記事一覧
『1Q84』から読み解く『スプートニクの恋人』
序論1.捨てられた鍵の合い鍵を拾う
”「あなたがこれから足を踏み入れようとしているのは、いうなれば聖域のようなところなのです」
「聖域?」
「大げさに聞こえるかもしれませんが、決して誇張ではありません。これからあなたが目になさるものは、そして手に触れることになるものは、神聖なものなのです。ほかにふさわしい表現はありません」”(1Q84 BOOK2)
これは『1Q84』の中盤、青豆が「さ
【短編小説3000字】ハシゴから飛ぶ夜の結末
ひとりの男が肩にハシゴをかついで夜道を歩く。
たたんだ状態で男の身長の四、五倍はあろうかという錆色のハシゴ。
男の歩調にあわせて、ガシャガシャという金属音がうるさく響く。
男は白のタキシードに白のシルクハット、胸にはお決まりの赤い薔薇をさして、愛する女(なんとボスの一人娘)をロマンティックにかどわかしに行くところ。
男は女が住むマンションの前まで来ると、彼女の寝室の窓にハシゴを伸ばして、いそい
Re:1Q84 BOOK3
1. 序論
Re:1Q84 BOOK3を書くにあたって、前回分をRe:BOOK1,2、今回の文章をRe:BOOK3と呼ぶことにする。
先に私は、1Q84 BOOK1,2をひとつの完結した物語とみなして、Re:BOOK1,2を書いた。
ではBOOK1,2とBOOK3が別の物語なのかというと、そうではない。
1984年と1Q84年が別の世界であったのと同じように、BOOK1,2とBOOK1
Re:1Q84 BOOK1,2
1. もうどこにも存在しない物語
『1Q84』は今でこそBOOK1,2,3で一揃いの物語として認識されているが、刊行当初は決してそれが当たり前ではなかった。
そこには、まずBOOK1,2の二巻が同時に出版されて、続編の有無については何の言及もない、という時期がおよそ半年ほどあったのだ。
そのごく短い期間だけ、人々は『1Q84』を(読み終わったあとにどのような感想を抱くかは別として)とり
帰納と驚き 第2章 グルーのパラドクス
私たちは前章で、すべての知識が前提からの帰納によって獲得されることを確認した。
続く本章では、帰納推論の抱える欠点とされてきた「グルーのパラドクス」を例に「知識は、その対象を前提とした帰納によって得られるものでなければならない」ことを確認しよう。
そのうえで、本稿において帰納に次いで重要な意味合いを持つ「物語」という概念にほんのさわりだけではあるが触れておく。
グルーのパラドクスの概要 グ