記事一覧
『ミッドナイト・レディ』
真夜中に一人佇んでいるような人だ。
黄昏時、彼女の運転する車に乗せてもらうと、夜に連れてゆかれるような錯覚を覚える。夜の帳が、彼女を迎えに来ているかのような。彼女はあたりが暗くなるごとに、少しずつ口数を増す。蕾が綻んでいくかのように、本当の姿を取り戻す。
ハンドルに手をかける彼女の白い指には、夜色のレースがかけられている。月明かりに透かされて、大粒のスワロフスキーがレース越しに光る。水面を湛え
『涙の海でバカンス』
自分でいるのをやめたい。
どうしてだろうね。
こんなに愛しているのに。
私は可愛くて、賢くて、才能があって、魅力的で、とっても素晴らしい人間なのに、今は少し、私が私であることに疲れてしまった。
自分ではどんな自分も素敵だと思っているし、それで十分だと思うのに、他人からどう見えるかを気にするのがやめられない。気にしても仕方がないとは思うけど、気にする価値がないとはどうしても思えない。他人からど
『夜霧に包まれた永遠』
永遠を走る夜行列車へのご乗車ありがとうございます。
ご乗車のお客様には永遠に、貴方の望む全てをお約束いたします。
窓の外には見渡す限りの星の海が煌めいて、どこからか聞こえるアナウンスの声は、その全てが私のものだと言う。
うーん、そうしたら私はどうしようか。まず、友達がほしいな。心の底から分かり合える、一生の友達。
そして恋人。尊敬できる高潔さと、他人の痛みを理解出来る優しさを持ち合わせてい
『スターライト・レディ』
年下の友人ができた。30コ下の。
若いのに、仕草が綺麗な女の子。身につけるものがお店では見かけないものだから、訊ねると彼女の手作りなのだと教えてくれた。控えめながら美しく個性的なそのブレスレットのように、彼女自身もまたそうなのだろう。
彼女はよく、自分は平凡だと言う。言い聞かせるような言葉にも聞こえるし、彼女ではない他の誰かの言葉にも聞こえる。あるいは、かつて私にも聞こえていた言葉。自分は世界
『はぐれ人魚の耳飾り』
海の中は窮屈だ。お日様を食べて生き、流れのない深海で眠る、私たちに合う環境は広い海の中でもほんの僅かだ。大きな海流に守られた安全な場所で暮らすうちに退化したこのヒレじゃ、そう遠くへはゆけない。私たち人魚はひとたび海流に迷い込めば、どこまでもただ流されて海の藻屑になるしかないと聞かされて育つ。そうして安全ではあるけどどうしようもなく退屈な、この狭い世界に閉じ込められた私たちは、互いに愛し合ったり憎み
もっとみる