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パパの電話を待ちながら
少しばかり強い南風が、カフェのテラス席でカメの読む本のページをカサカサと揺らしていた。彼がふと視線をあげると、アールグレイを二つトレイに乗せたウサギが、微笑みながら静かに近づいてきた。
彼の隣に座り、「どうぞ」と、紅茶を差し出したウサギは、小さなリュックから一冊の本を取り出した。「この本、とても面白かったわ。私に新しい世界線を見せてくれたの。前に歩くエビとか、猫を食べるネズミとか……」
カメは
モンテロッソのピンクの壁
暖かさがやってくると、人はふと旅をしたくなる。旅立つのにちゃんとした理由など要らない。でも何処へ行く? 猫のハスカップにはなんの迷いもなかった。「モンテロッソへいかなくちゃ」
「不思議な旅をする本が読みたいわ」と願ったのはウサギだった。そんな彼女にカメが薦めたのは、江國香織さんの「モンテロッソのピンクの壁」という絵本。その表紙には、まるで「白ワインで蒸した鮭みたいな」ピンクの壁が大きく描かれてい
はじめてに揺れる純心
その日、ウサギは小さなカフェのテラス席で音楽の中にいた。周りの世界から少し離れた心地で、流れるリズムに身を委ねるうちに、視線の先で、歩いてくるカメの姿を捉えた。彼女は待っていたかのように、カメに優しく手を振った。
彼が隣の席に着くと、ウサギは店員にアールグレイを二つ注文し、一冊の本をテーブルに置いた。「今聴いているのは、YOASOBIの『ミスター』。島本理生さんの『私だけの所有者』が原作だって知
パニックは進化の証?
深いため息をついて図書館に足を踏み入れたウサギは、今日のラジオのお仕事「ウサギのティースプーン」を思い出していた。静かな閲覧室でゆっくりとページをめくっていたカメは、彼女の姿に気づくと、椅子を引いて「お疲れさま」と声をかけた。
「ラジオで話すとき、こんなに緊張するのは私だけかしら。イメージトレーニングもしているのに、スタジオに入るともうパニックなの。私、この仕事向いていないのかな」彼女は、自分に