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読書記録

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『モモ』が出てこない『暇と退屈の倫理学』

『モモ』が出てこない『暇と退屈の倫理学』

國分功一郎著『暇と退屈の倫理学』を読んだ。

内容はタイトルの通りだが、狩猟と定住、消費社会、疎外論(ホッブズ、ルソー、マルクス)、ユキュスクルの環世界、ハイデガーなど幅広く論じられている。文体が柔らかく、とても読みやすい。本書の後半で國分は、ハイデガーの退屈論による退屈の分類を紹介しながら、それらを批判的に読み解いていく。

ハイデガーによる退屈の分類と國分の指摘

本書のメインとなるのが、ハイ

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弱さが持つ可能性『〈弱いロボット〉の思考』から

弱さが持つ可能性『〈弱いロボット〉の思考』から

前回の記事で紹介した岩内章太郎の『〈私〉を取り戻す哲学』では、後半部分で岡田美智男の〈弱いロボット〉が紹介されていた。

そこで気になって彼の書籍を2つ読んだ。

『<弱いロボット>の思考』の方が、出版年としては新しい。重複している部分もあるが、それぞれの本で、ロボットの開発の過程が詳しく描写されていて面白い。テレビでも取り上げられたようだ。

筆者は<ASIMO>の歩行スタンスに注目し、<静歩行

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最近の哲学の動向も?『〈私〉を取り戻す哲学』を読んで

最近の哲学の動向も?『〈私〉を取り戻す哲学』を読んで

年末、久々に新書を2冊読んだ。1冊は小坂井 敏晶『格差という虚構』、もう1冊が岩内 章太郎『〈私〉を取り戻す哲学』だ。前者はかなり議論が込み入っていてまとめるのが難しい。今回は後者について、雑感をまとめておこうと思う。

筆者は、現代社会の特徴として、「動物化」と「善への意志」を挙げる。

また、哲学の動向として、構築主義(ポストモダン思想)とは異なる思想が登場しているとして、マルクス・ガブリエル

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「人それぞれの社会」は「よい社会」か(『「人それぞれ」がさみしい』感想)

「人それぞれの社会」は「よい社会」か(『「人それぞれ」がさみしい』感想)

「人それぞれ」。私たちのコミュニケーションの潤滑油のような役割をはたしているように思えるこの言葉。筆者は「人それぞれ」をキーワードに社会や私たちのコミュニケーションのあり方に切り込む。

青年期の研究分野で代表的な人物として挙げられるのがエリクソンだ。彼によると、青年期とはアイデンティティ(自我同一性)を確立する時期とされる。

しかし、近年の若者の友人関係の特性として、「気遣い」「ふれあい回避」

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読書記録『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 下』

読書記録『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 下』

引き続き『ファスト&スロー』の感想。今度は下巻。前回の記事はこちら。

・内部情報に基づくアプローチ…自分たちのプロジェクトの状況だけで判断する
→「見たものがすべて」の状態になっている。
・計画の錯誤…プロジェクトの成り行きを過度に楽観的に見積もる

・楽観主義を克服するためには~死亡前死因分析~…システム1の自信過剰を完全に支配することはできない。しかし、手がないわけではなさそうだ。

この方

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読書記録『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 上』

読書記録『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 上』

前回読んだ『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』の解説で、次に読む本として『ファスト&スロー』が薦められていた。ということで文庫本2冊に分かれているこの本を読んだ。

人間の思考を、直感的思考のシステム1と熟慮熟考のシステム2に分け、いかにシステム1が素早く、だが時に勘違いや置き換えによるミスを犯すのかを様々な事例をもとに紹介していく。

・ありふれた身体的な動作が私

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読書メモ:ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』

読書メモ:ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』

行動経済学の本として有名なこの本。ようやく読み切ることができた。結構ボリュームがあったが、内容は平易で読みやすい。

トピックは様々なのでいくつかメモを。

まずは、私たちが価格というものにどのように反応するか。人々はかつて触れた価格に影響を受ける(アンカリング)をふまえた説明。

人間は、思ったほど合理的ではない。ならば経済学での市場価格の意味合いも変わってくるということだ。

次は、無料!の力

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難解、現代思想

難解、現代思想

久しぶりに本を読んだ。千葉雅也の『現代思想入門』(講談社現代新書、2022年)。以前に本屋に立ち寄った際に面白そうと思い買った本だ。

取り上げられている人物としては、デリダ、ドゥルーズ、フーコー、ラカンが中心。正直、フーコー以外は今まであまりまとまった説明を読んだことがなかったのでこれを機に少しでも理解が進めばいいなと思って読み始めた。

デリダといえば「脱構築」というキーワードが有名で、善/悪

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読書メモ『人的環境のユニバーサルデザイン』

読書メモ『人的環境のユニバーサルデザイン』

なかなかありそうでなさそうなポイントに触れていそうだと思い購入した。ざっくり読んだところ、小学校の教育にフォーカスしている内容だと感じた。以下重要だと感じた部分のメモ。

教育のユニバーサルデザインには3つの要素がある。
① 教室環境のユニバーサルデザイン:黒板周辺の刺激量の調節
② 授業のユニバーサルデザイン:視覚化、焦点化、共有化の工夫
③ 学びやすい学級の空気管の醸成 
(10頁)

ファシ

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「声」を伝える文学 アレクシェービッチ『チェルノブイリの祈り』

「声」を伝える文学 アレクシェービッチ『チェルノブイリの祈り』

2015年にノーベル文学賞を受賞したアレクシェービッチ。代表作『戦争は女の顔をしていない』で知られている。

今回は彼女のもう一つの代表作、『チェルノブイリの祈り』を読んだ。

旧ソ連のウクライナ領で起きた原発事故。その事故を様々な形で体験した人々(多くはベラルーシに暮らしている)に対して取材を行い、彼らが語った言葉をそのまま叙述していくスタイルが取られている。

冒頭のインタビューの語りから引き

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読書メモ『承認をめぐる病』

読書メモ『承認をめぐる病』

2週間ほどかけてちまちま読み進めた。

率直な感想としては、読みやすい章とそうでない章の差が大きいというものだ。教室内での「キャラ化」をめぐる分析など具体的なイメージを持ちやすいものもあれば、専門誌に寄稿した文章がもととなっているためか専門用語が多くでてきてあまり理解できない部分もそれなりにあった。承認、キャラクター、実存、こうしたキーワードに着目して現代の社会問題を読み解いていく手法自体はとても

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話題の本(『人新世の「資本論」』)

話題の本(『人新世の「資本論」』)

前から話題になっていた『人新世の「資本論」』。

何となく気になっていた本であったが、2021年度の新書大賞に選ばれたことで読んでみようと思い購入した。

ざっくり内容を振り返ると要点は以下の通り。

・今の気候変動には資本主義のままでは対応できない(グリーンニューディールなども結局は消費を喚起する)。

・従来の理解とは異なり、晩年のマルクスには脱成長コミュニズムという思想が生まれていた。

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民主主義とは何か

民主主義とは何か

宇野重規『民主主義とは何か』をちまちま読んでいて、ようやく読み終えた。仕事で疲れるとどうしても本を読む気力がなくなってしまう。

日本学術会議の任命拒否をめぐる問題で一躍時の人となった著者だが、本の内容はいたってスタンダードな印象を受けた。

 この本は「民主主義は正しい」という前提の下、これを解説する教科書的なものにみえるかもしれません。
 しかしながら、本書を書き上げて思うのは、むしろ民主主義

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マイケル・サンデルの本を読んでみる(『これから「正義」の話をしよう』)

マイケル・サンデルの本を読んでみる(『これから「正義」の話をしよう』)

はてなブログに書いたものをこちらにも投稿。

10年前ほど前、NHKでハーバード白熱教室という番組が放送されていた。じっくり見ていないのであまり詳細は覚えていないが、大ホールでサンデル教授が大学生たちと討論しながら哲学について学ぶ内容だったと思う。

哲学に関する本はいくつか読んできたものの、サンデルについては何となく池上彰的な雰囲気を感じていて(どちらにも失礼!)、彼の著作を敬遠していた。

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