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記事一覧
同じ窓辺の外【掌編小説】
※3,109字数。
本作品はフィクションです。
―来年はもう死んでるかもしれないから。
私は、阿佐子に初めて同窓会に参加する理由をこう答えた。来月60歳になる私は、死に至る病を抱えているわけでは無い。ただ、去年の12月に職場の同い年の女性が立て続けにコロナワクチンの後遺症で亡くなり、死ぬことが今までより身近な存在になっていた。
コロナなんかで、絶対に死にたくないー。夜通しずっと私は睡眠
最後の聖女【掌編小説】
※2,851字数。
本作はフィクションです。
愛娘の結婚は、時として父性の感情機能を激しく揺さぶることがある。特に、正博のようにシングルファーザーとして一人娘を育ててきた場合は尚更だ。長年来、娘の為に注がれたあらゆる情念は鼓動そのものが永久に奪われるかもしれない。
【パパ、おはよう。
さっき、賢太朗君からプロポーズされた。】
明け方の4時に夏菜子は父へLINEをした。父はトイレの便
創作小説「宇宙をラーメンと呼ぶ男」前編
男は、突然、宇宙を「ラーメン」と呼ぶようになった。しかし、不幸にも男はラーメンの存在を知らない。食べ物なのか、何なのか、もしかすると人間なのかもしれないと19年間を過ごしてきた。ラーメンが「らーめん」かもしれないし、イタリア風に「La men」かもしれない。一つ言えることは、男が苦労をし過ぎて、あまりにも厭世的になっていること。宇宙みたいな、遥か恒久へ逃げ出したくなったことは確かなようだ。
ショートストーリー「元・世界一位」
親戚の宇宙(ひろし)おじさんは元世界一位らしい。その正式な称号が世界第一位なのか、はたまた世界チャンピオンなのかはハッキリと分からない。
去年夏に勇気を振り絞って訊いてみた。
「おじさんって何の世界一位なの?」
おじさんは怪訝な顔をした。
「紳助君知りたい?」
僕は目を輝かせてうなずいた。
「・・・おじさんは何の世界第一位か忘れたよ」
こう言うと頭をポリポリと掻いて、苦笑いをした。