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うつわマガジン2019

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#うつわ

うつわに寄りかかる

うつわに寄りかかる

つかれたら、悲しくなったら、寄りかかりたくなるでしょう。元気なら、愉快なときなら、寄りかかってもらえてうれしいと思うでしょう。

「静かに寄りかかる」30年前、20年前、10年前、5年前と、うつわの存在が良い方向に変わってきている。土鍋の扱かわれかたもどんどん明るい世界に動いている。

小売についてではない。なんとなく、うつわがスポットを浴びてがんばっているなと。一時期のゴールデンエポックには、

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旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(前編)

旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(前編)

イタリア語「スケルツォ」は「冗談」という意味かつ、音楽の世界では快活で急速な三拍子の楽曲を示す。おどけた感じが「冗談」という言葉と重なる。ショパンの「スケルツォ第2番 変ロ短調」などがそのひとつ。

前半目次

1. 肉眼と無限遠なレンズ私たちはリグーリアの海にいた。
前の晩に書いた七夕の短冊を見ながら「願いは叶うのだろうか」なんて、無限遠に合わせたレンズでもって話していた。娘のように年齢が離れて

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ヨーグルトがピンク色にそまるときの味

ヨーグルトがピンク色にそまるときの味

白いまちと白いヨーグルト

春の気配がないままに3月のビリニュス(リトアニア)には真白な世界が広がっていた。眼前の景色のような真白なヨーグルトを朝食でたっぷりいただく。

リトアニアは酪農国。
古くから日本同様に発酵文化をもつ国。

塩味でいただく白い世界

ヨーグルトといえばギリシアと思われるが、ご多聞にもれず東欧もヨーグルト国家。そのひとつにヤギ皮の袋に乳と菌を入れて発酵させていたケフィアヨー

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迷宮からうまれた「旅する土鍋」

迷宮からうまれた「旅する土鍋」

あるとき土鍋をかかえてイタリアの広場に座ってまどろんでいたら、自分がどんどん小さくなって土鍋のなかに入りこんでしまった。かれこれ30年も時がながれた陶歴のなかで、うつわの迷宮にはいりこんだのは2回目だった。

1回目は30年前の学生時代、冷たいろくろ引きのうつわの中で水没しそうに慌てふためいていたが、2回目は妙に肝がすわっていた。

「このまま旅したい」そうそう、みなさんにこれを説明すると驚かれる

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ちょっとブレイク「土鍋でみかんサラダ」

ちょっとブレイク「土鍋でみかんサラダ」

表面ではわからない酸っぱさ表にでている分かりやすい現象に飽きることがある。ただの天邪鬼かもしれないし、だからモノをつくる仕事をしているのかもしれない。

「夏みかん」は、晩秋には色づいても酸味が強くて食べられない。冬に収穫したあと貯蔵して酸をぬく、または木なりで春から初夏まで完熟させてから収穫する。表面ではわからないのだ、酸っぱさは。

むいてしぼってわかる酸っぱさ

写真は、先月、料理家である友

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ちょっとブレイク「うつわと食器棚」

ちょっとブレイク「うつわと食器棚」

パスクア(イースター/復活祭)であった昨日は、第二の故郷であるイタリアの友人たちから「よき復活祭を!」「おめでとう!」というような(メリクリ、あけおめ的な)メッセージとタマゴの写真が次々と届いた。

返信用に、ぐいのみをエッグスタンドに見立て、リトアニアのニット作家が編んだ帽子をタマゴにかぶせて写真を撮った。中央が最近の試作品、両サイドはミラノ修行時代の作。ただのタマゴが、わたしをはじめ肌の色が異

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ちょっとブレイク「春の土鍋」タンポポちらしのポタージュ

ちょっとブレイク「春の土鍋」タンポポちらしのポタージュ

冬のバターナッツと春のタンポポがスープの中で出会ったら

冷暗な場所で冬のあいだ保存していた古参バターナッツかぼちゃと、庭の新人タンポポが出会う。春の新タマネギも仲介役で。出会いというものは、理想から現実の味にかわる瞬間だ。

「バターナッツのポタージュ」
Cocciorinoの土鍋(白)

かれこれ15年~16年くらい、山梨の個人農場に野菜の宅配をおねがいしている。彼らの有機農法(一部自然農法)

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ちょっとブレイク「春のおとない」

ちょっとブレイク「春のおとない」

春うららであるが、こちらは泥どんよりとでもいおうか。

生きたものを相手にする仕事とは、つめるなと言われても、根をつめなければならないことがある。相手がどんどん育ってしまうのだから、全ての体力でおいかける。子どもを育てることにも似ている。土の中の根っこも、人も、つめられたら苦しいだろう。

イタリア人の陶芸師匠の仕事っぷりにはこの「つめる」がなく「おす」くらいなんだよなあと、冷たい水道水で手を洗い

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ちょっとブレイク「春のうつわ」レシピをよむ

ちょっとブレイク「春のうつわ」レシピをよむ

うつわに物語があるのだから料理の物語も読みたいと思うようになったのはいつごろからだろう。

料理は好きだし、一人暮らしや海外生活の経験からか、食材や道具は代用品を考えるクセもついた。つくるのに困ることもなかったので、レシピをわざわざ見ながらつくったり、料理教室に行ったこともなかった。それが一転したのはいつごろかな。

伝えたい想いがあるのだから料理教室もレシピ本も、物語を読み解きたい。上手につくる

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ちょっとブレイク「春のうつわ」八重の山吹

ちょっとブレイク「春のうつわ」八重の山吹

天寿というものがあって、人はいつか旅つわけで。遠くて近いところへ。親をはじめ、生きるものはさようならと手をふってゆく。

意図せずに、新しく元号がかわる前の日、義理の両親の家は引き払われた。

分け枝をして我が家のちいさな庭に植えた山吹。もう15年くらい経つだろうか。なにかを告げにきたかのごとく、今年も我が家のちいさな庭に、静かに低く咲いていた。

彩度を落とし控えめに光を透く桜。それと同時季に咲

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ミニミニ土鍋でインスタントスープ

ミニミニ土鍋でインスタントスープ

土鍋のなき声ある秋の日、しくしく泣いている土鍋の声をきいた。

「土鍋うちにあるので」「土鍋しまう場所がないので」ついには「土鍋あるけど上の棚にあるからめったに出さないわ」という声を、数年前までたくさん聞いた。耳をすますと、枯れた土のようなしゃがれた泣き声が家々から聞こえてきた。10年前、土鍋をつくりはじめた頃のこと。

コッチョリーノの展覧会にいらっしゃるお客さまは天使だから、笑みをこぼしながら

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「白菜ウィーク」前編(ちょっと大きめなうつわで白菜)

「白菜ウィーク」前編(ちょっと大きめなうつわで白菜)


1. ちょっと大きめなうつわのススメ白菜がとてもおいしい季節。おまけに格安。勝手に「白菜エヴリディ」と名づけて白菜をむさぼり楽しむことにした。スイカ割り気分で大きな白菜をざぐぐと割るのは爽快だ。たまには豪快につくって豪快に盛るのもいい。

ひとつの食材でさまざまなメニューをつくり、自作のうつわ(今回は大きめなうつわ)に盛って、課題を見つめる実験をこっそりするのが好き。

結果はいつもこう。うつわ

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