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物語

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書いてるうちに面白さ以外の要素が強くなってしまったもの。
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記事一覧

神様は完璧に海をデザインできなかった

あなた方っていったい誰なのですか?と問いかける俺が誰なのですか?

知りません。私が知っているのは、神様は完璧に海をデザインできなかった、だから流動性がある、そんなことくらいです

どこに行っても暑いなあ。自分で風を作るしかない。ブランコに乗る。誰かが作ったブランコに乗る。今はまだ誰かのブランコ。でもきっと、いつかは自分の作ったブランコ。

創作論を隠喩で語るの恥ずかしくありませんか?

歴史の中

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オリジナリティ

牧場で牛を見かけたら「お前は美味しいよ」と言うことにしている。だってかわいそうじゃないですか。ステーキとして食べられたあと「美味しい」って言われたら死後評価されてる芸術家みたいじゃないですか。でもね、僕、いじわるなんで、その牛にゴッホと名付けることにしたんです。「ゴッホ、乳を出してごらんなさい、乳を出して絵を書くのよ」。白いキャンバスをゴッホの下に置き、乳搾りをしました。するとキャンバスの上に思い

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今度、下北沢に宇宙人が来るらしい

ギターを背負った若者は不機嫌そうに人混みを抜ける

自動改札機ですれ違った俺に見せつけるように強く押さえつけられたICカード

改札機の読み取り部は否応なしに若者の怒りを受け止めさせられた

久しぶりの下北沢

俺が夢をあきらめた街

平日と言えども今日は人が多い

あなたも宇宙人を見にきたんですか?

不意に声をかけてきた丸メガネの青年

ドロップアウトした俺には、それが人間の成

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銀河を揺さぶるシックスパッド

銀河を揺さぶるシックスパッド

3年前の話です、僕アパートの中で、孤独だったんですよ、近隣住民に忌み嫌われて、っていうのも、壁にシックスパッドを貼りつけて、ずっと壁を揺らしてたんです、で、ある時からはっきりと隣人の声が聞こえるようになったんです、壁がね、痩せたんですよ、隣人との境界である壁はどんどん薄くなり、とうとう隣人の姿が見えました、渡辺謙さんでした、渡辺謙さん、アパート暮らしでした、でも渡辺謙さんって、人として僕と落差があ

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ビールとパプリカ

ビールとパプリカ

俺にはわかるんだよね、どこかで、外来種が、泣いている

やっぱりそうだったのね、あなた、テレポーテーション使えるんでしょう

…相変わらずの美貌、本当にお美しい

やめてよ、私が肉食系なの、覚えているでしょう?

テレポーテーションは使えない、でも俺にはわかるんだ、その一方、わからないことだってある、自分の宇宙がわからない

いいの?この会話が聞かれてるわよ?

誰かが言ってた、外と遮断された井の

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もしあなたが薬だったら僕はオーバードーズしていた

あなたのことは知りませんでした、名前がどこにないんです、この世界のどこにも、おそらく、戸籍を剥奪されたんだと思います、大きな組織の手によって

いや、そんなことがまさか、でも、それが僕を殺していい理由になるんですか?

紅茶が冷めてしまいますよ?

ああ、すみません

理由はさておき、あなたに選択肢なんかありません、決めるのはこちらですから

まだ僕は諦めていません

いや、あなた以外ありえません

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赤い長方形とランプの話

赤い長方形とランプの話

真っ白な空間に縦2m横8mほどの赤い長方形が横たわっている。側面にはたくさんの透明なランプがついており、それぞれのランプの前には真っ白な服を着た男が立っている。一番端の男がランプに向かって質問する。

「ケツエンはさ、処女?」

ランプが黄色になる。ケツエンとはおそらく赤い長方形のことだろう。

隣の男が目の前のランプに同じ質問をする。

「ケツエンはさ、処女?」

今度はランプが青になった。同じ

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初めて会う女の子が二階堂ふみに似ていた場合

「きみは目元が二階堂ふみに似ているね。彼女も確かそんな目をしていたよ」
「え、実際に会ったことがあるんですか!?」
僕は彼女の勢いに乗り、適当なうそをついた。
「ああ、ずいぶん前だけどね」
「どこで会ったんですか?」
「彼女の地元、沖縄でだよ。まだ二階堂ふみが二階堂ふみじゃなかったころに1度だけ会ったんだ」「へぇ~すごいですね」
「別にすごくなんかないさ。たまたま海にいて、あちらから話しかけてきた

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とあるハガキ職人の遺書

こいつの遺書が見つかりました。

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ラジオは唯一の支えやった。社会にうまく溶け込めへん俺の逃げ場。どんな夜もそこに逃げた。でも、少しずつ変わっていってん。俺もラジオも変わっていって、疎遠になった友達同士みたいに別々の方向に進んでいってん。

メールを送れば送るほどラジオはおもんなくなっていった。いや、俺が楽しめなくなったんや。雨粒の数ほどメールが読ま

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月への同行者

月への同行者

午後3時、彼はなにかの儀式のようにまた募金だけして帰っていった。コンビニで働き始めて約半年、もうこの光景を何十回見ただろう。自動ドアが開くや否や、まっすぐレジに向かい、1000円札を募金箱に入れ、何も買わないまま外に出る。「いらっしゃいませ」と言い終わる頃には、もう店内からいなくなっているのだ。ただ、他の客が、列をつくってレジの順番を待っている時は、律義にも彼はその列に並び、自分の番になるまでは募

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ハガキ職人

ハガキ職人

ちょうど10年前や、あの子がこの施設を出ることになったんは。みんなそうよ、高校を卒業したら児童養護施設を出て自立せなあかんねん。原則18歳までってそういう風に決まってんねん。でも、それはウチらが想像する以上に悲惨な現実だったりするんやで。親のいない子らはな、やっぱなんか頼れるもんがないと生きていくのは難しいねん。中には強い子もおるけどな。でも、あの子は弱い子やったで。施設を出るときになウチに言って

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