四条けん

虚構日記/研究日誌/文学/映画/エトセトラ

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考察『ドライブ・マイ・カー』の美

※この記事は映画および小説の『ドライブ・マイ・カー』のネタバレを含みます。ご了承の上、読んでいただけると幸いです。 ①はじめに映画『ドライブ・マイ・カー』は村上…

四条けん
3か月前
6

虚構日記「ここはビル風吹く砂漠-仙台旅行記②-」

「強風!手を離さないで!」 「ビル風」「取手から手を離さないで!!」 「喫煙可能店」「強風」 「お持ち帰り出来ます。ハヤシライス」 そんな貼り紙がめぐらされた喫茶店…

四条けん
3週間前
4

虚構日記「夜行バス-仙台旅行記①-」

金曜の夜、同期の友人たちと宅飲み手巻き寿司パーティーを催す。 好きな人が出来た、恋人のここが好き、あの人が嫌いだなどといった大学生らしい話を友人たちが繰り広げる…

四条けん
4週間前
3

虚構日記「アネモネの手紙」

計画的にレジ締め作業などを済ませ、退勤したのは22:11でした。 アルバイトを終えたわたしは駅に向かいました。大切なあなたに会うためです。 2人きりで飲むのはいつぶり…

四条けん
1か月前
6

虚構日記「転んで、ゲレンデ」

倒れる、と思う。 その予感は大抵当たる。身体が空中に投げ出される。加速から解き放たれ浮遊する一瞬の快感。だがそれもすぐに痛みへと変わる。視界が白くなる。腕の痺れ…

四条けん
2か月前
5

虚構日記「餃子食べ放題」

先輩に連絡をしたのはこの前のインターンの帰り道だった気がする。 朝から優秀な同い年に囲われて、おんぼろの濡れ雑巾みたいな顔色になってしまったわたしは誰かと繋がっ…

四条けん
2か月前
11

箸袋採集に向き合ったら「好き」を肯定できた

ごはん屋さんのお箸の袋を収集している。 もう10年以上続けている趣味だ。自分の中では読書と同じくらい染みついており趣味というより習慣といえるかもしれない。 見ても…

四条けん
2か月前
3

虚構日記「水曜日はサービスデー」

水曜日はサービスデー。 午前中に美容室に行ってわたしは可愛くなったんだもん。 このまま家になんて帰ってやるものか。 水曜日はサービスデーだから、映画館に出向いた。…

四条けん
2か月前
6

虚構日記「スーパーマーケットの姫草ユリ子」

スーパーマーケットでアルバイトをしている。 担当はレジ打ちだ。 17時から19時にかけて、うちの店はいつも混む。 そしてその時間にいつも自分は働いている。 自分とよく…

四条けん
2か月前
5

静物画の世界を学びたい理由

スペインの美術館を巡っていた際、強く心に残ったのは静物画の美しさだった。 特にプラド美術館で『Still Life with four Bunches of Grapes』と題された葡萄の絵と対峙し…

四条けん
2か月前
9

虚構日記「踊子と踊り子号」

週末の踊り子号は昼から賑わい、至る所で気前よく缶が開く音がする。 8号車9列目D席を昨晩恋人がわたしのために取っておいてくれた。 東京駅で「座れました」と一報を入れ…

四条けん
2か月前
4

虚構日記「香水」

代々木上原駅構内の化粧室で香水をつける。 手首とうなじにさりげなく。これがいまから一緒にご飯に出かける先輩と会う際のマイルールだ。 改札を抜けると小雨が降ってい…

四条けん
2か月前
1

虚構日記「世界のブックデザイン2022-2023」

後輩ふたりを連れて、都内の博物館へ出かけた。 世界のブックデザイン2022-2023という企画展が本日のお目当てだった。先述しておこう、無料である。 広すぎない部屋に通さ…

四条けん
3か月前
2

虚構日記「太宰の宿」

太宰の宿に泊まった。 ただしくは太宰治にゆかりのある旅館だ。 恋人がその宿を予約してくれた。 朝から鈍行列車に揺られたわたしと恋人は、お互い思い思いの本を読み、た…

四条けん
3か月前
2

2月第3週・研究日誌(と簡単な研究説明①)

今週は『農業への企業参入 新たなる挑戦』という本の第1章「企業参入と地域の農業」(石田一喜)を読んだ。 以前、大仲克俊先生の著されたレビュー論文を読んでいて登場した…

四条けん
3か月前
1

虚構日記「わたしメリーさん…いま東大前にいるの……」

2024年2月15日。トレンドワードに「春一番」と上がっているのを見た。 実際「春一番」と認定されたのかは調べていないから分からないけど。 でもあたたかい天気だった。 昨…

四条けん
3か月前
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考察『ドライブ・マイ・カー』の美

考察『ドライブ・マイ・カー』の美

※この記事は映画および小説の『ドライブ・マイ・カー』のネタバレを含みます。ご了承の上、読んでいただけると幸いです。

①はじめに映画『ドライブ・マイ・カー』は村上春樹の短編小説『ドライブ・マイ・カー』(『女のいない男たち』文藝春秋社)を原作としてつくられた作品だ。
なお『女のいない男たち』に収録されている『シェエラザード』と『木野』のエピソードも投影されている。
映画『ドライブ・マイ・カー』のあら

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虚構日記「ここはビル風吹く砂漠-仙台旅行記②-」

虚構日記「ここはビル風吹く砂漠-仙台旅行記②-」

「強風!手を離さないで!」
「ビル風」「取手から手を離さないで!!」
「喫煙可能店」「強風」
「お持ち帰り出来ます。ハヤシライス」
そんな貼り紙がめぐらされた喫茶店。
外からはあまり中の様子は見えない。入店。

ああ、確かに強風だ。

カウンター席に案内される。
感染症対策だろうか、席と席との間にパーテーションが鎮座しておりやや肩身が狭い。字面通りに。
コーヒーを頼み、持ってきた新書をひらく。

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虚構日記「夜行バス-仙台旅行記①-」

虚構日記「夜行バス-仙台旅行記①-」

金曜の夜、同期の友人たちと宅飲み手巻き寿司パーティーを催す。
好きな人が出来た、恋人のここが好き、あの人が嫌いだなどといった大学生らしい話を友人たちが繰り広げる。わたしは日本酒を飲み進める。4人で気付けば4本を空にした。

23時過ぎ。
自分の使ったお皿を洗い、洗面台を拝借して歯を磨いた。
気をつけてねと玄関まで友人たちが見送ってくれる。お土産を買ってくるからまた飲もうと言い、先に退出。

今晩向

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虚構日記「アネモネの手紙」

虚構日記「アネモネの手紙」

計画的にレジ締め作業などを済ませ、退勤したのは22:11でした。
アルバイトを終えたわたしは駅に向かいました。大切なあなたに会うためです。

2人きりで飲むのはいつぶりでしょう。
話すべきこと、話したいこと、話してしまいたいことを両手いっぱいに抱えながら、先に改札前に到着してあなたを待ちました。
数十メートル先にあなたが見え、思わず微笑むわたし。手を振る。あなたも手を挙げて合図を送ってくる。

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虚構日記「転んで、ゲレンデ」

虚構日記「転んで、ゲレンデ」

倒れる、と思う。
その予感は大抵当たる。身体が空中に投げ出される。加速から解き放たれ浮遊する一瞬の快感。だがそれもすぐに痛みへと変わる。視界が白くなる。腕の痺れを感じる。また倒れるときに手が先に出てしまったのか。

友人たちと群馬県のゲレンデに来ている。
人生初のスノーボードをやるために。
可もなく不可もなくどちらかといえば可な運動神経をもつわたしは、ここに到着してから1時間程度でリフトに乗って滑

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虚構日記「餃子食べ放題」

虚構日記「餃子食べ放題」

先輩に連絡をしたのはこの前のインターンの帰り道だった気がする。
朝から優秀な同い年に囲われて、おんぼろの濡れ雑巾みたいな顔色になってしまったわたしは誰かと繋がっている実感を得たかったのだ。

このところ先輩と連絡を取るのは少し控えた方がいいと思い始めていた。だからおとといLINEのトークルームのピン留めを解除したばかりだったけど、ちょっと下にスクロールしたらすぐ目に入る猫のイラストのアイコンが憎た

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箸袋採集に向き合ったら「好き」を肯定できた

箸袋採集に向き合ったら「好き」を肯定できた

ごはん屋さんのお箸の袋を収集している。
もう10年以上続けている趣味だ。自分の中では読書と同じくらい染みついており趣味というより習慣といえるかもしれない。

見てもらった方が早い。こんな具合だ。

ご覧の通り箸袋はお店の名刺になっている。
あまり店名が書かれたこうしたオリジナルの箸袋は少なくなってきているように感じる。
それゆえに、出会えるととても嬉しい。



就職活動をしているとエントリーシ

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虚構日記「水曜日はサービスデー」

虚構日記「水曜日はサービスデー」

水曜日はサービスデー。

午前中に美容室に行ってわたしは可愛くなったんだもん。
このまま家になんて帰ってやるものか。
水曜日はサービスデーだから、映画館に出向いた。

ビルの4階にある小さな映画館でチケットを買う。
水曜日はサービスデーだから、1300円。
結構席が埋まっていた。

映画を観ながら考えた。
今日の映画はわたしにとってはハズレだったかもしれない。
なんだかちょっと、かなしくなる。

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虚構日記「スーパーマーケットの姫草ユリ子」

虚構日記「スーパーマーケットの姫草ユリ子」

スーパーマーケットでアルバイトをしている。
担当はレジ打ちだ。
17時から19時にかけて、うちの店はいつも混む。
そしてその時間にいつも自分は働いている。

自分とよくシフトが被る大学院生のキムラさんは一昨日から熱で休んでいる。
キムラさんにはお世話になっているから代打を願い出たかったのだが、今日は元々シフトが入っていたからそれは叶わなかった。
アルバイトのメンバーがみんな入っているLINEのグル

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静物画の世界を学びたい理由

静物画の世界を学びたい理由

スペインの美術館を巡っていた際、強く心に残ったのは静物画の美しさだった。

特にプラド美術館で『Still Life with four Bunches of Grapes』と題された葡萄の絵と対峙した際はあまりの美しさにしばらく動けなかった。

衝撃的だった。
透明感と言えば形容できるのか、
瑞々しさでは不十分か、
どう表せばいいのだろうかこの美しさを。

衝撃のままに、ミュージアムショップで絵

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虚構日記「踊子と踊り子号」

虚構日記「踊子と踊り子号」

週末の踊り子号は昼から賑わい、至る所で気前よく缶が開く音がする。
8号車9列目D席を昨晩恋人がわたしのために取っておいてくれた。
東京駅で「座れました」と一報を入れる。わたしは文庫本をひらいて、横浜駅から乗ってくる恋人を待つ。

ミーハーなわたしらしく、今日持ってきたのは『伊豆の踊子』である。
康成は何冊か読んだが『雪国』や『古都』と比べ、『伊豆の踊子』は理解が追いついていない作品のひとつだった。

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虚構日記「香水」

虚構日記「香水」

代々木上原駅構内の化粧室で香水をつける。
手首とうなじにさりげなく。これがいまから一緒にご飯に出かける先輩と会う際のマイルールだ。

改札を抜けると小雨が降っていた。
小さな折り畳み傘を広げるのに苦労していたら、先輩が大きなビニール傘にわたしを招き入れてくれた。感謝の言葉を伝え、そのままふたりで店へと歩みを進める。

先輩が予約をしてくれたおかげでスムーズに席へと案内される。生ビールをふたつ頼んだ

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虚構日記「世界のブックデザイン2022-2023」

虚構日記「世界のブックデザイン2022-2023」

後輩ふたりを連れて、都内の博物館へ出かけた。
世界のブックデザイン2022-2023という企画展が本日のお目当てだった。先述しておこう、無料である。

広すぎない部屋に通されると、中には本がずらりと並んでいる。
厚さも大きさも手触りもひとつひとつ異なる、世界各国のブックデザインのコンテストで選ばれた精鋭の本たち。それらすべての本をぱらぱらとめくり、好きなだけ読むことができるのがこの企画展の大きな特

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虚構日記「太宰の宿」

虚構日記「太宰の宿」

太宰の宿に泊まった。
ただしくは太宰治にゆかりのある旅館だ。

恋人がその宿を予約してくれた。
朝から鈍行列車に揺られたわたしと恋人は、お互い思い思いの本を読み、たまに本を交換したりもしながらその宿を目指した。

わたしが持ってきた本は、太宰治の短編集「きりぎりす」。
恋人が持ってきた本は、石川直樹の「地上に星座をつくる」。

本を読んでいる恋人の横顔は素敵だ。
わたしが存在しなくても、きっと恋人

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2月第3週・研究日誌(と簡単な研究説明①)

2月第3週・研究日誌(と簡単な研究説明①)

今週は『農業への企業参入 新たなる挑戦』という本の第1章「企業参入と地域の農業」(石田一喜)を読んだ。

以前、大仲克俊先生の著されたレビュー論文を読んでいて登場した先行研究である。

そのレビュー論文のなかでこの石田(2015)は「現行農地リース制度に移行後、一般企業の農業参入は都市部や平野部で顕著にみられるようになった」「参入企業の経営の論理で参入地域が採択されている」と明らかにしたと書いてあ

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虚構日記「わたしメリーさん…いま東大前にいるの……」

虚構日記「わたしメリーさん…いま東大前にいるの……」

2024年2月15日。トレンドワードに「春一番」と上がっているのを見た。
実際「春一番」と認定されたのかは調べていないから分からないけど。
でもあたたかい天気だった。
昨日のバレンタインで春が訪れた人が多かったからこんな気温なのかもしれない。自分で書いていてやかましい。

今日は高校時代の友人から借りていた本を返すために外出した。
友人は東大前駅の近くに住んでいる。なぜなら彼が東大生だからである。

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