誰でもない人

誰でもない僕が、何でもない文章を綴ります

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#0 拝啓、誰でもないあなたへ

こんばんは。 僕は、うだつの上がらない画家です。 この世界のどこかにいるあなたが、 この世界のどこかにいる僕を、 もしかしたら、 好きになってくれるんじゃないか…

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#18 将来の夢

先輩の経営する接骨院は、来客もなく、すんなり見学させてもらうことができた。 なんてことはない、アパートの一室を解放している接骨院で、治療に使う機器のこと、保険診…

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#17 人生のどん底で出会った不思議な彼女の話

営業研修は過酷を極めた。 生命保険の基礎知識は分かったが、肝心の営業手法はまるで教えてもらえなかった。 与えられた担当地区や、職域と呼ばれる会社に、突然飛び込ん…

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#16 生命保険営業の闇

生命保険の営業と言えば、おばちゃん達がアメを配りながら、加入者をハイエナのように探して回るようなイメージだった。 しかし説明会を聞いてみると、研修制度はしっかり…

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#15 復職

僕は親を赦したし、彼を赦した。 全ては〈連鎖〉でしかなかったのだと、受け入れた。 入院した迷惑を謝ると、彼らは快く迎え入れてくれた。 今まで二言目には批判を口に…

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#14 ただ、愛されたいだけだった

僕は両親が赦せなかった。 妹の代わりだと殴られた日も、 裸に剥かれて外に放り出された日も、 子どもなんか犬猫と同じだと言われた日も、 全部全部赦すことができなか…

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#13 認知の歪み

早く良くなりたかった僕は、病院から提示されたプログラムに、積極的に参加した。 アートセラピーを選択できたのも良かった。 アートは、僕の心を癒やし、自己肯定感を高…

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#12 精神病の入院生活

精神病棟の入院施設は、「何だかよく分からない怖いところ」というイメージしかなかった。 一般外来は普通に見えたが、今度こそ窓に鉄格子をはめて、奇声を上げ続けている…

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#11 希望に向かえない病気

「ここを出ていくよ」 「そうか」 新しい依存先が見つかった僕の行動は早かった。 彼は至極アッサリしていた。 きっと、もう僕のような壊れた〈おもちゃ〉は必要なくな…

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#10 新しい依存先

バイト先で知り合ったミカさんは、おしゃれで明るくて素敵な女性だった。 元々は広告デザイナーをしており、仲間と共に地方紙を発行するなど、精力的に活動していたらしい…

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#9 ダブルバインド

ダブルバインド…要するに〈板挟み〉のこと。 暴力に依存している人間は、「暴力を振るわれた記憶」と「愛された記憶」の両極端な2つの出来事に、惑わされ、悩む。 対象…

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#8 暴力の連鎖

アルコール依存症であることを認めた彼は、大人しくカウンセリングを受けた。 勝手に飛び出した僕に怒り狂って、暴れ出すんじゃないかと予想していただけに、意外でしょう…

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#7 アルコール依存症

「電話……ですか? どうして?」 「お相手は、状態からアルコール依存症である可能性が非常に高いです。暴力を改善するにしても、まずアルコール依存症の治療から始めな…

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#6 精神病院

久しぶりに帰った家は、思っていたよりもずっと暖かかった。 パートナーから受けている仕打ちを話し、僕が馬鹿だったことを謝罪し、うつ病を告白した。 家族は、あれこれ…

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#5 うつ病

日増しに、起き上がれない日が増えた。 ピカピカに磨き上げていた家の中は、段々と荒廃し、既にどこからどう手を付けたら良いのか、分からない状態になっていた。 バタン…

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#4 暴力

彼は次第に家に帰らなくなっていた。 朝まで飲み明かしては、次の日仕事をサボって一日寝込むということを、繰り返すようになっていた。 聞けば彼のお父さんもそういう人…

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#0 拝啓、誰でもないあなたへ

こんばんは。

僕は、うだつの上がらない画家です。

この世界のどこかにいるあなたが、

この世界のどこかにいる僕を、

もしかしたら、

好きになってくれるんじゃないかと

そんな淡い期待で筆を取りました。

もしあなたが、

今日も眠れない夜を過ごしていて

どこかの誰かの温もりが欲しくて

そうしてここに迷い着いたのなら、

どうか、

僕の話を聞いていってくれませんか。

お金も何もいりま

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#18 将来の夢

#18 将来の夢

先輩の経営する接骨院は、来客もなく、すんなり見学させてもらうことができた。

なんてことはない、アパートの一室を解放している接骨院で、治療に使う機器のこと、保険診療のことについて話をした。

行きに40分、帰りは渋滞に巻き込まれて50分。

僕の運転する車の助手席に揺られながら、エリカは、初めて自分のことを話してくれた。

柔道整復師の資格を取ってから働いていた院のこと。

接骨院は「リピート客」

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#17 人生のどん底で出会った不思議な彼女の話

営業研修は過酷を極めた。

生命保険の基礎知識は分かったが、肝心の営業手法はまるで教えてもらえなかった。

与えられた担当地区や、職域と呼ばれる会社に、突然飛び込んで行って、ヘラヘラとへりくだりながらチラシを配ったり、アンケートをお願いしたりする日々。

それをどう契約に結び付けたら良いのかも分からないまま、僕らは「ダメで元々」の営業を繰り返していた。

一人、また一人と、心が折れた仲間がやめてい

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#16 生命保険営業の闇

生命保険の営業と言えば、おばちゃん達がアメを配りながら、加入者をハイエナのように探して回るようなイメージだった。

しかし説明会を聞いてみると、研修制度はしっかりしているし、幼稚園補助金制度を始め、女性の雇用促進など、社会情勢について本気で取り組んでいる会社のように思えた。

僕が惹かれたのは、ファイナンシャル・プランナーの資格取得補助が得られるところだった。

小学生の頃から、どこに行っても虐め

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#15 復職

僕は親を赦したし、彼を赦した。

全ては〈連鎖〉でしかなかったのだと、受け入れた。

入院した迷惑を謝ると、彼らは快く迎え入れてくれた。

今まで二言目には批判を口にしていた彼らが、ただ相槌を打ってくれた。

認知の歪みがあったこと、

それを治したいと思っていること、

努力したいと思っていることを告げたら、

黙って頷いてくれた。

残念ながら、

「だからこうして欲しい」

というお願いは通

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#14 ただ、愛されたいだけだった

僕は両親が赦せなかった。

妹の代わりだと殴られた日も、

裸に剥かれて外に放り出された日も、

子どもなんか犬猫と同じだと言われた日も、

全部全部赦すことができなかった。

痛くて、怖くて、悲しくて、辛くて、

逃げたいのに逃げることすら許されなくて、

誰も助けてくれないこと、酷く恨んでいた。

みんな死んでしまえばいいのにと、何度願ったか分からない。

親を殺して家に火を着ける妄想を、何度

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#13 認知の歪み

早く良くなりたかった僕は、病院から提示されたプログラムに、積極的に参加した。

アートセラピーを選択できたのも良かった。

アートは、僕の心を癒やし、自己肯定感を高めてくれた。

コミュニケーショントレーニングも受けたし、グループカウンセリングも受けた。

段々と、僕のこの苦しさは、「認知の歪み」があるから生じているのだということが分かってきた。

その「歪み」は、親から受けた教育による「連鎖」に

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#12 精神病の入院生活

精神病棟の入院施設は、「何だかよく分からない怖いところ」というイメージしかなかった。

一般外来は普通に見えたが、今度こそ窓に鉄格子をはめて、奇声を上げ続けている人達と同じくくりになるに違いない……僕は戦々恐々としていた。

だが、現実は思っていたよりもっと「普通」だった。

病棟は許可を取れば外出自由。コンビニにも行き放題だった。
シャワーも使えたし、週に一度は湯船にもつかれた。

別の病棟には

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#11 希望に向かえない病気

「ここを出ていくよ」

「そうか」

新しい依存先が見つかった僕の行動は早かった。

彼は至極アッサリしていた。

きっと、もう僕のような壊れた〈おもちゃ〉は必要なくなったのだろう。

ミカさんから請け負った仕事をこなしながら、新居を探し、家を片付ける。

調べることが多すぎて、毎日ほとんど眠れていなかった。

その上、彼からは「話し合い」という名目で何だかんだ時間を使わねばならなかった。

急ぎ

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#10 新しい依存先

バイト先で知り合ったミカさんは、おしゃれで明るくて素敵な女性だった。

元々は広告デザイナーをしており、仲間と共に地方紙を発行するなど、精力的に活動していたらしい。

しかし震災の煽りを受けて、受けていた仕事が全部キャンセルになり、仲間はバラバラ。借金もできてしまい、今はこうやって日雇いで日銭を稼いでいるらしかった。

ミカさんは、色んなことを教えてくれた。
高時給の日雇いバイトや、広告デザインの

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#9 ダブルバインド

ダブルバインド…要するに〈板挟み〉のこと。

暴力に依存している人間は、「暴力を振るわれた記憶」と「愛された記憶」の両極端な2つの出来事に、惑わされ、悩む。

対象に愛されたいがゆえに、「愛された記憶」を過信してしまうのだ。

「暴力は愛されているから」

「いつかまた優しい人に戻ってくれるはず」

「いつかきっと愛してくれるはず」

その強い信念が、愛から来るのか、依存から来るのかは分からない。

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#8 暴力の連鎖

アルコール依存症であることを認めた彼は、大人しくカウンセリングを受けた。

勝手に飛び出した僕に怒り狂って、暴れ出すんじゃないかと予想していただけに、意外でしょうがなかった。

「父は……長距離トラックの運転手をしていました」

ポツリ、ポツリと、彼が父親との思い出をこぼす。

バブル期は羽振りが良かったこと。

長距離から帰ってきては酒浸りになっていたこと。

景気が悪くなってから、暴れることが

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#7 アルコール依存症

「電話……ですか? どうして?」

「お相手は、状態からアルコール依存症である可能性が非常に高いです。暴力を改善するにしても、まずアルコール依存症の治療から始めなければなりません」

せっかく離れたのに、自ら呼び寄せるのか。

それに彼が、僕のために治療に応じるなど、あるはずがない。

あんなに道具のように扱われたのに。

『お前は本当に自分のことばっかりだな』

まるでゴミでも見るかのように、僕

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#6 精神病院

久しぶりに帰った家は、思っていたよりもずっと暖かかった。

パートナーから受けている仕打ちを話し、僕が馬鹿だったことを謝罪し、うつ病を告白した。

家族は、あれこれと詮索することなく、布団を敷いてくれて、食事を出してくれた。

一つ下の妹がうつ病で入退院を繰り返していることから、対応に慣れていたんだろう。

家族と向き合い続けた妹のことを、とても尊敬したし、有難いと思った。

「しばらく実家に帰り

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#5 うつ病

日増しに、起き上がれない日が増えた。

ピカピカに磨き上げていた家の中は、段々と荒廃し、既にどこからどう手を付けたら良いのか、分からない状態になっていた。

バタンッ

今朝も一言も会話を交わさず、彼は家を出ていった。

きっと、厄介者を抱えてしまったとでも、思っているだろう。

もう、性処理を求められることもなくなっていた。

それはそれで寂しく、僕は何の価値も生み出さない、産業廃棄物になった気

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#4 暴力

彼は次第に家に帰らなくなっていた。

朝まで飲み明かしては、次の日仕事をサボって一日寝込むということを、繰り返すようになっていた。

聞けば彼のお父さんもそういう人で、外で働く人には当然のことだと言う。

飲んだ次の日休むことを、会社も容認していると言うのだ。

会社勤めをしていない僕には、何が本当のことか判断できなかったし、幸いにしてスキルの高い彼は仕事もクビにならず、年々給与も上がっていってい

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