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#短編小説

小説?|ブルーハワイ・フロート

小説?|ブルーハワイ・フロート

前置き
 文学的な問題は一切孕んでいません。

本編
 午後一時半の中心業務地区は酷暑と言っても差支えがないほどに大気が煮えていて、アスファルトの照り返しが私の脚をストッキング越しに刺す。何故こうも高層ビルばかり空を埋め尽くすように建っているのか――それは地価が高い以上そうせざるを得ないのだ、そんなことわかってるのに――ただ、これではまるでコンクリートの雑木林と形容せざるを得ない。植林地でもいい。

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【ショートストーリー】君の代わりに彼を買った日 後編

【ショートストーリー】君の代わりに彼を買った日 後編

私はともくんに抱きしめられながら、夢と現のはざまを漂っていた。
彼の胸板の厚さとか、呼吸の気配とか、その囁きとか、耳に残る声とか。

見えないくらい近くで抱きしめられながら、私はともくんとただお話をしている。不思議な感触だった。
時々彼のヒゲが、私の肌にこすれる。その時に、微妙に私の身体が反応するけれど、ともくんはその事には一切触れない。

「やらないにしろさ、こういう接近戦はその子とは出来ねーだ

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いつか還る場所にも咲いていてほしい花

いつか還る場所にも咲いていてほしい花

会ってすぐ、左手の薬指を確認した。まだ結婚してなかった。ホッとした自分がいた。

「アプリコットサワーにします」
「あーやっぱりな。じゃあシークワーサーサワーにしよ」
それ迷ったやつだ。あーやっぱりな。

やっぱりいいなあ。

仕事で気になる人に会った。直接会うのは年末のクリスマスディナー以来だ。以前自分のインスタに何の気なしにあげていた好きなパティスリーのスイーツをお土産に買ってきてくれた。いま

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【詩】失っても

【詩】失っても

床に倒れこむようにひれ伏す

窓の隙間から細く光が射し

本の一頁を照らす

何もかもが全て崩れ落ち

何もかもが消え

誰もいなくなる

信じていたものは何

頼っていたものは何

委ねていたものは何

周りにうず高く積んで

これが全部自分のものと

声を出さずに見せつけていた

決して自慢ではない

決して見せびらかしてはいない

決して見下してはいない

それでも崩れる時は

一瞬に崩れて

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【詩】一滴の温かさ

【詩】一滴の温かさ

辛苦の眠りから覚めるわたし
純粋な雫が胸の奥で
一滴落ちる

見たくないだけだった
聞きたくないだけだった
触りたくないだけだった

永い眠りの中で
飛び散る細かい粒が
新鮮な旋律とともに
わたしの中で響きだす

逃げ出した先の翳りの中で
安息なんてなかった
苦しさの中の永い眠り
聴きたかったのは美しい調べ

冷たい思ひが溶けて
心のドアをそっと開いて
くつろぎたかっただけ

逃げても追いかけてく

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桜の恋のおまじない

桜の恋のおまじない

雲ひとつない水色の空。
古びたベンチに座り、眩しい太陽の光と、薄紅色の桜を細目で見上げる。

この季節になると、私はいつも桜の木の下で、この花びらが早く散らないかと願ってしまう。

今年も、開花宣言をしてからあっという間に満開になってしまった、木下公園の桜並木。

あいつは、今どこで桜の木を眺めているんだろう?
考えるだけで、胸がぎゅっと胸が苦しくなる。

「千春、また待ってるの?」

私の隣に腰

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セブンアワーズ

セブンアワーズ

『今から7時間後、あなたの記憶はリセットされます。』

無機質な白い壁の何処からか響く、同じく温度のない声。

『あなたにはミッションを行って頂きます。ミッションのクリア過程により続行、保持できる記憶が決まります。』

ひらり、上から一枚の紙が落ちてくる。
部屋と同じく白い紙には何やら指示の書かれた紙が書いてある。

『それでは、悔いのないよう7時間をお過ごしください。』

プツンと音を立ててスピ

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小説「あなたがここにいてほしい」

小説「あなたがここにいてほしい」

 これ、乗ってみてもいいすか?
 それがはじめて、あなたがわたしにかけてきた言葉でした。
 わたしはその時、車いすから背もたれを倒した椅子に移り、うとうととまどろんでいました。職場の昼休み、軽い昼食をすませると、そうしてからだを休めるのが常でした。別に車いすのまま机に突っ伏してもいいのですが、一日のどこかで、五歳の頃から二十年以上乗り続けているタイヤと肘掛け付きの乗り物から解放されたい時間が欲しか

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おない年の酒、その他

おない年の酒、その他

※この記事は投げ銭制です。全文読めます。

 健診センターへ出向き、予定していた健診を受けてきた。

 前職場にいた頃は、とにかく早く済ませて仕事に戻ろうという会社勤めのひとたちでごったがえしていた。だが今はこういう状況なので、厳密に予約時間が決められていた。そのためかセンター内は驚くほどすいていて、予定していた検査は滞ることなく進んだ。

 検査が終わって、受付で採血、採尿の速報結果を受け取る。

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短編小説『この手が届くのは』

短編小説『この手が届くのは』

「どうしよう……」
 陽菜は途方に暮れていた。あろうことか何もない場所でこけたのである。幸い大した怪我はなかった。だが衝撃でかけていた眼鏡が吹っ飛び、タイミング悪く自転車にひかれてしまったのだ。
 自転車に乗った人は「やっべ」と言いながらもそのまま通り過ぎていってしまった。確かにあんな予想もできないタイミングで眼鏡が転がってくれば「自分のせいじゃない」と思いたくなるだろう。だけど足を止めて謝るくら

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メモ

メモ

春の五月雨、夏の時雨、秋の夕暮れ、冬の虎魚。

継承とは自ずから進むべきであらう恋慕でありながら、孤独であり、暗闇の由縁である。気づく人はいつも同じことを言う。

決して果たさない約束はしないと———。

恋

目を瞑るたびに浮かぶあなたを消したくて、音を聞いた。

雨がベランダの柵をコツコツと打つ音が聞こえる。黒くて硬質な柵の上に水が落ちる。白い肌がぼんやりと映し出される。私の白い手が柵に触れている。その手の小指に重なる少し太い小指。あなたの大きくて骨張った手が指一本だけ重なるように並んでいる。

あなたの手の気配を消したくて、鼓動を聞いた。

体のなかに意識を向かわせ、心臓の音を聞く。呼吸が整う。トク

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やばいかもなあ、を、ごみ箱に捨てる。

やばいかもなあ、を、ごみ箱に捨てる。

朝、6時。いつもの時間、スマートフォンのアラームで目が覚めた。一度トイレに行って、また寝間に戻り、着替えをすませる。そのあと居間に行き、血圧測定、洗顔、そしてロールパンに野菜ジュースと飲むヨーグルトを混ぜた、いつもの朝食を食べる。

その時、ついテーブルの向かいの席を見た。というより、見てしまった。そして、ため息をついた。少し前からなるべくつかないようにしようと決めていたのにはやくもやってしまった

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君も星だよ

君も星だよ

「自殺予防週間なんだって」

唐突にそれだけ言った人は、ずれたマスクを左指で戻しながら窓の外に目を向けた。電車が揺れる。さっきまでその人が見ていた方に、【9月自殺予防週間】という広告があった。へえ、それだけ答えた自分の声がマスクの中で自分に戻ってきた。最近、思う。生きるってこんな感じだよな。発した声がマスクの中で跳ね返って自分にぶつかるように、知りたくないことでもインターネットで検索すればちゃんと

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