マガジンのカバー画像

短編小説

9
1〜2分で読める短編小説集です。
運営しているクリエイター

記事一覧

ブロックリストを開く夜/短編小説

ブロックリストを開く夜/短編小説

夜が深くなった頃、
携帯を眺めながら無意識に開いていたのは
ブロックリストだった。

二度と会いたくない。

そう思っているのに消せない連絡先がある。
でも見たくないからブロックリストには入れている。

大嫌いだと思いながらも
非表示のまま消せない履歴がある。

歯茎に刺さった魚の小骨みたいに、
ずっと私にまとわりついてくる記憶に私はどぎまぎしていた。

今の環境に不満はない。
やりたかった仕事を

もっとみる
物語のようにはいかなくて。/短編小説

物語のようにはいかなくて。/短編小説

 
「その本私もってるから貸すよ」

意訳:もう一度会える理由がほしい。約束がほしい

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

theスポーツマンな爽やかな雰囲気をもつ彼は
その見た目とは裏腹に本が好きな男の子。

好きなジャンルはミステリーや伏線のちりばめが多くて、
思考をよく働かせるものが好きなタイプ。

ブラックコーヒーを頼みそうで、甘いココアしか飲まない。
そこにシロッ

もっとみる
僕の憧れと向日葵の花 /短編小説

僕の憧れと向日葵の花 /短編小説

8歳年上の大きな背中が前をいく。
白いTシャツは歩くたびにしわの様子が変わり、
自分より少し大きな足跡がどんどん増えていく。

離れないように、必死に走って後を追っても追いつけない。
それが悔しくて、
でも同時になぜか嬉しくて、
必死にその背中を追い続けた。

だって追いかけていると時々振り返って、
ちゃんと付いてきているか笑顔で確認してくれるから。

そんな少し前を歩く
格好良くて優しい兄が僕は

もっとみる
あれは、きみの独立宣言/短編小説

あれは、きみの独立宣言/短編小説

am:8:00

起きることが染みついた体内時計は休日であろうと
休ませてはくれない。
正確なメトロノームのように、脳が覚醒し今日が始まった事を告げる。

いつものルーティンを流れ作業のように行い、
最後に沸かしたお湯でコーヒーを淹れたら、それを片手に窓を開け飲む。
どこぞのインスタグラマーだよなんて思いつつ
ゆっくりと空を見つめるまでがいつも通りだった。

風がふき花瓶の花がゆれる。
心臓が窮屈

もっとみる
雨が降っているうちに....../短編小説

雨が降っているうちに....../短編小説

鉄の味が口の中にひろがる。
慣れっこの味だ。

今朝の天気予報は雨だったっけ?
その規則に従うかのように
窓にうちつける雨の音が室内に響く。

乱雑にみえて一定に聞こえる雨の音が
少しずつ私を現実へと戻してくれたのだった。

この大雨ならまだ帰ってこないだろう。
雨が止むまでにこの部屋を何とかしなくてはと思った私は、
机に手をかけながら立ち上がり、口元に流れる水滴を袖で拭った。

皮膚に擦れた瞬間

もっとみる
これは、あなたの開放宣言/短編小説

これは、あなたの開放宣言/短編小説

PM3:00 
公園のベンチでコーヒーを飲んでいた2人。
さっきまでアニメの話なんてしていたから笑顔の残る表情まま
今日の夜ご飯の提案をするかのように私は話した。

 
「無理に私に会おうとすることを辞めなよ」

風が吹き肌を撫でた。
やっと言えた言葉に私はどこかホッとしていた。
でも彼の顔を見ることはできなかった。

見てしまったら「おわる」事がわかっていたからだろうか。
少しでもこの時間を伸ば

もっとみる
3日目:1輪の向日葵と飲みかけのグラス/3日小説①

3日目:1輪の向日葵と飲みかけのグラス/3日小説①

~3日目:1輪の向日葵が見守る時間~

ジャケットを片手にする人
結んでいたネクタイをはずす人
綺麗にまとめていた髪留めをゆるめる人

街中には1週間の終わりを告げる合図をする光景がひろがっていた。
それは同時に私の時間が始まる合図だった。

いつもと違うのは、
商店街で買った向日葵がカウンターにあること。
少ししおれているような、でも綺麗に咲く向日葵。

明日には廃棄されるようなそんな花だったけ

もっとみる
2日目:真夏のジャケットと着信音/3日小説

2日目:真夏のジャケットと着信音/3日小説

~2日目:真夏のジャケットを片手に~

朝から蝉の声が元気だ。
7日という使命をわかっているからだろうか?
それとも地上に出たら鳴き続けるとプログラミングでもされてるのだろうか

そんなことを頭に浮かべながら、
ジャケットを腕にかけ私は道を歩いた。

最高気温40度。
湯船の温度に飛び込むなんて正気の沙汰ではない。
ましてやスーツのジャケットなんてなおさらだ。

では着なければいい話なんだけれども

もっとみる
1日目:満員電車の窓にうつる未来/3日小説

1日目:満員電車の窓にうつる未来/3日小説

~プロローグ~

知ってますか?
世の中は不平等にできており、実に皮肉めいていることを。

気づいていますか?
ちゃんとしている気になっているだけで歯車の一部になっていることを。

選択していることを忘れてはいませんか?
今この瞬間の生活を選んだのは自分であるということを。

分かっているって?
何を言い出すんだとでも思いましたか?
何らおかしいことは言っていません。
事実を述べているだけなのです

もっとみる