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効いた曲ノート

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心に効いた曲なのでググってみましたのコーナー
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理想よりも勢いが大事ってこともよくある ”モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキー『展覧会の絵』”

理想よりも勢いが大事ってこともよくある ”モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキー『展覧会の絵』”

とても有名な曲なのですが、ピアノ曲が原作で、そちらで聴いてみると全然雰囲気が変わって仄暗く不安定です。じんわりとそれでいて率直に響いてくる良さのある演奏にエンカウントしたので書きました。

絢爛豪華なアレンジも素晴らしいですが、魔術めいた不思議さ、不安定さ、それらを包み込む慈しみ…そういった原曲の生の魅力も良いものです。

急逝した友に突き動かされて

モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキー(1

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”この世ならざる”を音にし続けた生き様が結晶する......冨田勲「イーハトーヴ交響曲」より"銀河鉄道の夜"

”この世ならざる”を音にし続けた生き様が結晶する......冨田勲「イーハトーヴ交響曲」より"銀河鉄道の夜"

映画『蜜蜂と遠雷』でとうとう”世界初演”を果たした「春と修羅」についてあれやこれやと考えていて、教科書でしか読んだことのない宮沢賢治という人のことをちょっとは知ってみようという活動を始めつつあります。宮沢賢治と音楽、といえば冨田勲の「イーハトーヴ交響曲」がありますね。と聴きなおしてみると、幻想と暖かみの絶妙な塩梅にゾクゾクきました。3年ぶりくらいにまじめに聞きなおしましたが、改めてすごい作品です。

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セルゲイ・プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第三番」…映画『蜜蜂と遠雷』で現出したスペクタクル

セルゲイ・プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第三番」…映画『蜜蜂と遠雷』で現出したスペクタクル

蜜蜂と遠雷、見てきました。恩田陸ファンとしては感無量ですね。映画化されないために小説書いてると作者ご本人は気炎を上げているとはいえ、やはり拍手の音は大きければ大きいほど嬉しいものです。

2時間という枠に収める都合上、原作中のドラマの肝になっていた部分が大いに改変されてしまったこと…奏ちゃんが抹消されてたのは覚悟してたんで良いんですが、亜夜から神秘性が捨象されただの悩める女の子になってしまったこと

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「蜜蜂と遠雷」映画化記念…高島明石がどこかで弾いているであろう、フレデリック・ショパンの”ピアノ協奏曲第一番”

「蜜蜂と遠雷」映画化記念…高島明石がどこかで弾いているであろう、フレデリック・ショパンの”ピアノ協奏曲第一番”

恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』の映画化が封切り間近ということで、恩田陸ファンでありクラシック音楽ファンでもあるわたくしにとっては一大事。テンションも大変に「荒ぶって」きております。

つまりこちらは、ワッショイワッショイ映画が楽しみだぞー、という雑記であります。

恩田作品の人物造形の総決算といえる今作の主人公たち

今作で個人的に一番グッと来たのは社会人コンテスタント高島明石なんですが、恩田作品には

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花の都に蠢く陰謀と、残された謎…ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト”フルート、オーボエ、ファゴット、ホルンのための協奏交響曲 変ホ長調K.297b(K.Anh.C14.01)”

花の都に蠢く陰謀と、残された謎…ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト”フルート、オーボエ、ファゴット、ホルンのための協奏交響曲 変ホ長調K.297b(K.Anh.C14.01)”

 メンタルがあれしたときは悠久の時の流れに身を任せようのコーナー。今回は、W.A.モーツァルト(1756-91)23歳の頃の作品と言われる、管楽器の名手を四人も立てたゴージャスな作品です。主役を張れるソリストを複数立ててオールスターしようぜ!という「協奏交響曲(シンフォニア・コンツェルタント)」形式は、当時のパリで大いに流行っていたそうで、その流行に乗って書かれた作品と言えます。今でいうところのヒ

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「人生を肯定する」ハチャメチャなリズム...アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン “ヴァイオリン協奏曲 二短調”

「人生を肯定する」ハチャメチャなリズム...アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン “ヴァイオリン協奏曲 二短調”

アラム・イリイチ・ハチャトゥリアン(1903-1978)はグルジア(ジョージア)生まれのアルメニア人指揮者・作曲家。生まれ育った街トビリシが「歌の街」を意味している通り、グリジア人の楽隊やアルメニア人の路上パフォーマンスに囲まれて育ったハチャトゥリアンはこの魅惑的で野趣あふれるリズムと旋律をオーケストラに持ち込むことで名声を博しました。

現在でも「剣の舞」がクラシックの枠を超えるポピュラーな曲と

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飛べよ孔雀、牢獄の上に、哀れな囚人たちを解放するために…コダーイ・ゾルターン”「孔雀の主題」による変奏曲”

飛べよ孔雀、牢獄の上に、哀れな囚人たちを解放するために…コダーイ・ゾルターン”「孔雀の主題」による変奏曲”

今回もまた「国民音楽」がツボに入ってしまった。ハンガリーのコダーイ・ゾルターン(1882-1967)の楽曲から。

ハンガリーはトルコのオスマン帝国とオーストリアのハプスブルク帝国というイスラム教とキリスト教の二つの大国に挟まれ、独立運動を起こしては押さえつけられてきた苦い歴史があります。コダーイの時代では、音楽とはすなわちドイツ音楽であり、政治面でも親ナチス政権による圧政がありました。コダーイは

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怪獣とは信仰である...ベアー・マクリアリー"ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ"

怪獣とは信仰である...ベアー・マクリアリー"ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ"

周囲(というかSNS)に映画を語る人が増えまして、そして、それはまず間違いなくこちらのツボにもはまって来るので、軽率に影響されて見に行くことが増えてきました。今回は周囲がゴジラ音頭を踊る人間ばっかりになってしまったので自分も踊って来たという話です。

以前「シン・ゴジラ」でもおしっこちびっちゃったのですが、やはり、ゴジラとは、大きく、恐ろしく、人間の小さな思惑を吹き飛ばしてしまう。啓示めいた何かと

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逆に誰が書いたんだよという心地よいオーボエの歌声…フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの作ではないと言われる”伝ハイドンのオーボエ協奏曲”

逆に誰が書いたんだよという心地よいオーボエの歌声…フランツ・ヨーゼフ・ハイドンの作ではないと言われる”伝ハイドンのオーボエ協奏曲”

そろそろ梅雨とか言われてるけどまだ涼しいし春だと言い張っていきたい。今回も春めいた温かい曲から。

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)は宮廷音楽家として人生の大半を過ごし、106の交響曲と68の弦楽四重奏曲によって交響曲と弦楽四重奏曲を音楽の一大ジャンルにのし上げた作曲家です。モーツァルトとは親子ほどの年の差がありながらも親友と呼びあう仲であり、そのモーツァルトへの弟子入りをベート

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私のためにリンゴの枝が低く垂れている…レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ ”歌曲「リンデの草原に」”

私のためにリンゴの枝が低く垂れている…レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ ”歌曲「リンデの草原に」”

物憂い雨なのでしっとりとした歌曲。例によって(笑)ヴォーンウィリアムズの、ドーセットという地方の民謡から採られた歌曲です。1901年と初期の作品で民謡採集時代ですかね、シンプルな旋律とピアノ伴奏のみとなっていますが、逆にこれだけ素朴だからこそ歌詞がしみてくるところもあります。

詩はウィリアム・バーンズによるもので、ドーセットの方言(ドイツ語っぽい感じなんでしょうか)で書かれていますが、この曲はR

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よっ楽しませ屋、にくいねぇ…フリードリヒ・グルダ“チェロと吹奏楽のための協奏曲”

よっ楽しませ屋、にくいねぇ…フリードリヒ・グルダ“チェロと吹奏楽のための協奏曲”

ナカリャコフがフリューゲルホルンでシューマンの幻想小曲集を演奏している、しかもピアノはアルゲリッチであると聞いて聴いてみたのですが、同アルバムの最後を飾るチェロ協奏曲のインパクトがやばかったのでそっちの話になります。(ナカリャコフのフリューゲルホルンはもちろんとてもエッチで良かったし、なにより最初のシューマンのピアノ四重奏曲のガチバトルぶりがめちゃくちゃすごかった。ライヴパフォーマンスに対する畏怖

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祖国に芸術をもたらさんとする情熱…エドヴァルド・グリーグ "チェロソナタ イ短調 作品36"

祖国に芸術をもたらさんとする情熱…エドヴァルド・グリーグ "チェロソナタ イ短調 作品36"

前回記事のディーリアスの音源を探していたらカップリング曲のほうにはまってしまったでGOZARUのコーナー。「ノルウェーの音楽」を確立させ、祖国独立の祖とも称される巨匠、エドヴァルド・グリーグ(1843‐1907)によるチェロ独奏のためのソナタから。

チェロ奏者でありともにライプツィヒで留学していた兄に捧げられた曲(そして実際に兄弟で披露したといわれています)というだけあって、時に自由闊達に跳ね回

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色彩こぼれる北国の春…フレデリック・ディーリアス「春を告げるかっこう」(小管弦楽のための2つの小品より)

色彩こぼれる北国の春…フレデリック・ディーリアス「春を告げるかっこう」(小管弦楽のための2つの小品より)

春の大型連休いかがおすごしでしょうか。

4月から環境の変化などであっぷあっぷであったのでようやく人並みに春を楽しめてきたところです。しかし急な冷え込み勘弁してくれ…

今回はフレデリック・ディーリアス(1862-1934)の作品から。一幅の水彩画のような、絵の具を塗り重ねるような弦楽和音の澄み渡った空に木管楽器のさえずりがこだまします。主役のかっこうはクラリネットの低音域で表現され春の日差しのよ

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【効いた曲ノート】ロベルト・シューマン”交響曲第一番 変ロ長調 作品38「春」 ”

【効いた曲ノート】ロベルト・シューマン”交響曲第一番 変ロ長調 作品38「春」 ”

春の訪れ!というわけでド直球の「春」を聞いています。

ロベルト・シューマン(1810-1856)の交響作家デビュー作。30歳の時の作品です。この世の春を歌うようなトランペットのファンファーレとウキウキステッピンな第一主題でもう心はおピンクです。底抜けにポジティブ。というのも、この時のシューマンはまさに「永きに渡る冬の時代を乗り越えた」我が世の春だったからなのだそうです。

1835年、妹のように

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