成瀬 鷗

相手不在の交換日記 あるいは文通のようなもの

成瀬 鷗

相手不在の交換日記 あるいは文通のようなもの

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    又吉直樹さんの『東京百景』の真似っこ

記事一覧

おはようの森、さようならの海

この深い森に、出口はないのかもしれない。一匹のきつねはそう思った。ここでは滅多に他の生き物と出逢わない。ただ、日々、生き物とも呼べぬような虫や鼠を見かけたら殺し…

成瀬 鷗
2年前
3

大きな鳥と生活している。大きな、というのは、大型の鸚鵡とか、梟とか、そういうことではなくて、例えばわたしは夜は彼のふんわりとした白いおなかに包まれて眠る。人間の…

成瀬 鷗
3年前
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femme fatale

「誰とでも、こういうことするの?」 深夜と呼べる時刻。カチカチと値段を刻むメーターが光るタクシーの後部座席。運転手に聞かれたら不味いぞ、というような判断ができな…

成瀬 鷗
4年前
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2020/2/24

青山に行ってみたい喫茶店があって、わざわざ友人を表参道まで呼び出しておいてから定休日であることに気付く。仕方なく周辺を歩いてみつけたカフェに入る。ふだん、私があ…

成瀬 鷗
4年前
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2020/2/14

「ハマスホイとデンマーク絵画」のために上野の東京都美術館へ。絵をみて雷にうたれるのは久々。滲んだようなタッチで描かれる夕焼けと木の陰。ピンボケ写真みたいだった。…

成瀬 鷗
4年前
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なにを持って相手を知ったと言えるようになるか、というのは、そのひとしだいだ。という当たり前のことにふときがつく。強面の中年男性が甘いケーキを食べているとき、(偏…

成瀬 鷗
4年前
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2020/2/1

アルバイトを除いて、2日連続でひとに会うのはめずらしい。ひとに会わないと1日は1秒足らずで過ぎていく。ほとんどひきこもりニート、みたいな生活は時間が過ぎ去ってい…

成瀬 鷗
4年前
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2020/1/31

二子玉川の本屋博に遊びに行って、同行者の友人はわたしが手にとる本をみてたびたびフームと唸った。いま沢木耕太郎の『深夜特急』を読み進めていて、旅行にさほど興味はな…

成瀬 鷗
4年前

2020/1/6

明けましておめでとう。年が明けて、みんなが日常の社会生活に戻っていって、ひとり取り残されているような感じのこの頃。ちかごろ、ほとんど引きこもりの無職のような暮ら…

成瀬 鷗
4年前
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夜についての詩

 ひとのひふ、に触れたときの感覚は独特で、すべすべ、というよりはぬるぬる、とかぬめぬめ、とか。もちろん実際は、なめくじとかなめことかみたいに、ほんとにしめってい…

成瀬 鷗
4年前
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『世界はデザインでできている』感想

#教養のエチュード賞 で文章を読んで感想までくださった嶋津亮太さん、が、構成を担当された『世界はデザインでできている』(秋山具義・著)の読書感想文を募集なさってい…

成瀬 鷗
4年前
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metamorphose

塾の先生をしていたことがあるのだけれど、英語のできない生徒というのは普通の(試験で赤点をとらない程度のレベルの)人間からするとびっくりしてしまうほど英単語を知らな…

成瀬 鷗
4年前
14

2019/9/19

完全なる飼育。アルファヴィル。フェリスはある朝突然に。女と男のいる舗道。 なんでもない。ただの映画のタイトルである。後者2つは今日、TSUTAYAで借りようと思ってい…

成瀬 鷗
4年前
5

諏訪敦彦監督の講義をうけた

 「邦画って特に昔はお客が全然入らなかったんですよね。暗いしドロドロしてるし、なんでこんなものわざわざみせられなきゃいけないんだっていう……」と監督自身が授業内…

成瀬 鷗
4年前
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2019/8/1

 愛と憎しみのキャンパスライフにもゴールが見えてきた。5年目にしてようやく大学生活最後の試験を終えて、あとはレポートを提出したら夏休みだ。無期限の。ここにきて『…

成瀬 鷗
4年前
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2019/6/27

ああ、もう、それは散々な就職活動だった。今思えば、スーツ屋さんが墨汁をぶっかけたみたいな真っ黒のスーツしか売ってくれなかった時点で散々だったのだ。2万、3万の衣類…

成瀬 鷗
5年前
5

おはようの森、さようならの海

この深い森に、出口はないのかもしれない。一匹のきつねはそう思った。ここでは滅多に他の生き物と出逢わない。ただ、日々、生き物とも呼べぬような虫や鼠を見かけたら殺して食べて、果実があったら齧ってみる。川や水たまりを見つけたら水を飲む。日が沈んだらどこかで眠る。なぜそうするの?と、かつては考えてみたこともなかったが。思えばすごく単純なことだ。おなかが空いたから。のどが渇いたから。眠いから。生きるためのこ

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大きな鳥と生活している。大きな、というのは、大型の鸚鵡とか、梟とか、そういうことではなくて、例えばわたしは夜は彼のふんわりとした白いおなかに包まれて眠る。人間のベッドになるほど大きな鳥。彼は元は人間らしいのだけど、魔女の怒りをかったとかで呪われて、鳥になったらしい。御伽噺だったら愛をみつけて呪いが解けるなんてこともあるでしょうが、現実なかなかそうはいかないみたいだ。それとも、わたしと、鳥とのあいだ

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femme fatale

「誰とでも、こういうことするの?」

深夜と呼べる時刻。カチカチと値段を刻むメーターが光るタクシーの後部座席。運転手に聞かれたら不味いぞ、というような判断ができない、が、そのこと自体は何故か自覚できる。酩酊感が気持ち悪い、と心地良い、の間をメトロノームのように行ったり来たりする。都会の光が窓を掠めていくのが妙に綺麗。膝のうえに頭をのっけて目を瞑る、初対面のはずの女の子、のうすい肩を撫でながら問うて

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2020/2/24

青山に行ってみたい喫茶店があって、わざわざ友人を表参道まで呼び出しておいてから定休日であることに気付く。仕方なく周辺を歩いてみつけたカフェに入る。ふだん、私があまりにもデートが好きなせいで「デートプランのご提案」がいつも100通りあるものだから、相手のエスコートで出歩いたりそもそもノープランで遊ぶ機会に恵まれず、却ってデートの醍醐味を味わえていないじゃないか。なんてことをよく思う。ので、予期せぬ定

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2020/2/14

「ハマスホイとデンマーク絵画」のために上野の東京都美術館へ。絵をみて雷にうたれるのは久々。滲んだようなタッチで描かれる夕焼けと木の陰。ピンボケ写真みたいだった。ハマスホイの作品ではない。そのひとの絵は他にあと1点かざられているだけだった。あとでインターネットで調べたら他の絵もちゃんと好み。Julius Paulsenという名前。詳しくはわからないが絵から察するに変なひとだったに違いない。カヤバ珈琲

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なにを持って相手を知ったと言えるようになるか、というのは、そのひとしだいだ。という当たり前のことにふときがつく。強面の中年男性が甘いケーキを食べているとき、(偏見に基づいた発想だ、という自覚の有無はさておき)彼の"ほんとの"一面を垣間見た、と喜ぶひともいれば、てっぺんの苺を食べるタイミングやいかに美しい食べ方を実践しているか?で性格や育ちの良さ(あまり好きな言葉じゃない)を判断するひともいる。たと

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2020/2/1

アルバイトを除いて、2日連続でひとに会うのはめずらしい。ひとに会わないと1日は1秒足らずで過ぎていく。ほとんどひきこもりニート、みたいな生活は時間が過ぎ去っていく実感も含めそこそこ精神にくるのだよ。

夕暮れ。土曜日の清澄白河を徘徊しながら、ちょうどよいカフェを探すもなかなか見つからない。あの町のひとびとは多分、やる気がない。たとえば蔵前ってイメージは似てても、もっとやる気あるんだろうな。行ったこ

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2020/1/31

二子玉川の本屋博に遊びに行って、同行者の友人はわたしが手にとる本をみてたびたびフームと唸った。いま沢木耕太郎の『深夜特急』を読み進めていて、旅行にさほど興味はないのに旅行記を。あと伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』の影響で、ごはんにさほど興味はないのに食に関するエッセイ。そしていくつかタイトルに聞き覚えのある洋書を物色した。友人はガーデニングの本なんかをパラパラとみていた気がする。本屋のひとたちが気さ

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2020/1/6

2020/1/6

明けましておめでとう。年が明けて、みんなが日常の社会生活に戻っていって、ひとり取り残されているような感じのこの頃。ちかごろ、ほとんど引きこもりの無職のような暮らしをしているのだけど、楽しくもあり、苦しくもあり、かといって社会復帰(そんな言葉は変だ、だって私は社会に属していたことなんてないもの)できそうだ、とかしたいな、とか思わないのだけど。美しさを犠牲に生活を続ける叔母、とその弟である、肉体をすり

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夜についての詩

夜についての詩

 ひとのひふ、に触れたときの感覚は独特で、すべすべ、というよりはぬるぬる、とかぬめぬめ、とか。もちろん実際は、なめくじとかなめことかみたいに、ほんとにしめっているわけではないのだけどなぜだかそんな形容詞がしっくりくるような気がする。二人の天使が両端を掴んで司っている夜の帳は、まるでわたしたちが裸のままでねむろうとしている、川沿いの小さなマンションの周りだけをぐるりと囲んでいるみたいだった。もしわた

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『世界はデザインでできている』感想

『世界はデザインでできている』感想

#教養のエチュード賞 で文章を読んで感想までくださった嶋津亮太さん、が、構成を担当された『世界はデザインでできている』(秋山具義・著)の読書感想文を募集なさっていたので「嶋津さん普段どんな仕事してる人なんだろう」という好奇心も手伝って、はーい、と挙手して本を送っていただきました。約束通り感想を書かせていただきます。と言っても当noteは(小説も含め)多くて数百ビューの、つまりは対人というよりは対自

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metamorphose

塾の先生をしていたことがあるのだけれど、英語のできない生徒というのは普通の(試験で赤点をとらない程度のレベルの)人間からするとびっくりしてしまうほど英単語を知らない。(大抵日本語の語彙が少ないこと関係があるのだけど。)"house(家)"はわかるが"space(場所)"になると抽象的になるからなのか、もうわからないらしい。日常生活で絶対に聞いているはずの単語なのに。

そう考えると幼少期にゲームで

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2019/9/19

2019/9/19

完全なる飼育。アルファヴィル。フェリスはある朝突然に。女と男のいる舗道。

なんでもない。ただの映画のタイトルである。後者2つは今日、TSUTAYAで借りようと思っていた作品。前者2つは実際に借りた作品。

今日は渋谷までの定期券を買ってみた。買ってみた、なんて書いたけれどいちおう理由はある。書かないけれど、理由はあるのだ。ところで「あいつは薄っぺらだ」という文言って、批判として成立するのだろうか

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諏訪敦彦監督の講義をうけた

 「邦画って特に昔はお客が全然入らなかったんですよね。暗いしドロドロしてるし、なんでこんなものわざわざみせられなきゃいけないんだっていう……」と監督自身が授業内で仰っていたそのままの理由で基本的には邦画が苦手で、諏訪監督の作品も観たことがなかったのだけど、ではなぜ監督の授業をとったかというと「せっかく有名な人の授業が受けられるんだから」という完全にミーハー心と気まぐれによるものだった。確かに褒めら

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2019/8/1

 愛と憎しみのキャンパスライフにもゴールが見えてきた。5年目にしてようやく大学生活最後の試験を終えて、あとはレポートを提出したら夏休みだ。無期限の。ここにきて『ロングバケーション』を観ていた中学生の頃の記憶に救われるなんてね。いやはや。

 そういえば、大学に入ったあとふとしたきっかけですっかり勉強ができなくなってしまったことがあった。参考書やノートの文字の意味が追えなくなって、意味の追えないそれ

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2019/6/27

ああ、もう、それは散々な就職活動だった。今思えば、スーツ屋さんが墨汁をぶっかけたみたいな真っ黒のスーツしか売ってくれなかった時点で散々だったのだ。2万、3万の衣類を買うことなんて滅多にないのだから、せめて好みのスーツを選びたかったのに、希望を伝えても他の色のものは見せてくれさえしなかった。

かつてのファンからは不評を買っているらしい(気持ちはわかる)オザケンのTwitterが結構好きなのだけど、

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