生津直

在宅会社員。プロ作家志望。率直なご感想・ご指摘歓迎。

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ナバホの谷の赤い砂【短編小説】

 なぜ、この砂だったのか。  指の間をさらさらと通り抜ける感触自体は、さほど特別なものとは思えなかった。  その昔、似たような手触りを幾度も経験したはず。それな…

生津直
3年前
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幕【短編小説】

 夫が浮気していた。三十近くも年下の彼女と、濃厚な口づけを交わしていた。ねっとりと腕を絡め合い、安っぽいラブホテルへと消えた。  その光景を目にしたショックはし…

生津直
2年前
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窮鼠SをM【短編小説】

 男は一本鞭を好んだ。使い込まれた自前の本革製。長さはせいぜい私の片腕ほどか。勢いよく振り下ろしても、ボスッ、と鈍い音がするだけであっけない……と思いきや。  …

生津直
2年前
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今では一滴も飲まない私が昔入りびたっていたバーの話 【エッセイ】

 行きつけのバーがあった。  すっかり手足になじんだカウンター席で日付をまたぐ頃になると、メニューにはないカレーライスなんかが「まかない」として私にも振る舞われ…

生津直
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彗星が迎えに来る日まで #ナイトソングスミューズ

あのときなぞった 星座をおぼえているかい 肩よせあって 怖いような静けさ ふるえていたのはきっと きみだけじゃない ずっと求めていた  魂のかたわれ やっとこうして  …

生津直
3年前
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ペアリング【短編小説】

(注:若干の残酷・不快描写があります。苦手な方はご注意ください。) *******************************************************************************  僕としたこ…

生津直
3年前
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解像度、上げるべからず【短編小説】

 私、実はこういうわけで欲求不満です。そう公言することがはばかられる類の欲求不満というものがある。  私にとっては、「素朴な、しかし提起すべきでない疑問」がそれ…

生津直
4年前
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ナバホの谷の赤い砂【短編小説】

ナバホの谷の赤い砂【短編小説】

 なぜ、この砂だったのか。

 指の間をさらさらと通り抜ける感触自体は、さほど特別なものとは思えなかった。

 その昔、似たような手触りを幾度も経験したはず。それなのに。

 あの昼休みの校庭の砂場や、あの真夏の海水浴場と、何が違ったのだろう。

 なぜ、この砂だったのか。未だにわからない。

 これほど多くを見聞きし、多くに触れた一世一代の旅の中で、一体なぜ。

 

* * * * * *

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幕【短編小説】

幕【短編小説】

 夫が浮気していた。三十近くも年下の彼女と、濃厚な口づけを交わしていた。ねっとりと腕を絡め合い、安っぽいラブホテルへと消えた。
 その光景を目にしたショックはしかし、自分でも驚くほど小さかった。ああ、ついに来たか、と。予感はもう長いことそこにあったから。

 二人の仲むつまじい様子は、いやというほど見てきた。見つめ合い、語り合い、笑い合うあなたたちを、間近でずっと。人並み以上に嫉妬したのは、親愛の

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窮鼠SをM【短編小説】

窮鼠SをM【短編小説】

 男は一本鞭を好んだ。使い込まれた自前の本革製。長さはせいぜい私の片腕ほどか。勢いよく振り下ろしても、ボスッ、と鈍い音がするだけであっけない……と思いきや。

 四つん這いになった全裸男のいたいけな尻は、真っ赤に腫れ上がって私の邪悪な吐息を誘った。これほど美しい鞭痕は初めて見る。色白の男に無慈悲な道具。マスカレードマスクの下で、私の情欲がギラリとほくそ笑む。

「ああ、かわいい、きれいに色付いて。

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今では一滴も飲まない私が昔入りびたっていたバーの話 【エッセイ】

今では一滴も飲まない私が昔入りびたっていたバーの話 【エッセイ】

 行きつけのバーがあった。
 すっかり手足になじんだカウンター席で日付をまたぐ頃になると、メニューにはないカレーライスなんかが「まかない」として私にも振る舞われる。それぐらいには行きつけていた。

 地下鉄の終電が0時前後。私が店内でテッペンを越えるのはすなわち「今日はタクシーだからもうちょい飲ませろ」のサイン。店員は皆それを承知していて、いよいよ腰を落ち着けた私をもてなしてくれたものだ。閉店時刻

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彗星が迎えに来る日まで #ナイトソングスミューズ

あのときなぞった
星座をおぼえているかい
肩よせあって
怖いような静けさ
ふるえていたのはきっと
きみだけじゃない

ずっと求めていた 
魂のかたわれ
やっとこうして 
めぐりあえたから

息たえるまでぼくは 
この手を離しはしない
彗星の尾っぽに願いを
かけた夏の夜
       
不意に時間が止まって 
まよい子のように
目がさめたよ 
宇宙の片隅で

きみに一度でも 
告げたことはないだろう

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ペアリング【短編小説】

ペアリング【短編小説】

(注:若干の残酷・不快描写があります。苦手な方はご注意ください。)
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 僕としたことが、油断した。前後不覚の酔っ払いがまともな反撃に出るとは。

 飛んできた拳は石のように固かった。長年愛用しているメタルフレームの眼鏡がひゅうんと弧を描き、

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解像度、上げるべからず【短編小説】

解像度、上げるべからず【短編小説】

 私、実はこういうわけで欲求不満です。そう公言することがはばかられる類の欲求不満というものがある。

 私にとっては、「素朴な、しかし提起すべきでない疑問」がそれにあたる。

 決して表に出してはいけない、心の声。

* * * * *

 数日前に梅雨入りした割には、ぼんやりとした薄曇りの土曜日。母がちゃんとしたお茶っ葉で入れてくれた緑茶をすすりながら、私はひと呼吸ごとに畳の匂いを胸の奥まで吸い

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