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ネッカーの立方体

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うたから生まれた考え事。いろんな角度から見た世界。
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あの時ヒカリちゃんが帰った理由を私は知りたくなかった。

あの時ヒカリちゃんが帰った理由を私は知りたくなかった。

「気付いたら真っ黒で、真っ黒だって思った途端に真っ白になる」
 私は小学校に入学した頃、団地に住んでいた。団地の中には同じ小学校のお兄さんお姉さんが沢山いた。休みの日にはお兄さんお姉さんたちが学年関係なく遊んでくれて、いろんなお話も聞かせてくれた。これはその中のひとつ。

「人間が死ぬまでに絶対1回は見る夢があるんだって」
 ヒカリちゃんというお姉さんのそんな言葉から始まった。季節は夏だった。ヒカ

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うらしまたろう

うらしまたろう

小学6年生の時、私のクラスは荒れていた。

初めて6年生を受け持つ華奢で優しい女の先生が担任というのも手伝って、かなり反抗的なクラスだった。

反抗的なグループのトップに3〜4人の男子がいて、中でも今野くんは酷かった。

暴力なんかがあったわけではないけれど、先生の言う事は全く聞かず、いつもふざけてみんなを巻き込んで、よく先生を泣かせていた。

私は先生のことが大好きで、その大好きな先生を困らせる

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女心とカランコロン、カラリ

女心とカランコロン、カラリ

 以前、最寄駅の駅ビルに入っているメガネ屋さんで働いていたことがある。アパレルとはまた違う専門的な知識が必要で、たくさん勉強しなければいけなかったのは刺激的でもあり大変でもあった。
 出勤日数や研修日程の兼ね合いで、全ての行程をひとりで受け持てるようになるまでには少し時間がかかってしまったけれど、知識ゼロで入社した私もなんとか一人前になれた。春に入社して、そうなれたのは秋が見えていた頃だったと思う

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唐揚げ定食

唐揚げ定食

定食屋と言うには少しおしゃれで、カフェと言うには少し雑な作りの小さなご飯屋さん。席はカウンターだけ。そこの唐揚げ定食をよく食べる。

おそらくおじさんがひとりで営んでいて、いつもせっせかせっせかご飯を作っている。

おじさんといっても、私より少し上。くらいだろうか。

握りこぶしサイズの唐揚げがでっかいお皿にごろごろと。油の中から直接口の中に放り込まれたかのように熱い。お腹のコンディションが良くな

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ジグソーパズル

ジグソーパズル

 地元にとても古い商店街があった。狭い空間にぎゅうぎゅうに詰め込まれた店の殆どはシャッターを下ろしたままで、一日のうちで賑わう時間なんて全く無いような寂れた商店街だった。今となってはそれもまた味があるとされて、お洒落なコーヒースタンドや古着屋さんやバーなんかがどんどん増えているらしい。
 そうなる前の商店街は夜になると一層怪しい空間だった。申し訳程度に設置されている電灯は黄ばんでいて、そのせいで空

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