちたる草木まで~吉田兼邦

第32夜◇天地(あめつち)の中にみちたる草木まで~吉田兼邦

「木そのものが、神様だから。」
そう言ったのは、ひとりの宮大工さんでした。

ただ、目の前の木と向き合って、どうかその個性を、生かしてあげられますようにと、手をかける姿は、祈りのように見えたのでした。

木は生きているから。
立ち木のときは生き抜くため、伐られてからはもう一度活かされて、生きようとする意思があるから。木に問いかければ答えてくれる、なんども問いかければ絆ができる。

ただ一つの命の前

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昨日うぐいすの声をきいた。今日はごうごうと嵐の音がする。春がきている嬉しさより、冬が遠のくさみしさの方が、すこし大きいけれど…おとで感じる季節のうつろい。この冬も、心に残るいろいろなことがあった。気をつけていってね。

春宮会◇萩焼◇十四世 坂高麗左衛門窯 訪問

春宮会◇萩焼◇十四世 坂高麗左衛門窯 訪問

色とは、森羅万象そのものである。
萩焼を前にすると、いつもこのことばが思い浮かぶのです。ある特定の大地でもなく、空でもなく、もっと色々なかたちができあがる前、もしかしたら世界はこんな色だったのではないか、そう思わせてくれる色。造形すら色になる。色こそ、萩焼の魅力であると、わたしは思うのです。

そんな萩焼の始祖であり、当代で十四世、四百年以上にわたり受け継がれている、坂高麗左衛門窯を訪問してきまし

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第31夜◇秋の野に人まつ虫の声すなり~よみ人知らず

第31夜◇秋の野に人まつ虫の声すなり~よみ人知らず

朝は落花を踏み連れだって出かけ、
夕には飛鳥にしたがって共に家へかえる。

そんな家族と、友人と、大切な人と、いつか別れるときがきて、ひとりぼっちになったら、松虫の声をきいて、いつか待っていてくれた誰かを、誰かとすごした時間を、思いだせるかな。

鳴き声がするほうに、あの人が待っているかもしれないから、行ってみよう。姿は見えなくても、待っているかもしれないから。

長い間わすれて過ごしたとしても、

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第30夜◇桜散る木の下風は寒からで~紀貫之

第30夜◇桜散る木の下風は寒からで~紀貫之

今日、はらはらと舞い散る桜をみて、
「あぁ、空に知られぬ雪…」とこの歌を思いました。

花という、春に降る雪があり、
雪という、冬に舞う花がある。

花を見て、それはただ花であるけれども、
それはまた雪でもあり、そもそも花と雪の境目など曖昧なものだと思うのです。

散る花びらを見て、
花であり、また雪であると思うことで、花と雪をやわらかく糸でつないだ真ん中あたりへ…ふと意識が解放され、いずれの言葉

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第29夜◇過ぎぬれば我が身の老いとなるものを~肥後

第29夜◇過ぎぬれば我が身の老いとなるものを~肥後

桜の木の下で、さめざめと泣いている人がいました。

不思議に思って訳をたずねてみると、「花が咲いたらまた少し別れが近づいてしまいます。どうして涙を流さずにいられましょう…。」と言うのです。なるほど、もっともなことだと思い、「そのお話し詳しくお聞かせください。」と…。

こんな光景が思い浮かびました。

生きることは不条理であると思う。
迎えた春はまもなく過ぎてしまい、いつとも知れぬ、わが身との別れ

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第28夜◇年のうちに花は咲きけりひととせを~在原元方

第28夜◇年のうちに花は咲きけりひととせを~在原元方

数年ぶりの寒波により、凍える日が続いておりますが、わが家の裏にたつ梅が、初めて年のうちに開花しました。

周りの木々は、まだ色づいた葉が落ちきらぬなか、紅白の梅がぽつらぽつらと咲く様子は、まるで季節が錯綜し、ゆらめいて、愛おしくも時があいまいになったような光景です。

行ききらぬ秋、雪降らぬ冬、春の訪れと呼ぶにはまだ早く、時の流れがたわんだような梅の下で、花を見ながら心に浮かんだのは、年のうちに

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第27夜◇行き暮れて 木の下陰を 宿とせば~平忠度

第27夜◇行き暮れて 木の下陰を 宿とせば~平忠度

行き暮れて 木(こ)の下陰を 宿とせば
花や今宵の 主ならまし

(意訳:行くうちに日が暮れて、この桜の木の下を宿とするならば、花が今夜の主となってくれるでしょう。)

平忠度 平家物語

国立能楽堂にて、塩津哲生さんがシテを演じられた「忠度」を観て参りました。最終場面では涙が止まらず、死生観をゆさぶられる体験となりました。

人は死にたいして、恐怖や悲しみの更に奥深くには、本能的に土へ帰ってゆく

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第26夜◇明日ありと思う心の仇桜~親鸞

第26夜◇明日ありと思う心の仇桜~親鸞

最も簡単なことは、最も難しい。

「南無阿弥陀仏と唱えるだけでよい」
一見とても簡単である。口に出して唱えるだけ?

昔教科書で、広く人々に馴染みやすく…、と読んだなあと思いながら、先日ふとしたきっかけで、親鸞の本をぱらぱらと捲りながら、愕然としました。

念仏を唱えるだけというのは、自らの運命を前にして、すべて身を任せて何もしないということではないでしょうか。宗派によらず、阿弥陀様ではなく、自然

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第25夜◇咲きにほふ 花のけしきを見るからに~白河上皇

第25夜◇咲きにほふ 花のけしきを見るからに~白河上皇

白河上皇が熊野詣でに訪れた際、参道に咲く花をご覧になり、詠まれた歌。

先日はじめて紀の国、和歌山県を訪れました。

南紀白浜空港に降り立ち、私は思わず目一杯息を吸いながら、空を見上げました。白く柔らかな日差し、青い青い空。あぁ。ここには言葉にならない何かが宿っているのだなあと、込み上げる嬉しさと共に、確かに感じられたのでした。

南国のそれとはどこか違う日差し。どんなに照りつけていても、あちら側

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第24夜◇花見んと群れつつ人のあるのみぞ~西行法師

第24夜◇花見んと群れつつ人のあるのみぞ~西行法師

西行が桜を愛でながら口にした、小粋な呟き。
お能には、この続きがあります。

寝入った西行の夢に桜の精が登場し、
物言わぬ桜に罪はないと主張する物語。

そんなお能の演目 西行桜の桜の精を、今月、
人間国宝能楽師、梅若実さんが演じられました。

高齢により随分とお身体が弱られたご様子で、終始両手に持った杖でやっと身体を支えながらの、舞い、謡い。

西行の夢が覚め、桜の精も消えるという最終場面。

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