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私の、あるいは誰かの日記。 essayez d'écrire des essais de fictions et non-fictions
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結婚相手にビビッとこない

結婚相手にビビッとこない

ね、やっぱりビビッときたの?プロポーズ受けるとき。

婚約してから、何度かそんな質問を受けた。答えはNOだ。特に決定的な決め手があったわけでもなく、それでも他の人とこうなる選択肢が過ったわけでもなく、私はそれを承諾した。

異性との付き合いにおいて、「知人・友人のフェーズ」「恋人のフェーズ」「結婚相手のフェーズ」があるとしたら、このうち2つめと3つめの間の壁が厚いのだろうと思う。結婚相手に「ビビッ

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郵便局はいつもやさしい

郵便局はいつもやさしい

郵便局の空気が好きだ。

休日や夜を知らない郵便局の窓口は、昼下がりの街の穏やかさを正しく反映していて、地元の空気を思い出させる。オフィス街にある郵便局はもう少し忙しないかもしれないが、住宅街にあるそこに流れる時間はとてもやさしく、ゆるやかだ。

子どもを抱えて手続きを済ませるお母さん。
通帳を片手にATMの操作方法を教わるおじいさん。

有給をとらないと訪れることのできない限定的な営業時間に、O

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余暇と風の匂い

余暇と風の匂い

目が覚めたら外は薄ぼんやり明るかった。雨が降っているのかと思えばそうでもないようで、窓を開ければ気持ちよいすずしさの風が部屋に吹き込んできた。

さむいさむいと泣きそうになる季節はそろそろ終わりらしい。家に誰もいないのをいいことに、キャミソール一枚でしばらく布団の上で過ごしている。今日の風はなんとなく懐かしいすずしさで、だけど私はこれをうまくことばにすることができない。

教育熱心な家庭で育ったの

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虚空へ手を伸ばす

虚空へ手を伸ばす

2020年12月21日(月) 冬至

黒板にチョークを走らせる。頭の中で数式を解きながら、手は次の数式を組み立てる。誰もが無言の教室で、彼と私のチョークが黒板に打ちつける音だけが響いている。刹那、彼が声を上げた。

「あ、こういうことか!」

え、待ってよ。私まだ理解できてない。手は止まり、私は必死で最後に書き出した数式とにらめっこする。ああもう。早く。悔しい、悔しい、悔しい!

そこで目が覚め

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電話越しに教室を思い出した夜

2020年11月15日(日) 秋晴れ

高校の頃の担任の先生と電話をした。3年連続で担任を受け持ってくれた先生だが、卒業の時に連絡先を聞いていなかったので、地元の友達に番号を教えてもらった。声を聞くのは4年ぶりだった。

「久しぶり。東京も大変でしょう」

互いの近況を軽く話し、「きっとこの先ウィルスがなくなることはないから、どう付き合っていくかを考えないといけないんでしょうね」と話した。先生は「

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喪失を抱えて生きる

喪失を抱えて生きる

2020年11月4日(水) 木枯らし1号、晴れ

職場から家へと向かう電車が物凄い速さで以前の最寄り駅を通過するたび、もうここは私の住む街ではないのだと実感する。人は呆気なく街を裏切り、街もまた呆気なく人を忘れる。1日でも練習をさぼると指は動いてくれなくなるのよ、とかつてピアノの先生が言っていたことを思い出した。

捨ててきたものの多い人生だったように思う。

人より不器用な私は人より長く、多く練

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世界の輪郭がぼやける

世界の輪郭がぼやける

2020年8月7日(金) 快晴

健康診断を受けてきた。1年ぶりの視力検査では、左目が全然見えなくなっていて驚いた。

日がなパソコンと向き合う仕事をしている。視力が落ちるのは必然で、覚悟もしていたつもりだった。それでもやはり、見えていたものが見えなくなることは怖い。大人になるにつれ、人ならざるものが見えなくなる人はこんな気持ちなんだろうか。

輪っかの切れ目がどこにあるのか、とんとわからなかっ

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1年に2度だけLINEする友人のはなし

1年に2度だけLINEする友人のはなし

2020年8月10日(月) 快晴

1年に2度だけ、連絡をとる友人がいる。今日はその2度目、つまり彼の誕生日だ。

起きぬけにLINEを送った。

そこから例年通り、近況報告がはじまる。毎年この時期は甲子園がどうとか、サーティーワンアイスが食べたいだとかで盛り上がるのだが、今年は甲子園もないのでぐだぐだと中身のない話題をしゃべり合った。

つっこみを期待してしょうもないぼけを送りつける。学生時代の

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飲み会を終えた夜に

飲み会を終えた夜に

2020年7月31日(金) 晴れ

酔っ払って帰る夜、アイスか本を買って帰る癖がある。

大学の頃はしょっちゅう、セブンイレブンでハーゲンダッツを買って帰った。家に着いてそのまま食べることもあれば、その日は食べずにしばらく冷凍庫でねむらせることもあった。

社会人になり、引っ越した先は駅前にTSUTAYAのある街だった。電車を降りて、あてもなく新刊や文庫本、単行本などのコーナーを見る。なんだか小

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どうか、私の代わりに届いてね。

どうか、私の代わりに届いてね。

2020年7月27日(月) くもり

「夏休みは実家に帰るんです」

嬉しそうな顔で、隣の席の新人が言う。ふうん。そうなんだ、とだけ返してパソコンに向き直る。どす黒い何かがお腹の奥の方で、ぴくりと動いた気がした。

東京駅を通って通勤している。東海道線のホームからは、隣のホームの東北新幹線が見える。かつて帰省を終えて東京へ戻ってきた私を現実に引き戻す存在だった東海道線を、今や日常で使っていることに

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友達と丁寧に会う

社会人になると、友達と毎日顔を合わせることがなくなる。気が向いてふいに呼び出したり、呼び出されたりすることも少なくなる。だから友達と集まったりするのは、大抵前もって日程を決めてからだ。

日程を決めないと会えなくなってしまったことを寂しくも思うけれど、最近は事前に予定がわかっている方が都合がよかったりもする。お腹の調子や身だしなみを整えて、準備をすることができるから。

女友達に会うためにおしゃれ

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銭湯デビューした日

銭湯デビューした日

2020年7月24日(金) 晴れ、ときどきお天気雨

梅雨前線にさからうようにして、すこし南に下った町に越してきた。新しい町は下町で、都内なのにどことなく懐かしい雰囲気がある。

4連休の2日目、家のすぐ近くの銭湯を訪れた。通い慣れた地元客に混じり、慣れた風を装って番台さんにお金を渡す。「1時間後くらいに」と彼と約束し、反対側の暖簾をくぐった。

・・・

はじめての銭湯は案外綺麗だった。壁に富士

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止まない空腹と親子丼のおはなし

止まない空腹と親子丼のおはなし

2020年7月21日(火) 曇り

月に一度、お腹が空いてたまらない時期がやってくる。
今月もそれは当たり前にやってきて、私は昨日から止まない空腹とたたかっている。

・・・

20時過ぎの東京駅。ひとりで夜ごはんを食べる店を探すのは、なかなか難しい。昼間は定食屋だった店が、夜になると居酒屋に顔を変えてしまうから。あるいはこちらが本来の顔なのか。いずれにせよ、お酒を飲まずにひとりで入れるお店を探

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所帯じみてるとこが好き

所帯じみてるとこが好き

2020年7月12日(日) 晴れ

家庭環境、地元の田舎ぐあい、金銭感覚。生活で大切にしたいこと。彼との共通点をひとつずつ見つけるたびにうれしくなる。

最近はそんな中で、違うところも見つかるようになった。彼は洗濯物の干し方が下手。排水口はよく掃除してくれる。私は金曜の終電の概念が弱め。洗濯機はまめに回すタイプ。
それはそれでうれしい。新鮮だし、私のよくないところは直さなきゃって思える。

似て

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