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受胎告知あるいは自我の訃報
ある日私は、私自身の訃報を聴いた。しかしそれは、同時に私自身の産声でもあった。
私は私を受精し私自身を妊娠する。私は私の胎児、私は私の母親、私は私を産み落とし生まれ直す。
天使のお告げはいらない。
アダムもいらない。
私は私の創造主、私は私の聖典、私による私の堕天、私は私を磔にして三日後に私の復活祭をする。
私は私を信仰し、懺悔し、私を密告する。
そして世界は、私ひとりぽっちになった。
七つの大罪自由律俳句「傲慢」
神は自分に似せて人を創ったのにどうしてあんなに醜いの
よじ登って踏みにじって辿り着いたてっぺん行き止まり
俗世間はいやよいやよと言う俗世間
私の羽根になってくれ知らないうちにもがれていたから
「この世で一番美しい」といつもいつも言ってくれる鏡
七つの大罪自由律俳句「嫉妬」
「そういう子だから」と許されて来たからそういう子以上に成れないんだね同情するよ
うらやましいと口に出したら死んでしまうから苦し紛れの憎まれ口
嫉妬の色は緑色癒しの色も緑色あの子のワンピースも緑色
「可愛いだけ」と言われる側に生まれたかった
大きな宝石も貴重な書物も祖母の形見も全部あげるからその人の隣をゆずってよ
七つの大罪自由律俳句「暴食」
箸を運ぶ指と吐かせる指はどうして同じ指なのか
肥大する胃と比例して膨らむ虚無感
高級品も希少部位も満足させることのない飢餓感
吐いたらゼロ吐いたらリセット言うだけで通り過ぎる呪文
栄養が欲しい熱量が欲しいそれでも心は満腹にならない
七つの大罪自由律俳句「憤怒」
世界中の薔薇を全部むしってもおさまらぬ怒り
傷つくし傷つけるからと飲み込む怒鳴り声
石を投げて当たった鏡の破片で顔を切った
やけ酒したこの身に火をつけたら巴里よりも燃えるだろう
右脳は罵声を叫び続け左脳がそれをなだめている