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短いおはなし

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原稿用紙10枚ほどのおはなしがメインです。長くなったら連載にします。 【短編小説】10枚〜100枚 【短め短編小説】3枚〜10枚 【脚本】10枚前後
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記事一覧

【短め短編小説】2126年、永遠の平和 #シロクマ文芸部 #平和とは

【短め短編小説】2126年、永遠の平和 #シロクマ文芸部 #平和とは

 黒髪の美女、リリはそう言って私の部屋で微笑むと、オレンジ色のタブレットを口に放り込んだ。

 とはいうものの、彼女は空間に映し出されたCMの三次元イメージだ。地球人口が2億人まで急減し、人類が絶滅の危機に晒される2126年、視聴者は、動くイメージをいつでもどこでも好きなように映し出すことができる。

 リリは完美生活製薬のイメージキャラクター。完美生活製薬は、何があろうと日々、至福感で満たされる

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【短め短編小説】〈存在〉の物語 #シロクマ文芸部 #書く時間 #SF

【短め短編小説】〈存在〉の物語 #シロクマ文芸部 #書く時間 #SF

「書く時間ですよ〜!」
ジュールの声が真っ白な部屋に響き渡る。

 すると、青く光り輝くウニート達は、数え切れないほど並ぶ机に一斉に着く。机の上にはレモン色の優しい光を放つ角の丸い正方形のタイルが置かれている。私達ウニートは、レモン色に光るタイルに向かって思い切り物語を綴る。

 私達が書くのは、この世に存在するすべての〈存在〉の物語だ。有機物も無機物も――つまり、生きているものも、そうでないもの

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【短め短編小説】イヌイットの祈り #シロクマ文芸部 #食べる夜

【短め短編小説】イヌイットの祈り #シロクマ文芸部 #食べる夜

「食べる夜」はイヌイットが話す言葉の1つであるイヌクティトゥット語の「ウンヌアッククート ニリニーク」の日本語訳だ。

 イヌクティトゥット語はカナダのイヌイットによって話される言葉だが、「食べる夜」はグリーンランド最北の地、カーナーク近くで執り行われる秘密の儀式を指す。この地域の人々はイヌクトゥン語を話すのに、なぜ儀式の名前がカナダのイヌイットが話すイヌクティトゥット語なのかは誰も知らない。

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【短め短編小説】Life Goes On #シロクマ文芸部 #消えた鍵

【短め短編小説】Life Goes On #シロクマ文芸部 #消えた鍵

「消えた」鍵は今もあの場所にあるのだろうか?――日本を発ってから、この疑問は、私の頭を片時も離れることはなかった。

 5年ぶりに訪れたフィレンツェは、街そのものが1つの芸術品であるかのように相変わらず美しい。オレンジ色の屋根が連なる街並み、石畳、大聖堂、教会、宮殿、鐘楼、塔、橋その他の建築物が訪れる者を古の昔へと誘う。もしヨーロッパで何処に住みたいかと尋ねられたら、私は迷いなくフィレンツェと答え

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【短め短編小説】2057年、「月の耳」の旅 #シロクマ文芸部

【短め短編小説】2057年、「月の耳」の旅 #シロクマ文芸部

「月の耳」を訪れる宇宙の旅は世界中で人気を博している。2057年12月21日金曜日、午後2時48分、あと12分で月面行きの電磁シャトルバスがここ種子島の滑走路を飛び立つ。機長と副操縦士を含む6人のクルー、35人の乗客は、すでに離陸態勢を取り、その瞬間を待ちわびていた。そして機内と滑走路の映像は、見送る家族や友達のデバイスに送られていた。

 電磁シャトルバスに搭載された8機のエンジンが「ウィーン」

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【短め短編小説】A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 3 徹君の場合 (2790字)

【短め短編小説】A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 3 徹君の場合 (2790字)

【これまでのお話】
A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 1 私の場合
A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 2 泉先生の場合

 こんにちは。竜崎蓮の12年来の友人、藤澤蘭子です。今日も蓮の話をしたいと思いますが、特異体質を持つ蓮のことを分かっていただくためにデータシートを作成しました。初めて蓮の話を聞かれる方はぜひ目を通してください。蓮のことをすでにご存じの

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【短め短編小説】『A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 2 泉先生の場合』《A bit Painful but Heart-warmingなお話》(2418字)

【短め短編小説】『A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 2 泉先生の場合』《A bit Painful but Heart-warmingなお話》(2418字)

蓮の不思議な体質 (前のエピソード「私の場合」をお読みくださった方は「泉先生の場合」へどうぞ。

 前回、私こと藤澤蘭子は、竜崎蓮と自分の一風変わった友達関係について話しました。そして蓮の不思議な体質のことも……。
 蓮は他人に触れた途端、その一触れでその人の苦しみを一瞬にして体に取り込み理解します。そして、その苦しみの度合いに合わせてその人に寄り添い、癒やすという運命を背負っています。やがて取り

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【短め短編小説】『A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 1 私の場合』《A bit painful but Heart-warmingなお話》(3455字)

【短め短編小説】『A Brush(ア・ブラッシュ)一触れ☆Episode 1 私の場合』《A bit painful but Heart-warmingなお話》(3455字)

 英語で”a brush”は、「一触れ」……ちょっと触れることという意味がある。
 そして、私の元彼、竜崎蓮は、この一触れに纏わる不思議な体質のおかげで大変な人生を送っている。蓮と私が別れたのも、その体質が原因だ。
 でも私は、蓮と別れることにはなったけれど、その特殊な体質のおかげで救われた。

 蓮と私が出会ったのは、私達が大学4年の夏だった。
 私は涙で顔をぐちゃぐちゃにして、清水公園の噴水の

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【脚本】『英雄たちの革命』約10分《Funny but Satiricalなお話》

【脚本】『英雄たちの革命』約10分《Funny but Satiricalなお話》

登場人物:
謎の鹿1(声は後出の豊臣秀吉)
謎の鹿2(声は後出の西郷隆盛)
謎の鹿3(声は後出の織田信長)
謎の鹿4(声は後出の坂本龍馬)
謎の鹿5(声は後出の徳川家康)
西郷隆盛(49)
坂本龍馬(31)
徳川家康(73)
豊臣秀吉(61)
織田信長(47)
女子アナ(24)
矢田陽介リポーター(32)
評論家(63)
望月官房長官(68)
沢口首相(65)

*スマホの方は、書式の関係で横にし

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【短め短編小説】『山桜』《Bright & Hopefulなお話》(2121字)

【短め短編小説】『山桜』《Bright & Hopefulなお話》(2121字)

「何時ぐらいに帰ってくるの?」
玄関で登山靴を履いていると、背後で母の声がした。
「今日は近場だから早いと思う。昼過ぎには帰るよ」
「そう、気をつけてね」
 パジャマ姿の母は、そう言うと寝室に戻っていった。

 月に1度か2度、気が向いたら俺は山に出掛ける。行くときは独りだ。普段は近場の1,000メートルほどの山、休みが取れれば1、2泊で日本アルプスにも出掛ける。
 初めて山に行ったのは3年前の3

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【短編小説】『私の中の獣』ノーベル賞作家、大江健三郎さんを偲んで 《Deep & Darkなお話》(5211字)

【短編小説】『私の中の獣』ノーベル賞作家、大江健三郎さんを偲んで 《Deep & Darkなお話》(5211字)

 篠田洋介は、出会った43年前と同じ聖人のように高貴で穏やかな笑顔を浮かべて私の足元で仰向けに倒れていた。そのときも、今も変わらず、その笑顔は私の中の獣を刺激した。食道の壁を野火のように広がり腹の底から駆け上がろうとする苦い刺激性の液体を私は必死で飲み下した。私は、凍てつく失望と煉獄の炎のような自己嫌悪に押し潰されそうになった。自分はなんと弱いのか。これほどの衝撃を受けずに、人ひとり殺すことすらで

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