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食 :: レシピ的な

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#エッセイ

紙・包・鶏、彪|ペーパーチキン

紙・包・鶏、彪|ペーパーチキン

こう蒸し暑い日が続くと、私はたまらなくシンガポール料理が食べたくなる。親しみやすい味わいに、ほどよい異国情緒も楽しめて、何はともあれビールに合う。料理名がカタカナ語的なところも馴染みやすくてとても楽しい。ところが、名前のイメージで頼んでみると、想像していたものとはやや違う料理が運ばれてくる。しかも、おいしさはその想像を優に超えてくる。そんな一筋縄でいかないところもシンガポール料理の魅力。

名物料

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タコのマリネと、断捨離と写真の話。

タコのマリネと、断捨離と写真の話。

巣ごもり生活、時間があるので普段できないことを、と思っていた割には、なかなか進まないまま、自粛も解除。

主に断捨離系。洋服に、本や雑誌に、過去の写真に、書類。
本と洋服は少し進んだものの、写真と書類が……。

特に写真は、昔々、写真家の長嶺輝明さんの写真教室に通っていた頃のポジフィルムやスライドがそのままそっくり残っている。
当時はフィルムカメラ。
テーマに添った写真を撮って、月1回、これぞ、と

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赤パプリカのオイル漬け #夜更けのおつまみ

赤パプリカのオイル漬け #夜更けのおつまみ

その家を訪れたのは秋から冬へと向かうころだった。

州の中で一番寒いと聞いてはいたけれど、着いてみたら確かに寒い。前日までは別の農家で、半袖に汗だくで草むしりをしていたのが嘘のようだ。あわてて冬物のダウンを着込む。

わたしはそのとき、オーストラリアで田舎の家庭を転々としていた。家の仕事を手伝うことで食事と宿泊場所を得られるしくみを使い、長い旅をしていたのだ。

新しい家では、すでに韓国と台湾の子

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カリフラワー鎮魂曲【カリフラワーのオリーブオイル炒め】(レシピエッセイ)

カリフラワー鎮魂曲【カリフラワーのオリーブオイル炒め】(レシピエッセイ)

ピンポーン

ピンポンピンポン、ピンポーン

 朝10時だっていうのにインターフォンが鳴る。大体、こういう落ち着きのない押し方をする人は、申し訳ないけれど、あまりお呼びでない人か、緊急事態発生で、とりあえず助けを求める切羽詰まった人、荷物の配達を一分でも早く終えて次の配達先へ向かいたい人がほとんど…答え合わせに玄関側の窓の内側から目だけそっと覗かせて外を見てみる。

「おはよぉぉ……」

 気の抜

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湯気までおいしいシュウマイ 【私のレシピノートから】

湯気までおいしいシュウマイ 【私のレシピノートから】

お店で食べるシュウマイのイメージは小さなセイロに3個入り、2人連れならまず1個ずつ取り残る1つをどうぞどうぞと譲り合う。やや大ぶりのが2個という店もあるし、定期的に足が向くだんだんめんの店は1個から頼めて男性客の多くは2個頼みそれにだんだんめんとサービスライスでご満悦。崎陽軒のシウマイ弁当を開けると「5個も!」と喜んでしまうぐらい不思議とシュウマイは数が少なめ設定のお店が多い。

なので一度好きな

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おばあちゃんの手 〜山菜の話〜

おばあちゃんの手 〜山菜の話〜

山菜の季節なので、張り切って山菜を故郷から取り寄せてはせっせと料理している。

山菜は、買うと結構いい値段するけど、田舎ではそこら辺に生えているご馳走だ。旬の時期に小一時間も沢や山、林の中を歩くとカゴ何個分も取れたりする。

さらには、各地区に山菜採り名人がいて、いただくことも結構ある。もらってばかりでは悪いので、代わりに畑でとれた野菜や、これもいただきものなんだけどの食べもの、沢山作った郷土菓子

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雨の日にはイワシの塩焼きと……

雨の日にはイワシの塩焼きと……

一昨日の夜から降り続いている雨。場所によっては豪雨に見舞われて被害も出るほどだが、幸い我が村周辺は、程よくチピチピと降ってくれている。恵みの雨と呼びたいところだけれど、そろそろ各地のワイナリーでスタートしているブドウの収穫に影響しませんように……。

ところで、雨の日になると食べたくなるものがある。それは、

『イワシの塩焼き』

どうして雨の日にイワシ?

そう思うはず。私もそう思った。

『こ

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染みわたる、秋。 【秋刀魚の炊き込みご飯】

染みわたる、秋。 【秋刀魚の炊き込みご飯】

旅の朝はなぜかやたらとお腹が空く。
さっき起きてまだ東京駅に着いただけ、なのにお腹はもうペコペコで、夜が明けきらないうちに家を出ないと間に合わないような新幹線も、旅の一食目となる駅弁を思えばなんのことはない。
旅先に着けば着いたで食べたいものがあるし、そうは言っても駅弁を食べない旅は寂しいからまず朝食と称して駅弁を差し込める早朝の出発は、朝がめっぽう強い私には好都合。

駅弁と普段目にする市販のお

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義母の味、母の味、私の味【イワシの酢漬け】(レシピエッセイ)

義母の味、母の味、私の味【イワシの酢漬け】(レシピエッセイ)

今、イワシを手開きにしている。

鰓が鮮やかな赤色で、青く反射する背がピンと張っているのが新鮮な証拠。指先で鰓と下顎の部分を除いて、頭を外し、人差し指で内臓をかき出す。安価で手が届きやすい上、栄養価の高い青魚。思えば、スペインに来て、最初に教えてもらった料理が、この『イワシの酢漬け』だった。

私が一尾捌く間に四尾も捌いてしまう義母の手際良さ。慣れない私の手の動きは悲しいくらいに鈍く、折角の新鮮な

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切る。焼く。食べる。秋の味覚を丸ごと楽しむバレンシアの風物詩【焼きカボチャ】

切る。焼く。食べる。秋の味覚を丸ごと楽しむバレンシアの風物詩【焼きカボチャ】

夏が去り、広葉樹の葉が緑から黄色へと移り変わり、美しい色遊びを楽しませてくれる季節。

この時期になると決まって、小さなガレージの扉を潜り抜ける。お世辞にも清潔感があるとは言えない薄暗いガレージの奥から、ロリおばさんの「ハーイ!ちょっと待って!」という声と、左後足の短い老犬チワワの甲高い吼え声が一緒になって私を迎えてくれる。

この店ときたら、営業日も定休日も決まっていなくて、昨日、来たらお休みだ

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