記事一覧
【インスパイア小説】Here / homecomings
「お疲れ様でした。」
定時が過ぎ、気休め程の残業をしてもまだ人で溢れるオフィスを足早に去った。
薄暗くなり始めた街は夜の明るさを灯し始めていた。
眩しくそびえる高層ビル、その隙間を足早に行き交う人々、荒々しく走り去る車、連なる飲み屋の活気。
今にも溺れてしまいそうだ。
それらを遮るかのようにイヤホンで蓋をし、柔らかい遠くの空に凛と光るそれを目指して私もまた早足で歩いた。
春風の香ばしい匂い
【短編小説】灰色の水平線を辿って
思い出すのは、いつだってちょっと切なそうな、悲しそうな、寂しそうな、けれどどこか嬉しそうな、私を見るあなたから滲んだ表情。
もしかしたらそれは幻想なのかもしれない。
けれど、ほんの少しだけ醸されたそれを、私はもう何年も忘れることができない。
心に住み着いてしまったそれは、私とあなたを繋ぐ唯一の形ある存在なのかもしれない。
中学1年生の時、入学早々私は大きな一目惚れをして、斜め後ろの席の彼の
【短編小説】消えた虹に想いを馳せて
吹き飛ばされそうなほど強い風の日
20分以上かけて歩いて保育園に子供をやっとのことで送り届け、ぐでんと横たわっていた白い猫の死骸を避けて帰ろうと大通りを歩いた。
どんより薄黒い雲が空を覆う
こんなに朝早くから結構な距離を歩いているのに、爽快さを感じるなんてことはない。
むしろ、心のざわめきに体がそのまま晒されているような感覚だった。
風は荒ぶっている
目にゴミが入る
髪の毛は乱れ、衣類はまとわ
【インスパイア小説】Sad number
インスパイア小説
Laura day romance / Sad number
******
この景色を見るのはもう最後か…
沈みかけた夕日が眩しく、丸く縮まった背中をぎゅっと抱きしめ、顔を埋めた。
外国風の柔軟剤のこの匂いも、この感触も、最後か…。
心地いい風とともに、落ち切ったカラーで黄色くなった髪が顔にかかる。
少し大きめのヘルメットがかたかたとズレるのがもどかしい。
もっと、今
【インスパイア小説】Vaundy/踊り子
こちらは音楽から着想して筆者の頭の中で創られた短編小説です。
Vaundyの踊り子をもとに創作しました。MVとともに、BGMにしながらお楽しみください。
*******
平日の昼下がり
じいさんばあさんの集い場と化した喫茶店で俺は詩を描いていた。
高校時代に組んだバンドで出した歌がほんの少しだが話題になり、そのままプロのミュージシャンになるためバイトしながら音楽活動をしている。
だが、現