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【読書ノート】『ラーゲリより愛を込めて』

【読書ノート】『ラーゲリより愛を込めて』

『ラーゲリより愛を込めて』
辺見じゅん著

一言で言えば、
第二次世界大戦後のシベリアで日本人捕虜たちは過酷な環境で労働させられる。ロシア語が堪能な山本幡男は帰国の希望を持ち続け、仲間を励ます。幡男は終戦後帰国することができず、シベリアで咽頭癌で、なくなる。そして、幡男の遺書は、日本にいる幡男の家族に伝えられるという話。

インテリな幡男が、書き記す遺書は、捕虜仲間たちが、手分けしてそれぞれの記憶

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【読書ノート】『雨上がりの花』(『ギフト』より)

【読書ノート】『雨上がりの花』(『ギフト』より)

『雨上がりの花』(『ギフト』より)
原田マハ著

「私」の先輩藤田さんは、仕事ができる。自分にも厳しいが、後輩にも厳しい。ところが、藤田さんは、離職することになった。仕事ができる彼女は、ヘッドハントされたのだろうと噂されていた。

彼女の離職で、「私」は内心ほっとしていた。そして、藤田さんの後任としての地位を引き継いだのだった。出て行く藤田さんには、最早何も感じなかったのだけど、実は、彼女の離職は

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【読書ノート】『ミツザワ書店』(『さがしもの』より)

【読書ノート】『ミツザワ書店』(『さがしもの』より)

『ミツザワ書店』(『さがしもの』より)
角田光代著

主人公(ぼく)は、サラリーマン作家。ある文学賞に作品を応募したら、選考で選ばれたところから物語は始まる。

受賞時のインタビューの時、受賞の喜びを誰に伝えたいかという質問に、本当は、ミツザワ書店の店主とこたえたかったのだけど、無難に両親と言ってしまった。

ミツザワ書店は、高齢のおばあさんが、一人でやっている田舎の本屋だ。様々な本が無造作に積み

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【読書ノート】『ホーリー』

【読書ノート】『ホーリー』

『ホーリー』
吉本バナナ著

クリスマスに恋人との待ち合わせ前に起こる出来事を描いた作品。恋人とのすれ違いやトラブルの発生を予想したが、実際には物語は順調に進展していた。

タイトル通り、この神聖な日における尊い行為によって、主人公の心は一層幸せに満たされる。

キーワードを挙げてみる。

①クリスマス
キリストの誕生を祝う宗教的な意味を持つ。また、クリスマスは愛や思いやり、家族や人々との絆の大切

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【読書ノート】『白夜行』

【読書ノート】『白夜行』

『白夜行』
東野圭吾著

大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男性が殺害された。被害者の息子、桐原亮司と容疑者の娘西本雪穂には、不可抗力から、それぞれに過ちを犯してしまう。

その過ちに漬け込でくる裏社会の人々の中で、静かに、抵抗しながら、表社会への復帰を試みる。

盛り沢山な、悲劇。登場人物がそれぞれ非常に魅力的で、物語に惹き込まれる。

罪を意識した者が、世の中生き抜いていくために、そして、お互いの

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【読書ノート】『信仰』

【読書ノート】『信仰』

『信仰』
村田沙耶香著

ある日、主人公(永岡)は、石毛からカルト商法の誘いを受ける。元彼女の斉川を教祖に仕立てるのだという。

信仰とは?
異なる哲学者や思想家によってさまざまに解釈されている。
①信仰が主観的な宗教的経験や感情に基づくのではなく、合理的な考察や論理的な推論に基づくものであるという意味がある。
②信仰が個人の信念や価値観を超えて、普遍的な真理や存在の本質に関連するものとして考える

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【読書ノート】『マイホーム』(『この世の喜びよ』より)

【読書ノート】『マイホーム』(『この世の喜びよ』より)

『マイホーム』(『この世の喜びよ』より)
井戸川射子著

非常によくわからない物語なのだけどね。

芝川(主人公)という主婦は、荒川という主人公の旧姓の分譲住宅の販売員から、新築戸建てのセールスを受けるところから物語は、始まる。販売員の荒川さんは、主人公(芝川)の旧姓であり、かつての自分が、投影されているようだ。
荒川さんは、誰もが憧れるとされる新築戸建てこそが、幸せを象徴するものとして、芝川に体

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【読書ノート】『レキシントンの幽霊』

【読書ノート】『レキシントンの幽霊』

『レキシントンの幽霊』
村上春樹著

なかなか、主題が、掴みにくい物語。

ケイシーはピアノ調律師のジェレミーと一緒にレキシントンの屋敷に住んでいる。ある時、『僕』はケイシーに家の留守番を頼まれる。留守番の初日の夜、『僕』は深夜に大勢がパーティをしているような物音で目を覚ます。『僕』は、あのパーティは、幽霊の集まりだったのだろうと納得する。

キーワードを挙げてみる。

①アッシャー家
エドガー・

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【読書ノート】『コイビト』(『授乳』より)

【読書ノート】『コイビト』(『授乳』より)

『コイビト』(『授乳』より)
村田沙耶香著

ホシオと名付けたハムスターのぬいぐるみを恋人と思う「あたし」は、同じようにムータというオオカミのぬいぐるみを愛する少女、美佐子と出会う。

かなり、村田沙耶香ワールド全快のシュールな物語。

オオカミのぬいぐるみ
自然界の野生や野性を象徴する。オオカミは強さや勇気、自立心、そして集団や家族の結束を表現する。また、オオカミはしばしば知恵や洞察力を持つ存在

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【読書ノート】『チェルカッシ』(『26人の男と一人の女』より)

【読書ノート】『チェルカッシ』(『26人の男と一人の女』より)

『チェルカッシ』(『26人の男と一人の女』より)
ゴーリキー著

チェルカッシは、小舟に乗って高級魚の密猟を計画していた、当てにしていた助手が、体調不調で、この冒険に同行できなかったので、代わりに、ガタイのよいカヴァリーラに声をかけた。

死ぬ思いをして、チェルカッシは大金を手に入れた。

ひとの幸せは何か?
ガヴアリーラは、自由が欲しいといっていた。

チェルカッシは、一匹狼、自由気ままな人生を

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【読書ノート】『モグラハウスの扉』(『父と私の桜尾通り商店街』より)

【読書ノート】『モグラハウスの扉』(『父と私の桜尾通り商店街』より)

『モグラハウスの扉』(『父と私の桜尾通り商店街』より)
今村夏子千代

学童のみつこ先生が、工事現場のモグラに恋をする物語。

モグラ
しばしば地下で暮らすことから、努力や地道な作業の象徴と見なされる。哲学的な意味では、モグラは忍耐やコツコツとした努力が成功につながるという教訓を象徴する。

工事現場
変化や進歩の象徴。工事現場は常に進化し、改善されるプロセスを通じて、人間の努力や創造力が物事を変

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【読書ノート】『絵里のエイプリル』(『我が家の問題』より)

【読書ノート】『絵里のエイプリル』(『我が家の問題』より)

『絵里のエイプリル』(『我が家の問題』より)
奥田英朗著

絵里は、高校3年生。
弟の修平は高校1年生で、
専業主婦の母親と銀行員の父親博士の家族4人、平和に暮らしている。と思っていた矢先、母方の祖母から電話を受けた。

祖母は、電話口の絵里を自分の娘と勘違いして、博士との関係性について、早まるなと注意する。
電話口にいるのは、絵里であることを伝えると、祖母は、バツの悪そうな態度で、電話を切る。

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【読書ノート】『君本家の誘拐』(『鍵のない夢を見る』)

【読書ノート】『君本家の誘拐』(『鍵のない夢を見る』)

『君本家の誘拐』(『鍵のない夢を見る』)
辻村深月著

「ふと横を見るとベビーカーはなかった」という言葉で始まる子育てママ良江の物語。

話の途中で、先が見えてしまったのだけどね。

子供が生まれて、しばらくの間の生活の激変を思い出す。

夜泣きもあったなあ。永遠にこの夜泣きは終わらないのではないか?とか思っていたことが、懐かしい。

子供が一緒の時間は、20年程度なのにね、過程生活の大部分は子供

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【読書ノート】『夜明けのはて』(『ぎょらん』より)

【読書ノート】『夜明けのはて』(『ぎょらん』より)

『夜明けのはて』(『ぎょらん』より)
町田そのこ著

主人公(私:喜代)は、結婚して4年目で、夫(喬史)を亡くして、お通夜が、執り行われようとしているところで、物語は始まる。

喬史との出会いから結婚に至る出来事の数々を走馬灯のように物語る。

二人の出逢いは高校時代。とは、いえ、高校の頃はほとんどやり取りはなかった。

法律で裁かれない形ではあるのだけど、児童を死なせてしまったという罪の意識で、

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