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本の感想たち

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読んだ本について思ったことや考えたことを書きます。
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記事一覧

ブラームス交響曲2番を聴きながら

ブラームスの交響曲2番を初めて聴いた時のこと。「クライマックスだけ壮大であとは平凡で退屈だな…」と思ったことは今も鮮明に覚えている。その後コンサートでも、退屈すぎて第3楽章で眠ってしまった経験がある。

ただ不思議なことに、クラシックというのは聴けば聴くだけ曲の魅力が分かってくるもので、突然その素晴らしさに開眼することはよくある。視界を遮る霧が、移動し続けたり、時間の経過によって晴れるのと全く同じ

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池上英洋『西洋美術史入門』

池上英洋『西洋美術史入門』

池上英洋著『西洋美術史入門』を昨日読んだ。
美術史というのは美術の歴史を追うという文字通りの意味だけではなく、なぜある作品や様式がその時代や社会、地域で描かれ、流行したのかを探る学問だと言う。そしてそれらを知ることは、当時生きた人間を知ることであり、ひいては「自分自身のことを知る」ことだと。

歴史は自分を写す鏡だということはよく言われるが、まさに同じことだ。中世ヨーロッパを襲ったペストによって、

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高見沢潤子『兄 小林秀雄との対話』

昨晩、寝る前に高見沢潤子『兄 小林秀雄との対話』を読み始めたらストッパーが効かず、夜中の2:30くらいまでぶっ続けで読んでしまった。

本書は兄妹が芸術、文学、宗教、歴史、哲学、作家の生活などを語らうという形式で、小林秀雄の思想が凝縮されつつも、とにかく射程の広い一冊。間違いなく今年のベスト本。

読了後はすっと眠りについたのだが、余韻からか、夢には絶え間なく本書で語られていた思想が右往左往してい

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自分という宇宙

ドラえもんが小学生向けに詩を解説する本、『詩が大好きになる』という本を読んだ。その末尾で紹介されている、まど・みちおさんの詩にいたく感動した。

ぼくが ここに いるとき
ほかの どんなものも
ぼくに かさなって
ここに いることは できない
もしも ゾウが ここに いるならば
そのゾウだけ
マメが いるならば
その一つぶの マメだけ
しか ここに いることは できない

ああ このちきゅうの う

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眠りを豊かに

17世紀の大作で、世界で最も売れている小説であるセルバンテスの『ドン・キホーテ』。3.4ヶ月ちまちま読み進めてようやく読了。

今回はその中から好きな一節を。

まったく、眠りってものを創り出したお人に幸いあれ、と言いたいね。だって眠りは、人間のあらゆる思惑を被い隠してくれるマントであり、飢えを取り除いてくれる食糧であり、渇きを癒してくれる水であり、寒さを暖めてくれる火であり、暑さを和らげてくれる

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『論語と算盤』の感想

『論語と算盤』の感想

今度、福沢諭吉に代わって1万円札の顔になる渋沢栄一の『論語と算盤』を読んだ。その中で特に印象深かったのが、志を立てよと説いていながら、立て方には失敗もあるということを赤裸々に吐露しているところだ。

渋沢は人生の節目節目で大きな志を持ち、たとえば政治家として国政に参加していたい、実業界で身を立てたいといった志を立てた。
しかし、前者の志を立てたのは大失敗だったらしく、「大蔵省に出仕するまでの数十年

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塩野七生『生き方の演習』

昨日は歴史小説で有名な塩野七生さんの『生き方の演習』を読んだ。本書は若者へのメッセージ本で、語学との付き合い方、教養とは何か、どう子育てするか、など塩野さんなりの新鮮な視点を見せてくれ、薄いながらも素晴らしい一冊だった。

中でも「好奇心を持て」と「面白いを大切に」というメッセージには姿勢を正された。

まずは前者。塩野さんは好奇心で色々なものに触れることは免疫を作ることであり、一方で単一なもの(

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フロムから考える「欲しいもの」

フロムから考える「欲しいもの」

先日先輩との会話の中で「欲しいものなんでもあげると言われたら何が欲しいんだろう?」という話題になった。今までは迷わずお金!とか、世界周遊の権利!とか答えていたが、改めて今問われると答えに窮してしまい、これには自分でも驚いた。

じっくり考えた末に捻り出した答えは「自分が納得するBe」だった。つまり、自分が最善の状態にあることが一番の望みだった。この考えはドイツの精神分析学の大家、エーリッヒ・フロム

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モンハンとパスカル

モンハンとパスカル

『モンスターハンター』(モンハン)は言わずと知れた大人気ゲームで、先月最新版が発売して以来、わが家でも朝から晩までゲーム音が鳴り響いている。

簡単にモンハンについて説明すると・・・
「モンスターを狩る→狩った報酬としてアイテムを獲得→アイテムをもとに武具を作る→より強いモンスターを狩る」という流れ。強い武具を作るには2.30分かけてモンスターを狩り、数%の確率で出現するアイテムが必要とされる。正

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ドン・キホーテに学ぶ

日本人なら誰もが知る、驚安の殿堂ドン・キホーテ。名前の由来を調べてみたら、案の定セルバンテスの『ドン・キホーテ』で、その名に込められた願いが素敵でハッとさせられる。

これを解するには『ドン・キホーテ』の概要を簡単に触れておく必要がある。

中年のドン・キホーテは騎士道物語を貪り読み、現実世界もそうなのだと勝手に思い込んだ結果、弟子サンチョ・パンサとともに世の不正を正す騎士になるべく冒険(?)に出

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『バーンスタイン わが音楽的人生』感想

バーンスタインが時に詩的に、時に情熱的に、時に明晰に紡ぐ言葉に何度心を打たれたか…。音楽に限らず哲学、芸術論、エッセイ、詩、など幅広く思索を巡らせている上に造形が深い。このようにテーマは多岐にわたっていながらも、「人類愛の実現への希望」という一つの大きなテーマが垣間見える。

大学でのスピーチの文字起こしに顕著だが、彼が若者に託す言葉には希望が溢れている。その希望は、われわれに欠けている「想像」に

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シェイクスピア『ロミオとジュリエット』感想

誰もが知る『ロミオとジュリエット』

これは悲劇の仮面を被った喜劇だ。アンジャッシュも顔負けのスレ違いコント。

ジュリエットと父親の意向、パリスとジュリエットの会話、ロミオとジュリエットの運命、全てスレ違って悲劇へと収束するのに何故か笑えてしまう。(キャピュレットが権力の道具としか見ていなかった娘を亡くした途端に涙を流すという掌返しっぷりは滑稽そのもの) この笑いは、登場人物たちは悲劇に見舞われ

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『フランケンシュタイン』から考える"悪魔"

『フランケンシュタイン』から考える"悪魔"

『フランケンシュタイン』を読んだ。ここ最近読んだ中では群を抜いて面白かった。文学の力を再認識。

好奇心に突き動かされ夢中で悪魔を作った人間の苦悩と、作られた悪魔の苦悩。

悪魔とフランケンシュタイン(以下フラン)の関係性は、不遇な状況にある子が親に「なんで自分を産んたんだ!」という怒りをぶつけるのと同じように思う。
元々心優しい悪魔は自分の不遇な状況からフランに復讐心を燃やし、一方のフランは悪魔

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『学問のすゝめ』書評



日本人に崇め奉られている一万円札の顔である人による有名な本にも関わらず、読んだことのある人はかなり少ないのではないだろうか。

17編にわたって主張とそれに関連する実例が書かれている。(構成はD.カーネギーの『人を動かす』と類似)

面白いのは、明治時代だけでなく現代にも通じる教訓がふんだんに述べられていること。福沢諭吉は何度も洋行しているため、ある意味で現代のグローバル社会に生きる我々と

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