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物語の言の葉

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SFショートショート『倍速の果て』

SFショートショート『倍速の果て』

定年退職し、悠悠自適で過ごすはずが、今は孤独と恐怖に打ちのめされている。目がまわりそうなくらいに時代が激変している。歩いている人たちが、疾走しているようにみえているのは私だけなのだろうか? 心なしか、ぼぉっとしているあいだに、妻の顔の皺がふえ、髪の毛が白くなってゆくようだ。時計が急スピードで回転してみえる。すべてが倍速、加速し続けている。

人類の歴史をなぞるかのような出来事。まるで百年が一年に集

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ショートショート『マクア』

ショートショート『マクア』

闇金融に手をだした俺が馬鹿だった。親会社の倒産のあおりをくって、俺の会社までがあぶなくなった。資金ぐりのため、あちこちの金融会社に手をだし、にっちもさっちもいかなくなった。

ふと電柱に貼られた金融会社の電話番号をみて連絡をとり、希望の融資をうけることができた。しかも、お金での返済ではなく、融資分だけの精神的苦痛という利子と元金を返す仕組みという契約だった。
 
毎晩の安酒で朦朧とし、現実と夢が交

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ショートショート『ライフブック』

ショートショート『ライフブック』

いつも立ち寄っている書店で、小説の本を棚から取ろうとしたさい、一冊の本が棚から落ちた。ひろいあげてみると、『ライフブック』という題名の本だった。装丁はハードカバーで、虹を思わせる七色のなかに白い文字の題名が静かに浮かんでいた。大きさは文庫本のようにも、大きな辞典の本みたいにもみえた。

パラパラとページをめくると、驚いたことにぼくと里穂の名前がでてきた。文字は印刷されたものではなく、ぼくの手書きの

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短編『天然記念人』

短編『天然記念人』

ここはオフィス街。その日は出勤当番の吉岡巧雄は、保険会社への出勤途中で、同僚でもあり恋人でもある彼女の鈴原文子と不安げに空をみあげていた。

「おいみろよ、あれはいったいなんなんだ。なにかがそこらじゅうを飛んでいるぞ!」

まだ二十代の吉岡は、彼女にむかって大声をあげた。 
 
三角型のものや、葉巻型とされるものが空中に浮遊していた。まるで出来損ないの映画の一シーンのように、あまりに鮮明にみえる物

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SFショートショート『リアルな日』

SFショートショート『リアルな日』

誰もが独りぼっちの元日だ。西暦2063年の今、私は六十一歳になっていた。しかし、医学と健康法が進歩して、肉体も見た目も三十代前半の若さをキープできていた。一部の国や地域以外の国々は、広大なドームのなかにあった。

私が二十四歳の頃に、太陽のフレアが世界を襲った。

その後各国がお互いに協力し、自然からの脅威から守るために、ドームのなかで都市作りがなされてきたのだ。

人との交流といえば、買い物もす

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ショートショート『すり減る』

ショートショート『すり減る』

突然、視界がゆれた。私のまえを歩いていた人の背が急にのびたようにみえる。いや、私の背が突然縮んだらしい。なぜなら私以外の大人がすべて私よりも背が高く、そばで不思議そうにみつめる男の子とおなじ目線であることに気づいたからだ。

そのうえ歩くことができない。思わず足をみるとその足が消えていた。

悪い夢だ。きっとそうにちがいない。私は目をつぶり、そしてゆっくりと目をあけた。

やはり現実だ。何度みても

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ショートショート『心をみる男』

ショートショート『心をみる男』

ぼくが小学生の頃にはわからないことがあった。ぼくにはとても恐ろしい顔にみえるのに、おかあさんや友達は可愛いという同級生たち。だけど、中学生の頃にはわかりかけてきたのだ。ぼくには人間の真実の姿、心の姿をみているのだと。
 
だからいつもおなじ姿にはみえない。おかあさんの顔がゴリラや鬼のようにみえることもあれば、その日によって観音像みたいな姿にみえることもある。基本の顔立ちそのものはそれほど変わらない

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ショートショート『美の迷路』

ショートショート『美の迷路』

突然の地震によって、倒壊した家の中で青年がひとり呻いていた。
かすかに残った意識の中に自分の人生が、木の葉がはらはら落ちていくようにみえていた。

その男は画家になるために芸大にはいり、自分にとっての美を追い求める日々だった。しかし、あるときある画家がその大学にやってきてその青年の絵をみて云った。

「画家になる事はあきらめたほうがいいな。君には美というものがわかっていない」

その初老の画家は口

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現代のホラー『ありがたむら』ショートショート

現代のホラー『ありがたむら』ショートショート

男は、ひとりで黒鳥山に登っていた。この日は男の32歳の誕生日で、ひとり、頂上にてワインで祝杯をあげる計画だった。だが、途中で道に迷ってしまい、薄暗い山のなか、つい足を滑らせて岩に頭をぶつけて意識を失ったのだった。
 
翌朝、気がつくと、いつのまにかベッドで寝ていた。緑色の土壁で、なんの装飾品もない、六畳ほどの薄暗い和室だった。
 
「ここはどこだ!」
 
大声をだすと、頭に激痛を感じ、頭を押さえた

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現代のホラー『地雷を抱いて眠る男』ショートショート

現代のホラー『地雷を抱いて眠る男』ショートショート

   
ぶんぶんと音がする。まわりをみわたすと、部屋の中を蚊のやつがひょいひょいと飛んでいた。私は蚊をみるたびに、昨年、32歳で亡くなった青谷の事をふと思いだすのだ。
 
青谷は私と同期で、広告代理店での同僚だった。おたがいに新入社員として入社し、おなじ事務の仕事をしている関係で、一緒によく飲んだものだった。青谷はまえからどちらかというと潔癖症で、洋式トイレではテッシュでふいてからすわると青谷は話

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ショートストーリー『笑葬』

ショートストーリー『笑葬』

桜の花が甲信越の地を、薄紅色に染めあげた頃、円山の訃報をうけとった。春は彼の一番好きな季節だった。

連絡をうけたのは、ホ―ムセンタ―での仕事を終えたあと、自宅でくつろいでいたときのことだった。北海道に住む高校時代の旧友である竹原から、円山が今朝、糖尿病が悪化して、突然亡くなったと知らされたのだ。私は父の転勤のため、高校時代を北海道で過ごした。その後、新潟に帰り、就職をしてから十五年の時が流れてい

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ショートショート『沙羅』

ショートショート『沙羅』

※ トップ画像は「Hecto77 」さんの作品です。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

中林原監督の遺作になるであろう、「沙羅」という映画の試写を見終えた。

沙羅という少女が大人の女性になり、そして結婚をし、子供を産み育てていく姿が描かれていく内容で、特別なストーリー展開があるわけでもなく、淡々と物語が進んでいき、最後に、沙羅の赤ちゃんの時代や幼い頃の映像が思い出として浮か

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SF童話『太陽の種』

SF童話『太陽の種』

※トップ画像はtomoさんの作品です。いつもありがとうございます。

宇宙には、多くの神さまがいます。そのなかに、太陽の家にも、植木鉢を育てることが大好きな神さまがいました。

太陽の家には、地球鉢や水星鉢など、九つの鉢がありました。そのなかで、地球鉢だけが青々と美しく育っていたのです。 

地球鉢は、水溜まりのなかに、茶色い土が浮いていて、そこにさまざまな木や花がうえられているのです。

そして

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睡眠爆弾・ショートショート

睡眠爆弾・ショートショート

毎朝恒例の散歩にでかけると、たくさんの人たちが、なにか酔っぱらいみたいにフラフラと歩いていた。なかには知っている人もいたので、声をかけてみた。

しかし、なにも答えず、虚ろな目をして歩きつづけていくだけだ。

なにかがおかしい。

私はいやな予感がして、自宅に帰り、テレビのスイッチをいれた。テレビでは緊急報道番組をやっていた。どうやら、昨夜、高名な催眠術師の生放送があり、それをみていた視聴者が、催

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