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あなたの強さを僕にも下さい。#ショートストーリ#青春
父さんが、午前中のデイーサービスから、送迎バス揺られて帰ってきた。
一息入れると「綾乃ちゃんにあったよ、いい子だね。」と今日あった出来事を話してくれた。僕は、綾乃さんと父さんが何をどう話したのか分からなかったけれど「うん、いい子だよ」とだけ応えた。
病気で倒れてから、父さんはすっかり老けてしまった。
それも仕方がない、生死の淵を彷徨っていたのだから。
「ねぇ、綾乃ちゃんって昴の彼女?」と母さん
偶然。#ショートストーリー#青春
溝の口から乗り換えの電車は、銀色の車体に赤いラインが入った電車。
6号車一番目のドアの左側がいつもの定位置で、わたしがドアを背にして話しかけると、昴くんは手すりにつかまってわたしの他愛のない話に相槌を打って応えてくれる。
間近に迫る中間テストの話や先生や同級生の話題。そして、今度行ってみたいお店に誘うついでに「昴くんの家にも行ってもいい?」と聞いてみた。
「えっ、ごめん、イヤ、って言うか、ダメっ…
「一緒にクレープ食べよっ♪」#ショートストーリー#青春
高校は川崎市立の高校だから、乗り換えの溝の口駅でほどんどの友達と別れる。
昴くんとわたしは偶然隣の駅同士だったから、最後まで一緒。わたしが先に降りて、昴くんは次の駅まで。だから、何となくもっと話したい時は、わたしが自分の降りる駅を乗り過ごし、昴くんの降りる駅まで着いて行く。わたしがペロっと舌を出しておどけて見せると、昴くんも諦めて「あと30分だけ」のお願いを叶えてくれて、わたしの何でもない会話に付
ふたりの命は木となって。#シロクマ文芸部#紅葉鳥
紅葉鳥がこちらを見ている。朝霧の森に、燃えるような栗色した毛を朝の陽に照らしながら。
朝の霧は地面からゆらゆらとこの森の生命を産みだし、地を覆う緑を露が濡らしている。山道に迷ってしまったわたしは、一晩をこの森で過ごしてしまった。軽率な格好でこの森に入り、道に迷い、挙句の果てに一晩を過ごし、朝を迎えた。今、わたしが生きているのは奇跡なのかもしれない。森の朝と晩の寒暖差にわたしの命は凍えていたから。