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story アズと子ヤギ〜本当の気持ち〜

story アズと子ヤギ〜本当の気持ち〜

アズは時々
牧草地に行って
子ヤギが群れの仲間と
過ごす様子を見ていた

子ヤギはアズに気がつくと
そばへ寄ってくることもあれば
草を食んだままのことや
仲間のそばで佇んだまま
アズを見つめるだけのこともあった

アズはお父さんの言葉を
聞いてから

子ヤギが幸せなら
それで良いと思うように
なった

私たちは私たちの
楽しかった思い出が
あるものね

子ヤギはアズの
そんな気持ちが
分かるのか

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story アズと子ヤギ〜不自由な右足〜

story アズと子ヤギ〜不自由な右足〜

アズはひとり牧草地にいた
膝に乗せて抱いているのは
母親を亡くしたヤギの子
唯一アズが心許せる友だち

アズは右足が不自由だった
歩き始めたばかりの頃
農作業中の母の元へ行こうとして
農耕用の車輪に踏まれた

小さなアズは家の中で
お昼寝をしているはずだったし
作業場に近づいても
誰の目にも入らず
気づかれなかった

突然の鳴き声で
大人たちは青くなった 
急いで町医者に
診てもらったけれど
右足

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story おばあちゃんの幸せ

story おばあちゃんの幸せ

おはよう

目が覚めると
おばあちゃんは
窓の向こうの
おひさまに
挨拶をした

カーテンをあけると
おばあちゃんは
ゆっくりベットから
おりて着替えをした

読みかけの本も
編みかけのストールも
ベットの脇のランプの横で
昨日のままに重なっている

変わらないって
良いことね

だってこんなに
安心するもの

春になって
ずいぶんと外が
明るくなった

ひばりの声がする

おばあちゃんは
レース

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マルルの詩

マルルの詩

花が咲いた

鳥は空で
鳴き渡り

君は外へ
若草の道

光の方へ
歩き出す

もう少し

大きくなるまで君を
こうして傍で
見ていたい

神さまどうか
この世界に

私の声を
届けて下さい

この子の傍で
もう少し

見守る親で
いさせて下さい

教えたいことが
たくさんある

連れていきたい場所が
たくさんある

何より君と
これからも

君が見つける世界について
もっともっと
話したい

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story ウロに棲むものは

story ウロに棲むものは

ロンロン ロンロン…
ロンロン ロンロン…

あぁ、あぁ
ほらまた
聴こえてきたよ

ロンロン ロンロン…
ロンロン ロンロン…

どうしてこうも
寂しげなのさ

ロンロン ロンロン…
ルールル ルールル…

古木のウロに棲むものは

ロンロン ロンロン…
ルールル ルールル…

哀しい唄が好きなのさ

ロールー ロールー
ロンロンロンロン…

これぢゃあどうも気が滅入る

あたしは結構気に入って

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story 空の騎士

story 空の騎士

ふたりの騎士が矢を強く引き絞り遠く向かい合っている

流れる風が草原を緑の海原にして日差しがそれを淡く波立たせる

ふたり間には深紅の旗を高くかざした兵士がひとり

今まさにその旗を振り下ろそうとしたその刹那

一方の騎士がその旗めがけて鋭く矢を射放った

ヒュオと矢は鳴きながら兵士から深紅の旗を奪い攫った

と同時に向こうからも射られた矢が旗を射った騎士のマントを引き裂きながら流れ去る

戦は終

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story もうひとりのボク・それから

story もうひとりのボク・それから

ボクはまだ

ボクの双子に
会えてないんだ

どこにいるんだよ

どこに…

暗くなる街に
イルミネーションの
灯が灯る

また宇宙が1度傾いた

この星に…

今度
来れるのは
あと237年後なんだ

街の灯りは
ニコリともせず
白く光った

少年は
黒く照る
アスファルトを
何処へともなく
歩いて行った

story やさしい庭

story やさしい庭

草原が広がっている

遠くの樹々が
風にそよいで
心地よく
葉ずれの音を立てている

誰もいない草原に
可憐な花が揺れている

私はようやく
水に戻った魚のように
ほっとして
ひとり草に腰を下ろした

ここはなんて
静かだろう

空の色は淡く
やわらかな光が
小さな粒のように
舞っている

ことばは
ここでは
あの光の粒のように
音もなく

ただ空の色になり
肌をくすぐる
葉のように

私のそばに

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story とり と さかな

story とり と さかな

すいー
すいー

さかながいっぴき
みずのなかを
きもちよさそうに
およいでいました

すると

すいー
すいー

そらのほうに
うごくものがみえました

・・・・・

なんだろう?

さかなは
うごくものがきになって
すいめんのちかくに
かおをだしました

こんにちは

さかなはこえをかけました

こんにちは

きもちよさそうに
うごいていたのは
そらをとぶ
とりでした

・・・・・

とりさん

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story 炎と風と、雨と大地と

story 炎と風と、雨と大地と

炎は燃える
上へ上へと

辺りのものを巻き込んで
徐々に盛んになっていく

風を起こして
巻き上がる

俺の力はすごいだろう
今をときめく大将だ

そこへ静かに
雫が落ちる

ポツリポツリと
辺りを濡らす

私を呼ぶのは
何処の誰?

冷まして欲しいと
呻くのは…

雨はそぼ降り
辺りを濡らす

あぁ、何するんだ
俺の火が…

どんどんどんどん
消えていく…

風はいつしか治まって
潤んだ大地が息

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story 地の民

story 地の民

儂らはここで生きてきたのだ

あの星が見えるかい

古来あの星は天にあって
変わることなく
儂らを見てきた

儂らもまた
あの星を見てきた

根を張り潜む
蔓草のように

風雪さえも
唄に変えて

儂らはここで生きてきたのだ

story 言の葉と少年

story 言の葉と少年

ただのひとりごとだよ
じぶんでもわからないんだ

少年はポツリと言った

だからあとでよみかえすんだ
それはどこからきたのかと

それからじっくりひたるんだ

このなまあたたかいかんしょくが
ボクもしらないボクなんだ

story My grandma

story My grandma

おばあちゃんはひとり
山で暮らしていた

薬草や香草
木の実なんかを集めて
昔ながらの煎じ薬を作っていた

山道を登って少し開けたところに
おばあちゃんの家はあった

樹々の切れ間に
木漏れ日がさして

近くの沢から
涼やかな風が吹いてくる

時折り小さな動物たちが
家の側を横切って行った

鳥たちは楽しげに
囀りながら空を舞った

幼い頃の私にとって
そこはまるで別の世界に来たようで

少し怖い

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story 星の船

story 星の船

少年がひとり
静かな夜の浜辺で
大きな月が波間を照らすのを見ていた

遠く近く打ち寄せる波が
重なり合うように音を響かせている

少年はふと
何かを聞いたような気がした

…まもなく開く…

活気のある慌ただしさが
少年を包み込んでいく

…荷物は積んだか、そろそろ船出だ…

男たちがそれぞれの持ち場で
忙しく働いている

…船員はそろったか…
…まだひとり、来ていません…

少年は不意に
肩を強

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