堀間善憲

気がついてみたら60代のなかば。これまで出会った本や音楽、映画……からピックアップして…

堀間善憲

気がついてみたら60代のなかば。これまで出会った本や音楽、映画……からピックアップして、自分なりに解読してみたいと思います。めざすはあっと驚くような大発見ですが、果たしてどうなりますやら。みなさまもご一緒に楽しんでいただけますと幸いです。

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  • note クラシック音楽の普遍化を達成する

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    クラシック音楽の歴史や作曲家、作品について、哲学的な視点から分析し、その普遍性や深さを探求する和田大貴のnoteです。クラシック音楽について語り合えることを楽しみにしています。参加希望の方はマガジンの固定記事でコメントしてください。

記事一覧

アナログ派の愉しみ/映画◎宮崎 駿 監督『風の谷のナウシカ』

あしたはたくさん飛ばなきゃ―― 少女が政治を変革するとき 宮崎駿監督のアニメ映画『風の谷のナウシカ』(1984年)が目の前に新しい扉を開いたときの衝撃は、いまも鮮や…

堀間善憲
19時間前
28

アナログ派の愉しみ/音楽◎ベルリオーズ作曲『幻想交響曲』

芸術家とは 一体、何者だろうか? 芸術家とは一体、何者だろうか? 詩人、画家、音楽家……といった職種の呼称とは別に、そこにはもっと根本的な創作態度への問いかけが…

堀間善憲
19時間前
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アナログ派の愉しみ/本◎E・H・カー著『歴史とは何か』

歴史とは過去と現在の対話である―― そこに日韓両国の現状打開のヒントが 開いた口がふさがらなかった。ヤン・ウソク監督の映画『弁護人』(2013年)を観ていたときのこ…

堀間善憲
19時間前
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アナログ派の愉しみ/音楽◎ワーグナー作曲『トリスタンとイゾルデ』

その音楽には 魔性が棲みついている クラシック音楽において、男と女の性愛の闇に最も奥深くまで分け入ったのはリヒャルト・ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』(1865…

堀間善憲
2日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎小津安二郎 監督『生れてはみたけれど』

映画というメディアの 青春時代を味わうために 19世紀末に発祥した映画の歴史を120年とするなら、ざっくりと前半の60年がモノクロ期、そのまた前半の30年がサイレント期と…

堀間善憲
2日前
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アナログ派の愉しみ/本◎ソルジェニーツィン著『マトリョーナの家』

野蛮な社会に ひとりの義人ありて まったくの私見ながら、第二次大戦後の世界文学で決して目を逸らすわけにいかない三人の作家を挙げるとすれば、アレクサンドル・ソルジ…

堀間善憲
2日前
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アナログ派の愉しみ/本◎吉田修一 著『悪人』

ゴキブリ退治が苦手な わたしの理由 ゴキブリ退治が苦手だ。念のため、苦手なのはゴキブリではなく、ゴキブリ退治のほうだ。背後の妻から丸めた新聞紙を渡されて、キッチ…

堀間善憲
5日前
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アナログ派の愉しみ/音楽◎ベートーヴェン作曲『交響曲第4&7番』

天才指揮者は 楽聖の情念に呪縛されたのか カルロス・クライバーがアムステルダム・コンセルトヘボウ管を指揮したベートーヴェンの『交響曲第4&7番』のライヴ映像(198…

堀間善憲
5日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎スコット・クーパー監督『荒野の誓い』

名作『駅馬車』の 続編にあたるロードムービー ジョン・フォード監督の『駅馬車』(1939年)は、それまでのドンパチの活劇に本格的な人間ドラマを持ち込んで、西部劇の新…

堀間善憲
5日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎今村昌平 監督『復讐するは我にあり』

かつて野球選手が 血と汗にまみれていたように 連日テレビが流すドジャース・大谷翔平の映像を眺めながら、その容姿がいかにも清潔感にあふれ、まるで映画俳優のように垢…

堀間善憲
7日前
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アナログ派の愉しみ/バレエ◎『ヘッダ・ガーブレル』

120年の歳月を経た 女性の虚栄心のかたち ぐうの音も出ない、とはこんなときに使うのだろうか。2017年にノルウェー国立バレエがオスロのオペラハウスで行った『ヘッダ・ガ…

堀間善憲
7日前
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アナログ派の愉しみ/本◎郝景芳 著『折りたたみ北京』

日本人のアタマからは 出てこない発想 およそ日本人のアタマからは出てこない発想だろう。郝景芳(ハオ・ジンファン)の小説『折りたたみ北京』(2014年)を読むと、そん…

堀間善憲
7日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎クルーゾー監督『恐怖の報酬』

仕事にはすべて 恐怖がひそんでいる そのことについて関係者に迷惑をかけてもいけないので、ごく大まかなアウトラインのみを記述することにしたい。東日本大震災の年ので…

堀間善憲
9日前
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アナログ派の愉しみ/音楽◎マリア・カラス歌唱『アット・コヴェント・ガーデン』

ディーヴァは ナイフの刃を突きつけた やはり20世紀最高のディーヴァ(歌姫)はこのひとだった、と天を仰がずにはいられない。マリア・カラスが1962年と64年、英国ロンド…

堀間善憲
9日前
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アナログ派の愉しみ/本◎『万載狂歌集』

「やハらかなけしきをそゝと」―― のどかな光景が生々しく反転する真骨頂 日本の栄えある詩歌の伝統において、その底辺に位置するのが狂歌と言っていいだろう。と、こん…

堀間善憲
9日前
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アナログ派の愉しみ/音楽◎武満 徹 作曲『ノヴェンバー・ステップス』

邦楽器とオーケストラを 対決させる発想はどこから? 風変わりなプログラムと言うべきだろう。1989年9月12日に当時の西ドイツのフランクフルトで、サイトウ・キネン・オー…

堀間善憲
12日前
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アナログ派の愉しみ/映画◎宮崎 駿 監督『風の谷のナウシカ』

あしたはたくさん飛ばなきゃ――
少女が政治を変革するとき

宮崎駿監督のアニメ映画『風の谷のナウシカ』(1984年)が目の前に新しい扉を開いたときの衝撃は、いまも鮮やかに記憶している。ごく簡単にストーリーに触れておこう。人類の文明社会を焼き払った最終戦争「火の7日間」から1000年後、世界は環境汚染がもたらした「腐海」の侵食に脅かされながら、なおも覇権をめぐって争いが絶えず、ふたつの列強国にはさま

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アナログ派の愉しみ/音楽◎ベルリオーズ作曲『幻想交響曲』

芸術家とは
一体、何者だろうか?

芸術家とは一体、何者だろうか? 詩人、画家、音楽家……といった職種の呼称とは別に、そこにはもっと根本的な創作態度への問いかけが含まれているようだ。おそらく近代日本でこのテーマに最も鋭敏な問題意識を持っていた芥川龍之介は、アフォリズム風のエッセイ『芸術その他』(1919年)をこう書き出している。


「芸術家は何よりも作品の完成を期せねばならぬ。さもなければ、芸

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アナログ派の愉しみ/本◎E・H・カー著『歴史とは何か』

歴史とは過去と現在の対話である――
そこに日韓両国の現状打開のヒントが

開いた口がふさがらなかった。ヤン・ウソク監督の映画『弁護人』(2013年)を観ていたときのことだ。これは、韓国で1981年に国家保安法の罪名のもとに22人の学生が不法逮捕・拘禁された「釜林(プリム)事件」について、のちに大統領となる盧武鉉(ノ・ムヒョン)がモデルの弁護士の目をとおして、その内実を赤裸々に暴きだしたものだ。わた

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アナログ派の愉しみ/音楽◎ワーグナー作曲『トリスタンとイゾルデ』

その音楽には
魔性が棲みついている

クラシック音楽において、男と女の性愛の闇に最も奥深くまで分け入ったのはリヒャルト・ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』(1865年初演)だろう。この白日夢のような楽劇に、わたしはただならぬ魔性が棲みついているとしか思えない。


そもそも、ワーグナーがこの作品をつくりあげたのは、ドイツ国内での革命運動に失敗してスイスへの亡命を余儀なくされ、新たな地で庇護の手

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アナログ派の愉しみ/映画◎小津安二郎 監督『生れてはみたけれど』

映画というメディアの
青春時代を味わうために

19世紀末に発祥した映画の歴史を120年とするなら、ざっくりと前半の60年がモノクロ期、そのまた前半の30年がサイレント期という区分になろう。すなわち、はじめの4分の1が映像に色や音のない時代だ。もちろん、ほかの面でもまだ技術水準は低く、できあがったフィルムの多くも消滅してしまったという頼りない状況だった。しかし、それは同時に、誕生したばかりの新しい

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アナログ派の愉しみ/本◎ソルジェニーツィン著『マトリョーナの家』

野蛮な社会に
ひとりの義人ありて

まったくの私見ながら、第二次大戦後の世界文学で決して目を逸らすわけにいかない三人の作家を挙げるとすれば、アレクサンドル・ソルジェニーツィン(1918年、ソ連・キスロヴォツク生まれ)、三島由紀夫(1925年、日本・東京生まれ)、ガブリエル・ガルシア=マルケス(1928年、コロンビア・アラカタカ生まれ)ではないか。それぞれに20世紀後半の人類社会が抱え込んだ抜き差し

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アナログ派の愉しみ/本◎吉田修一 著『悪人』

ゴキブリ退治が苦手な
わたしの理由

ゴキブリ退治が苦手だ。念のため、苦手なのはゴキブリではなく、ゴキブリ退治のほうだ。背後の妻から丸めた新聞紙を渡されて、キッチンの床の黒光りする昆虫を追いまわしながら、とめどないジレンマが込み上げてくる。生きとし生けるものの命を奪うことは罪悪とする仏教の教えも作用していようが、それ以上に、われわれ人間だってちょっと距離を置いて眺めればさほどゴキブリと変わらないの

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アナログ派の愉しみ/音楽◎ベートーヴェン作曲『交響曲第4&7番』

天才指揮者は
楽聖の情念に呪縛されたのか

カルロス・クライバーがアムステルダム・コンセルトヘボウ管を指揮したベートーヴェンの『交響曲第4&7番』のライヴ映像(1983年10月20日)をこれまで何度観たろう。そのたびにわれを忘れて、めくるめくリズムとハーモニーの奔流に呑み込まれる思いを味わってきた。


クラシック音楽の演奏が録音だけでなく、映像としても記録されるようになって70年以上が経ち、ピ

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アナログ派の愉しみ/映画◎スコット・クーパー監督『荒野の誓い』

名作『駅馬車』の
続編にあたるロードムービー

ジョン・フォード監督の『駅馬車』(1939年)は、それまでのドンパチの活劇に本格的な人間ドラマを持ち込んで、西部劇の新たなページを開いた映画とされている。インディアンとのあいだで抗争が繰り広げられていた1880年代、脱獄囚リンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)や娼婦ダラス(クレア・トレヴァー)ら9人を乗せた駅馬車が、アメリカ大陸南西部のアリゾナ州からニュ

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アナログ派の愉しみ/映画◎今村昌平 監督『復讐するは我にあり』

かつて野球選手が
血と汗にまみれていたように

連日テレビが流すドジャース・大谷翔平の映像を眺めながら、その容姿がいかにも清潔感にあふれ、まるで映画俳優のように垢抜けているのに感嘆するのはわたしだけではないはずだ。


遠い記憶をたぐり寄せれば、かつて少年のころに熱狂した巨人(読売ジャイアンツ)V9時代の野球選手たちは長嶋や王、ライヴァルの村山や江夏をはじめ、だれもが血と涙と汗と泥にまみれ、陰部

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アナログ派の愉しみ/バレエ◎『ヘッダ・ガーブレル』

120年の歳月を経た
女性の虚栄心のかたち

ぐうの音も出ない、とはこんなときに使うのだろうか。2017年にノルウェー国立バレエがオスロのオペラハウスで行った『ヘッダ・ガーブレル』公演のライヴ映像。言うまでもなく、ノルウェーが生んだ「近代演劇の父」ヘンリク・イプセンの有名な戯曲(1891年初演)にもとづき、女性演出家のマーリット・モーウム・アウネが8人のダンサーを中心とする現代舞踊劇に仕立てたもの

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アナログ派の愉しみ/本◎郝景芳 著『折りたたみ北京』

日本人のアタマからは
出てこない発想

およそ日本人のアタマからは出てこない発想だろう。郝景芳(ハオ・ジンファン)の小説『折りたたみ北京』(2014年)を読むと、そんな思いを禁じえない。ちなみに、この1984年生まれの女性作家は、中国トップの最高学府、精華大学で物理学を専攻して天体物理センターで研究を行ったのち、経済学と経営学の博士号を取得して現在はシンクタンクに勤務中というから、まさにエリート中

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アナログ派の愉しみ/映画◎クルーゾー監督『恐怖の報酬』

仕事にはすべて
恐怖がひそんでいる

そのことについて関係者に迷惑をかけてもいけないので、ごく大まかなアウトラインのみを記述することにしたい。東日本大震災の年のできごとだ。当時、わたしは会社で事業開発のセクションの部長をつとめ、新規プロジェクトの立ち上げに取り組んでいたまっただなかで大震災に見舞われて頓挫のやむなきに至り、まだ試行的段階だったとはいえ数千万円の赤字が見込まれる事態となった。すると、

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アナログ派の愉しみ/音楽◎マリア・カラス歌唱『アット・コヴェント・ガーデン』

ディーヴァは
ナイフの刃を突きつけた

やはり20世紀最高のディーヴァ(歌姫)はこのひとだった、と天を仰がずにはいられない。マリア・カラスが1962年と64年、英国ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスに出演した映像記録『アット・コヴェント・ガーデン』だ。このときの年齢は38歳と40歳で、すでに全盛期を過ぎていたものの、その眼光は猛禽類のように爛々として表情を千変万化させながらうたいあげる姿には圧倒さ

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アナログ派の愉しみ/本◎『万載狂歌集』

「やハらかなけしきをそゝと」――
のどかな光景が生々しく反転する真骨頂

日本の栄えある詩歌の伝統において、その底辺に位置するのが狂歌と言っていいだろう。と、こんなふうに書くと狂歌を見下しているように受け取られかねないけれど、とんでもない、わたしは平安貴族の洗練をきわめた和歌よりも、むしろ美なんぞ目もくれず、俗世間の神羅万象を笑い飛ばした歌たちのほうにずっと親しみが湧く。


そうした高尚ならぬ

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アナログ派の愉しみ/音楽◎武満 徹 作曲『ノヴェンバー・ステップス』

邦楽器とオーケストラを
対決させる発想はどこから?

風変わりなプログラムと言うべきだろう。1989年9月12日に当時の西ドイツのフランクフルトで、サイトウ・キネン・オーケストラが行ったコンサートだ。


まず秋山和慶の指揮によってシューベルトの『交響曲第5番』(1816年)で幕を開け、ついで小澤征爾が指揮台にあがって武満徹の『ノヴェンバー・ステップス』(1967年)、ブラームスの『交響曲第4番

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