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エッセイ(思い出から)

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雨の日に

雨の日に

記憶をたどってみると雨の日の光景は断片的にいくつか思い出せる。

一番古いのは小学生。
田んぼ道を、傘をさしながら帰る。
赤ちゃんがえるがあちこちでぴょんぴょん跳ねている。
ピンク色の長靴を履いたわたし。
小さなかえるを踏まないよう、つま先立ちで歩く。
あまりにもたくさんいるからヒヤヒヤして、息を止めて歩いた帰り道。
アスファルトで跳ねるチビガエルと雨水の光景。

それから中学生の頃。
片想いして

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たんぼラバー

たんぼラバー

わりと自然の多いところに住んでいる。

車で3、40分走れば海にも山にも行ける。
山まで行けば透明な水が流れるきれいな川もある。
海も山も川も好きだ。
わたしは『やまかわうみ』だし。

でも山っ子でも海っ子でもない。
わたしはきっと「田んぼっ子」だ。

物心ついた頃から田んぼはすぐそばにあった。
カエルの大合唱は聞こえて当たり前の環境。

祖母はお米を作っていたし、家から少し歩いていけば田園風景が

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父とねこ

父とねこ

古い記憶。
それはまだわたしがおそらく5、6歳のころの。

父と幼いわたしは散歩に出かけた。

花が咲いていた。
わたしはそれを時々摘んでは歩いた。
季節は春だったのか、秋だったのか。
それとも夏の夕方なのか、寒くなかったことだけはなんとなく覚えている。

にゃー。

道よりも低いところから鳴き声が聞こえた。
父と声のする方へ近づいていくと、深い側溝の中にねこがいた。
フタはされていなくて、どうや

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カラオケ現在過去未来

カラオケ現在過去未来

数ヶ月ぶりに1人でカラオケへ行った。

今日はとにかく90年代から2000年代初期の曲をうたいまくった。

My Little Lover、JUDY AND MARY、椎名林檎、Cocco、川本真琴、一青窈。
調子に乗ってSPEEDまでうたってしまった。
ラップの箇所はさすがにキツかったなあ。
まさに誰も止められないボディーアンドソウル。
たのしいし誰も見てないからいいのだ。

小中学生の頃、今は

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金木犀の香りにこじつけた恋の話

金木犀の香りにこじつけた恋の話

今年も金木犀の香りがどこからともなく漂うようになった。
もうこの季節がきたのか、早いなあ。

この香りで思い出される中学生の頃のエピソードは一年前のこちらのnoteに書きました。↓

https://note.com/hondaaam/n/nd19d41021c1b

わたしにはもう一つ金木犀にまつわる恋の思い出がある。
無理矢理に思い出にしたと言ってもいい。
今日はそのお話を。

彼に出会ったの

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バレンタイン、「まっすぐ」が人の気持ちを動かす瞬間を見た

バレンタイン、「まっすぐ」が人の気持ちを動かす瞬間を見た

「あなたは誰の絵が好き?私はモネが好き。」

そう言われて私の頭の中は?で埋め尽くされた。
なになに誰の絵?曲じゃなくて?もねって何??

小学校三年生の時、クラスに転校生がやってきた。
彼女の名前はナナちゃん。
真っ白い肌に焦げ茶色の髪をポニーテールにしている。
フランスからの帰国子女だった。

それはそれは驚いた。
彼女は誰に対しても臆することなく「まっすぐ」に自分の意見を言った。

思っても

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電車でツナマヨおにぎり+ビールという希望

電車でツナマヨおにぎり+ビールという希望

ふらりと出かけるのが好きだった。
思いつきで電車に乗り街まで、あるいは海や山へ。

まだ子どもがいなかった10年以上前のこと。
電車の中、となりにいるのは親友。
彼女とは小学生の頃からの付き合いになる。

子どもの頃から仲が良かったわけではない。
本格的に仲良くなったのは成人式で再会してからで。
お酒を飲みに行こうと誘われ、そこでやっと意気投合、親友そして大好きな呑み友達となった。

朝、電車に乗

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かつて住んだ家について

かつて住んだ家について

新婚時代、長男を授かるまでの3年間住んでいた家がある。
かつて親戚が住んでおり、空き家になっていた。
築50年の古い家は所々傷みがきており、少し手を入れて住ませてもらっていた。

昨日は結婚式を挙げてから11年の記念日で、その家のある街までドライブした。

その家の前を通るかどうか迷った。
もう親戚のものではなく、他の誰かの手に渡っていた。
もし解体されてたら…
新しい家が建っていたら…
なんかさ

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キンモクセイの香りと共に思い出す風景

キンモクセイの香りと共に思い出す風景

秋が一番好きだ。
特に金木犀の香りがあちらこちらから漂ってくる今の時期。
金木犀そのものを確認できなくても香りは街中に充満しているのではないか思うほど。
風に乗ってふわりと濃い香りに包まれると、その昔から知っている季節感にしばらくうっとりとしてしまう。
こうやってポチポチと文字を打っている今も、窓からかすかに甘い香りがする。秋は良い。



キンモクセイ 君の香りと 間違えた

この季節の訪れと

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MY LITTLE LOVERと、えりちゃんのことを少しだけ

MY LITTLE LOVERと、えりちゃんのことを少しだけ

「悲しみのため息」も「ひとり身のせつなさ」もピンとこなかった。

小学生。まだ運動場でけいどろ(地域によってはどろけいと言うらしい)をすることが一番の楽しみだった私には、年頃の女性の憂いを帯びた複雑な気持ちが分かるはずもなかった。

歌詞には共感できなかったが、メロディーを耳にした瞬間、一目惚れならぬ「一聴き惚れ」をした。

悲しみのため息 ひとり身のせつなさ
抱きしめたい 抱きしめたいから

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うらない

うらない

彼とは長く続きそうよ。

さびれた商店街の中にあるお店。たこ焼き、たこせんとマジックで書かれたそのとなりに「占いできます」とある。

高校生のころ、このお店の占いが当たると話題になった。

友達に誘われた。以前から気になってはいたので二人でそのお店に寄って帰ることにした。

占ってくれたのは、パーマのかかった髪を後ろで一つにまとめ、淡い色のチェック模様のエプロンをしたおばちゃん。前ポケットにはネコ

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祖母の家

祖母の家

祖母の家がなくなった。

「一つの時代が終わったんや。」

父が芝居がかった口調で言ったので盛大にため息をついた。驚いた。なぜ教えてくれなかったんだと思った。

以前から壊そうかと話していることは知っていた。でもいつの間に実行されていたんだ。体から力が抜けていくのを感じた。

祖母の家。それは私の亡くなった母が育った家でもある。

母は四人兄弟の一番上で、妹が二人、弟が一人。祖父は若くして病気で亡

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車をぶつけたおじさんと少しだけ心を通わせた話

車をぶつけたおじさんと少しだけ心を通わせた話

日曜日、その場所を通ってしまった。

もう10年以上前のことだ。その場所で私は軽い接触事故を起こした。

T字路を左折しようとした。その道は交通量が少なく油断してたのと、おそらくぼんやりしていた。

右をしっかりと確認せずに左折した。のだと思う。正直記憶にない。気付けば私の車の右前あたりに、別の車がぶつかっていた。

やってしまった。

ぶつかった車には60代くらいのおじさんが一人で乗っていた。私

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先輩にムシされた日の話。

先輩にムシされた日の話。

怖い先輩がいた。

私は中学二年生だった。その先輩とは部活も違ったし、特に接点はなかった。

ただ学校の決まりで「登下校中、先輩に会ったら必ずあいさつしましょう」となっていた。だから偶然会う事があればあいさつした。

その頃、世の中では同世代の子達があちこちで事件や問題行動を起こし、「キレる中学生」なんてテレビで騒がれていた。

そんな報道を眺めて、ますますこの先輩に対する恐怖感が増していった。そ

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