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おすすめ小説まとめ

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noteのおすすめ小説。小説紹介記事をまとめています。読書好きさん必見✨
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お題小説『セピア色・僕と違う華奢な手・両想い』

お題小説『セピア色・僕と違う華奢な手・両想い』

 『思い出はセピア色』だなんてフレーズは、誰が言い出したんだろう。
 僕の記憶に残っている“あの日”は、まだ鮮やかに色付いている。決してセピアにも、モノクロームにもなっていない。だとしたら。もしかしたならば。
 ペダルを漕ぐ足に力を入れる。きっと間に合ってくれるはずなんだ。君が思い出になっていないのなら。

 発端はなんてことのない、いつも通りの“遊び”だった。
 七年前その日は、同級生のタクとリ

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【小説】ご注文はいかがなさいますか?(#たいらとショートショート)

【小説】ご注文はいかがなさいますか?(#たいらとショートショート)

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
「じゃあ……カシスオレンジ2つ」
「かしこまりました」

 20歳になった記念にと、仕事帰りにやってきた居酒屋。
 帰路にあるので知ってはいたが、実際に入るのは今日が初めてだった。
 一緒にやってきたカエデは、飲み物を頼んだきり、ずっと下を向いてスマホをいじっている。
 最近の彼女は常にそうだ。スマホも体の一部なんじゃないかと思えてくる。
「何見てるの?」

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ドラレコとあおり運転と俺

ドラレコとあおり運転と俺

最近、”あおり運転”の影響もあって、会社の車にドライブレコーダーが設置された。
前後に一つずつカメラが付いている。おまけに、運転技術が採点される機能付き。
毎日運転するたびに、誰かに見張られているようで緊張する。

今日も取引先を回るため、車に乗らなければならない。
乗車する前には、必ず点呼をする。
『お酒を飲んでいませんか?アルコールチェックお願いします。』
『薬を飲んでいませんか?』
『睡眠時

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1アンペアでも人は死ぬ

1アンペアでも人は死ぬ

 さまざまな形のスマートデバイスが普及して久しい。このスマートウォッチは、心拍計と睡眠モニタリング機能も搭載されたタイプだ。取得して蓄積されたデータは解析され、リアルタイムに状況分析が行われフィードバックされる機能を備えている。ある意味、自分よりも自分について詳しい存在と言えるのかもしれない。
 また、健康管理機能もあり毎日決まった時間に起床するよう設定したアラームはもちろん、睡眠時の寝汗を検知し

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#1 紺碧のトライアド

#1 紺碧のトライアド

紺碧のトライアド -Triad in Azure-> 一羽の鳥にむかって、自己は自由で、練習にほんのわずかの時間を費やしさえすれば自分の力でそれを実施できるんだということを納得させることが、この世で一番むずかしいなんて(『かもめのジョナサン』より)

第1楽章 #1
 朝の光が私の頬を射した。もう少しだけ――と自分に言い聞かせて、夢とうつつの間を行き来する。二度寝がもたらしたの、闇の中を飛ぶ夢だっ

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【ショートショート】おじいちゃん部【#完成された物語】

【ショートショート】おじいちゃん部【#完成された物語】

最近、公民館の予約表に『おじいちゃん部』がよく登場する。

「何かしら、おじいちゃん部って。老人会の男性版?」

私が首をかしげていると、

「おい!こんなところにいたら巻き込まれるぞ!」

突然声をかけてきた男性。

「え?」

「ダメだ、もう来た!」

見るとそこにはたくさんのおじいちゃん。

「おじいちゃん部だ!おじいちゃん部が来たぞお!」

男は叫ぶと逃げて行った。

何がどうなっているの

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二重人格缶詰【ショートショートnote杯】

二重人格缶詰【ショートショートnote杯】

 二重人格缶詰なるものを製薬会社が発売した。A缶、B缶とセット販売すると、ネーミングのインパクトからすぐに話題になった。慎重のA缶、大胆なB缶という相反するイメージが、二重人格缶詰という商品名になったようだ。
 ただ、消費者は慎重だった。まず、価格が合わせて一万円と高額だ。第二に中身の形状がまた消費者を困惑させた。缶詰の蓋を開けると気体状のものが出てくる。それを浦島太郎の如く、吸う事でABそれぞれ

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【ショートショート】冬になりきれない秋と若者

【ショートショート】冬になりきれない秋と若者

 それは、もう秋も終わる頃だというのにまだ暖かい、とある11月の夕方。町外れの小さなラーメン屋でのことだ。

「いらっしゃい」

 暖簾をくぐって、ひとりの若者がラーメン屋に入ってきた。
 ちょうど、前の客を送り出して無人だった店のカウンター席の真ん中に座るなり、若者は店主に向かってこう言った。

「親父。あんかけ煮込み土鍋ラーメンはあるか」

「すんませんねえ、まだ今年は始めてないんだよねえ」

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よみがえるドライバー

よみがえるドライバー

壊れたものを何でも「ドライバー」を使って直すことができる男がいた。

どこに頼んでも修理できなかったものがその男の手に渡ると元通りになるのだ。

そのため徐々に口コミで有名になり、その男の元へいろんな人がやって来るようになった。

そしてついにテレビの取材がやってきた。

「どうして誰も直せないものを、何でも簡単に直すことができるのですか?」

「それはね…実は私が使ってるこの特殊な『ドライバー』

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【ショートショート】伝説の先輩の伝説

【ショートショート】伝説の先輩の伝説

「ウソ!? ヒュウガ先輩じゃん!!」

リカがいきなりそんな叫びを上げた。

人生初のバイトが怖いからって、幼馴染の私に「お願い! ウチと一緒にバイトして!」と泣きついてきたうえに、研修初日の今日もさっきまで泣き出しそうなくらい緊張していた子が、いきなりすごいテンションだ。

「ちょっとリカ、声大きすぎだから」

「え、だってヒュウガ先輩だよ? あのヒュウガ先輩!」

リカが指差す先には、私たちの

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故郷の味|1,053字

故郷の味|1,053字

 彼の元にその郵便物が届いたのは、彼が大きな仕事を片付けて長期休暇に入った初日の朝方のことだった。

 自宅に備えてある宅配ボックスを開けると、そこには彼の故郷の名とイラストが印刷されたダンボールが入っており、それは彼が故郷に収めた『ふるさと納税』のお礼の品に違いなかった。

「あぁ、もうそんな時期だったか……」

 そうつぶやいてから箱を開けてみると、そこには真空パックされた状態の『のっぺ汁』が

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健康第一|4,090字

健康第一|4,090字

 それが人体に対して有害であるという研究結果が発表されたのは、それが発明されてから200年以上も経過した22世紀初頭のことであった。

 その昔、人類は遠く離れた相手とコミュニケーションをする手段を持ち合わせていなかった。

 それを可能にする技術が最初に発明がされたのは19世紀後半のことで、複数の研究者がその特許をものにするために研究を進めていたが、最終的に特許を取得して歴史に名を残すことになっ

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その手を離さないで。

その手を離さないで。

ヒロトシは僕の親友だ。

クラスの人気者だったヒロトシと、教室の隅で本ばかり読んでいた僕。なんで仲良くなったかは忘れたけど、毎朝ヒロトシは僕を迎えに来てくれた。

中学生になり、僕は陸上部に入った。足だけは速かったから何度か県大会で入賞した。

3年の体育祭。リレーでヒロトシとのアンカー勝負に勝った僕は一躍人気者になった。おかげで人並みに友達はできたけど、女の子の目を見て話せないのは相変わらずだっ

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コイツを好きとかありえない。

コイツを好きとかありえない。

#2000字のドラマ

「中村薫(なかむらかおる)って、女かと思った」

 その言葉にカチンときてキレなかったのは褒めて欲しい。
 初対面でそんなデリカシーのない発言をした堀綾香(ほりあやか)の印象は最悪だと思った。

 そんな堀は自分が所属する天文部で唯一の女子であり、自分と同じ学年の部員だった。
 男子しかいない天文部で女子の堀の入部は歓迎されたものの、堀は女子でありながらおしとやかの欠けらも

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