見出し画像

坂本勝監修 『図説 地図と あらすじでわかる! 古事記と 日本書紀』 : 内容充実の 〈ロングセラーの名著〉

書評:坂本勝監修『図説 地図とあらすじでわかる! 古事記と日本書紀』(青春文庫)

書店の新刊文庫の棚で見かけて、本書を初めて知ったのだが、このレビューを書こうとした検索したところ、本書は、元版である「ソフトカバー単行本」(2005年)、「新書版」(2009年)、この「文庫版」(2021年)と、判型を変えながら、三度も刊行されているロングセラーであることを知った。

画像3
画像2
画像3

じっさい、それに値するほどの「名著」と呼んでさしつかえない本だと、私も思う。

タイトルに『図説 地図とあらすじでわかる!』という、いささか軽い「冠」書きが付いており、本を開くとタイトルどおりに「図説」が多いことから、一見したところ「軽い参考書的入門書」という印象は否めないだろう。
事実、本書は「専門家」にために書かれたものではなく、「初学者」のために書かれたものなのだから、「入門書」と呼んでも決して間違いではない。

しかし、まったくの初心者が、この本から『古事記』『日本書紀』に入ろうとしたり、日本の古代史についていきなり知ろうとしたら、きっと、ついてはいけないはずだ。じじつ、ソフトカバー版のレビューに、

『図説でわかりやすいのかと思いきや、やはり歴史物初心者には難解な一冊でした。あらかじめ予備知識があれば、入りやすいのかも知れませんが・・・。』
かすみそう

と書いている人がいたが、まったく正直な感想だろう。

私自身、現代語訳とは言え、事前に『古事記』や『日本書紀』を読んでおり、古代史関連の本を数冊読んでいたからこそ、本書が「すっごい、わかりやすい!」と感動さえしたのだが、事前にそうしたものを読まずに、いきなり本書を読んでいたら、その「情報量の多さ」に圧倒されて、何がなんだかわからなくなっていたことだろう。

したがって、私としては、本書を読む前に、最低限『古事記』と『日本書紀』の現代語訳は読んでおくべきだと思う。
それらを、現代語訳でありながら「なんだよ、これ!?」などと、うんうん唸りながら読んだ後に、本書を読んだら「ああ、こういうことだったのか! なんてわかりやすく説明してくれる本なんだ」と、感謝感激すること間違いなしなのである。

「ソフトカバー単行本」や「新書版」のレビューを見れば分かるとおり、本書に対する評価は、ほぼ「絶賛」状態だと言って良いだろう。

もちろん、中には低評価を与えている人もいるが、それらは「思想的偏向による党派的な意見」であると見て、まず間違いない。例えば、

『初めての人には読みやすいと思います。しかし、内容に作者の意識があり、左翼的思惑を感じます。日本国の悠久たる歴史や、純然たる史実のみを伝えるべきと思います。途中で不愉快になり読むことを止めました。』(長門武尊

という「長門武尊」氏のご意見などが典型的だが、実のところこの人は『古事記』と『日本書紀』を読んでいないんじゃないかと私は疑っているし、このハンドルネームは「長門有希+大和武尊」ではないかと推理したが、いかがであろうか?(したがって、長門武尊氏は、谷川流の『涼宮ハルヒ』シリーズは読んでいると思う。もちろん、私も読んでいる)

また、次のようなレビューは、本書の内容の濃さと、右派的な「お話」本ではないことを、よく示していると思う。

『「地図とあらすじでわかる」と有りますが、余り地図に関係の無い説明が多く、キャッチフレーズと異なる内容でした。古事記と日本書紀の何を際立って説明したいのか不明な感じの書籍でしたね。』(サンタプルルン

「入門書」に、著者が『際立って説明』したいことを求めるというのは、そもそもお門違いで、そんな人は、百田尚樹の『日本国記』でも読んでいれば良いだろう。たった1冊で、著者が『際立って説明』したい、個性的な「日本の歴史」を教えてもらえるのだから、たとえ「パクリ」が多い本だとしても、お手軽で良いのではないだろうか。

ともあれ、「神代篇」で、後から後から登場してくる(生まれ出てくる)神様たちを、出生形式やその性質によって分類し、わかりやすく図説してくれただけでも、私のとってはありがたい一冊だった。
だが、無論それだけではない。
本書は、現時点での通説に沿って説明しながらも、ポイントポイントで「歴史学的異説」まで紹介してくれており、実に内容豊富なのだ(だから、予備知識がないと難しい)。

自身を「専門家」だと思っている人は、本書を手に取る必要はないし、また本書をわざわざ手にとって、わざわざケチをつけるような人が「専門家」でないことは明らかだろう。
本書は、日本の古代史を「学術的に学びたい初学者」のための「入門書」である。

是非とも『古事記』と『日本書紀』の現代語訳は読んでから、本書を読んで、優れた入門書の与えてくれる「感動」を味わってほしい。もっと日本の古代史を知りたいと思うようになること、請け合いだ。

初出:2021年5月24日「amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)
再録:2021年6月7日「アレクセイの花園」
  (2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)

 ○ ○ ○







 ○ ○ ○













 ○ ○ ○











 ○ ○ ○




この記事が参加している募集

読書感想文