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うつわマガジン2019

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#旅する土鍋

湖と山とパン

湖と山とパン

スイスとフランスの両親をもつ友人マガリーは三日月型の「レマン湖」にとけようとするオレンジ色の空を臨みながら言った。「ジュネーブ湖」とか「ローザンヌ湖」と土地を限定される名前で呼ぶことを望まないの。

あの山が、ほら25年前にいっしょに行った山。語尾をひゅひゅんとあげて彼女がしゃべる。母が住むのはあっち。父が生まれたのはあっち。出会ったのはちょうど真ん中よ。

国境は目には見えない。けれどしゃべる言

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旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(後編)

旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(後編)

(前編よりつづき)

後半目次

3. ドレスと口紅時速100〜 120キロくらいで飛ばせば、リグーリアからミラノまで2時間ほどで到着する。そんな道中も、おかしな話は継続的に、まじめに語られた。

ミラノに着いて一度解散。わたしは、居候している師匠宅のギャラリーの窓を開け風を通したり、洗濯物をゴソゴソやっていた。数時間後、驚くことにイーゥインちゃんは背中が大きくあいたドレスを身に着け、真っ赤な口

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旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(前編)

旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(前編)

イタリア語「スケルツォ」は「冗談」という意味かつ、音楽の世界では快活で急速な三拍子の楽曲を示す。おどけた感じが「冗談」という言葉と重なる。ショパンの「スケルツォ第2番 変ロ短調」などがそのひとつ。

前半目次

1. 肉眼と無限遠なレンズ私たちはリグーリアの海にいた。
前の晩に書いた七夕の短冊を見ながら「願いは叶うのだろうか」なんて、無限遠に合わせたレンズでもって話していた。娘のように年齢が離れて

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旅する土鍋 2019 ミラノ「いつまでもどこまでも弟子でいい」

旅する土鍋 2019 ミラノ「いつまでもどこまでも弟子でいい」

梅雨の曇天を家族に置き去りにするのは少しだけ心のこりだった。

タネをまきにゆく

長い旅も短い旅も、出かける朝に特別な雰囲気はない。妻であり母であるということは、サッカーのキャプテンがつける腕章のようなもので。いやいや、みんなそれぞれがアイデンティティの腕章をつけており、スポーツと違うのはみんなそれぞれキャプテンなので、誰が出かけても家族の動きはとまらない。

「旅」という字は、ふたつの文字か

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「旅する土鍋2019」魚醤をもとめ能登へ

「旅する土鍋2019」魚醤をもとめ能登へ

イタリアにきて一週間。出発前ぎりぎりに飛んでいった能登への旅記録をトスカーナの景色を見ながら書いているが、どうも湿度が違ってうまく書けない。

しかしながら、なぜ毎年イタリアに毎年足を運び、すぐに答えが出ない、もっとダイレクトに言ってしまえば、すぐにビジネスに結びつかない活動をしているのか。その答えが分かりやすく感じた国内の旅であったので、イタリア紀行をはじめる前に書きとめておこうと思う。

イタ

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ヨーグルトがピンク色にそまるときの味

ヨーグルトがピンク色にそまるときの味

白いまちと白いヨーグルト

春の気配がないままに3月のビリニュス(リトアニア)には真白な世界が広がっていた。眼前の景色のような真白なヨーグルトを朝食でたっぷりいただく。

リトアニアは酪農国。
古くから日本同様に発酵文化をもつ国。

塩味でいただく白い世界

ヨーグルトといえばギリシアと思われるが、ご多聞にもれず東欧もヨーグルト国家。そのひとつにヤギ皮の袋に乳と菌を入れて発酵させていたケフィアヨー

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迷宮からうまれた「旅する土鍋」

迷宮からうまれた「旅する土鍋」

あるとき土鍋をかかえてイタリアの広場に座ってまどろんでいたら、自分がどんどん小さくなって土鍋のなかに入りこんでしまった。かれこれ30年も時がながれた陶歴のなかで、うつわの迷宮にはいりこんだのは2回目だった。

1回目は30年前の学生時代、冷たいろくろ引きのうつわの中で水没しそうに慌てふためいていたが、2回目は妙に肝がすわっていた。

「このまま旅したい」そうそう、みなさんにこれを説明すると驚かれる

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旅する土鍋「リトアニア⑥」東京で見つけた瓶のなかのリトアニア

旅する土鍋「リトアニア⑥」東京で見つけた瓶のなかのリトアニア

舌のうえにのこる記憶旅先にご縁が残る場合は、意識していなくとも帰国後もかの地のあれこれが舞い込んでくるもので。

写真の瓶づめインスタント「ボルシチ」は、徒歩3分のところにあるスーパーで家族がみつけて買ってきてくれた。旅した者の余韻が、家族にも興味関心として伝わることはとてもうれしいことだ。

ボルシチ:ロシアの伝統的な料理で、鮮やかな深紅色をした煮込みスープで、ベラルーシ、ポーランド、モルドバ、

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一生かけてもこえられない師がいるから

一生かけてもこえられない師がいるから

昨年末、ミラノの師匠グイド・デ・ザンが、イタリアの出版社コッライーニから作品集「UN' IDEA DI LEGGEREZZA」を上梓した。彼は、これまでに数冊の本をだしているが、このように立派な本は初めて。

工房40周年を記念したもので、バイオグラフィから作品についてのテキスト(伊語/英語)の内容はすべて彼の偉大なる経験の賜物だ。ブルーノ・ムナーリの本を多数あつかう大好きな出版社ということで

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スープ作家 有賀薫さんトークショー

スープ作家 有賀薫さんトークショー

*有賀さんの「鍋コレクション画」に色とメモオリジナル画はこちら
⇒★わたしの鍋コレクション 有賀薫

鍋ばなし 汁の海原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする…

鍋のはなし スープ一杯のしあわせ吹けば どうしたってそのひと有賀さんを忘れやしないわということで、歌なんか詠んでないで、急げトークショーへ!!

自分のための記録として有賀さんの鍋イラストに勝手にメモを添えた。会場に持ちこまれた鍋の色も

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