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「自分の人生がなかった期間」に、意味はあるのか?
「僕には、自分の人生がない期間がありました」
とあるドラマのセリフを聞いて、ふと「自分にもそんな期間があったな」と思った。
「自分の名前」がなかった私の場合は、離婚に向けて別居中だった頃のこと。その状況では相手の姓を名乗らなければならなくて、これが本当に辛かった。
「自分の名前が自分のものじゃない」状態。仕事でもプライベートでも生まれたときの戸籍の姓(=川口)を名乗っていたし、自分もその姓名
「ネタバレ」で終わらない世界
意味のわからないものを見たときほど興奮するし、その世界に没頭する。
ストーリーのなかに表象されるものの意味を考えることが、エンタテインメントの醍醐味だと思うからだ。「自分なりに考えること」には、とてつもない可能性がある。
私はこうして、3回見た。クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET』を、3回見た。公開初日と翌日、立て続けに2回。その翌週には池袋の巨大スクリーンIMAXで。
初回は
“死”に対抗する手段としての音楽、そして記憶。カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
「記憶」は、ものを見るためのレンズであり、不確かな自己肯定であり、「死」に対する部分的な勝利である。
イシグロ文学の根源とされる「記憶」のテーマは、読み込むほどに多様な解釈を生む。
長編第6作「わたしを離さないで」は、カズオ・イシグロの名をさらに世界へ広める作品となった。2010年にはイギリスで映画化され、ハリウッドでも活躍する若手俳優らが起用された。日本でも2014年に蜷川幸雄演出により舞台
旅する音楽家は“壁”を超えるーーカズオ・イシグロ『充たされざる者』
ブッカー賞受賞後の意欲作『充たされざる者』
「日の名残り」でブッカー賞を受賞したイシグロが次作で挑戦したのは、混沌とした夢の世界を言語化することだった。
長編第4作「充たされざる者」は、主人公ライダーの視点で物語られるまま、時間が錯綜し、空間が歪み、悪夢のように展開されていく。
ピアニストのライダーは、リサイタル出演のため、東欧を思わせる小さな街を訪れる。“芸術的危機”に瀕(ひん)していると
カズオ・イシグロが初の短編集に仕掛けた「カラクリ」とは
2017年のノーベル賞は、例年になく盛り上がったと言えるだろう。日本人としては特に、記憶に残る年となった。
長崎県出身の英国人作家カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞し、核兵器廃絶国際キャンペーン『ICAN(アイキャン)』がノーベル平和賞を受賞した。
特に文学賞の場合は、毎年最有力者として名前の挙がる村上春樹を抑え、日本出身のカズオ・イシグロが受賞したのは、我々日本人にとっても、世界中の文学
カズオ・イシグロと、ボブ・ディラン――ノーベル文学賞を受賞した二人の“ミュージシャン”という共通点
カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞した速報は、一瞬で世界中を駆け巡り、日本の片隅でひっそり息をする私にとっても、特別なニュースとなった。
日本でも、受賞以前からイシグロ作品は人気を博していた。なかでも『わたしを離さないで』は知名度が高く、TBSでドラマ化されたり、蜷川幸雄によって舞台化されたりもしたので、馴染みのある人も多いだろう。
私自身は20代後半の頃、社会人として働きながら大学院へ通