masato@小説
十三年間も辞めていたタバコを吸い始め、一年と一ヶ月が過ぎた頃。また、やるか!みたいな感じで2019年5月に禁煙を再開。とりあえず三ヶ月、頑張る!
書きたいことを書きます。テーマは特にありません。独り言のようなものです。
連載小説です。一記事二千文字ほどで合計26ノート。 「社会不適合者?妄想家?それともマイペースなだけ?家族や愛。何も知らない。何も興味のない男性が自分の過去と向き合い、内面の変化に戸惑う、そんな物語になっています」
前回はこちら▽ 「写真みたんだろ? 南海の」 海の向こうを眺めながら涼真は言った。 「うん。見たよ」 彼の視線の先を追ってから空と海が重なる場所に目をやった。…
前回はこちら▽ 僕は涼真と、南海の一周忌を迎えた。 あれからアパートに戻った僕は、しばらくして仕事を探し始めた。生活資金が底を付きかけていた理由の他に、自分…
明日、 「小説」本当に大切なものはなんですか?あなたは知っていますか。 最終回、更新いたします。 僕の数少ない(笑)読者様におかれましては、大変長らくお待た…
前回はこちら▽ 沈黙が、カーテンで仕切られたこの狭い空間を満たしている。涼真と居るのに居心地の悪さを感じる。それには理由があるのだろう。明確な理由が……。僕は…
前回はこちら▽ 道は僕から離れてゆく。まるで空に浮かぶ雲のように遠くに……。ゆっくりと遠くに離れてゆく。 手を伸ばしても掴めない物は沢山あった。僕はいつも諦…
前回はこちら▽ 一番手前にある右の部屋は何もなかった。 次の右の部屋には机と本の入っていない書棚があった。 一番奥の左の部屋は、入口の向かいの壁に丸い…
前回はこちら▽ 海から吹き付ける風は息を潜め、辺りは静けさの中にあった。あれほど狭かった道が幾分広く感じ、行く手を阻む草は大人しく佇んでいる。長く感じた道が、…
前回はこちら▽ 「この場所は私の好きな場所だわ。この場所で沢山楽しい事をしたわ。家族の思い出が沢山詰まっているわ。この波の音も、強すぎる太陽の日射しも、全部好き…
前回はこちら▽ コーヒーの香りで目が覚めた。いつもなら、窓から陽が強く射し込み、当然の様に僕を起こすのに今日はなかった。外は曇っているのかもしれない、そう思っ…
前回はこちら▽ 今、彼女は靴に泥を付けたまま食事の支度をしている。僕は食欲はなく、何も食べたくなかった。 キッチンから聞こえてくる音。食材を切る音。それらの…
前回はこちら▽ 当然、僕は彼女の返事を聞くつもりなど、始めからなかった。 「僕たちを置いて行った親は、いつも一緒に迎えに来てくれたね。君は泣いて父さんの所へ駆…
前回はこちら▽ 僕は、中に潜む冷たいもう一人の自分に吸収される。 僕が僕でなくなってゆく。 全身が黒くなって、影になって、見上げる僕が本物の僕で、見下ろす僕…
前回はこちら▽ 「いただきます。……怖い夢でも見たの?」 彼女はコーヒーを飲みながら、もう一度僕の顔を覗き込み言った。 僕は顔を隠すように手に持っているコー…
前回はこちら▽ 家の中は外から見るよりも広く感じた。毎日きちんと掃除をしているのか、絨毯には外から連れてきた泥や小石、草の切れ端が想像よりも少ししか落ちていな…
前回はこちら▽ 上から見た水の流れは速く。昨日の雨を背中に乗せているように見えた。 「昨日の雨、凄かったから」 彼女はそう言って笑った。 「普段は飲める?」…
前回はこちら▽ いつもなら不快に感じる朝陽が、今朝は何も感じない。不思議だった。 キッチンの方から音が聞こえる。水が流れる音。何かが焼ける様な音。物がぶつか…
2020年1月8日 14:39
前回はこちら▽「写真みたんだろ? 南海の」 海の向こうを眺めながら涼真は言った。「うん。見たよ」 彼の視線の先を追ってから空と海が重なる場所に目をやった。「その場所がここか。みんな笑顔だったな」 僕に視線を向け、言った。「……うん」 返事をして僕は視線を落とした。足元に寄せては消える波が視界に入った。 涼真は明日の朝には帰る。彼女とのデートがあるからだそうだ。おそらく僕
2019年7月2日 06:29
前回はこちら▽ 僕は涼真と、南海の一周忌を迎えた。 あれからアパートに戻った僕は、しばらくして仕事を探し始めた。生活資金が底を付きかけていた理由の他に、自分が生きて行く動機が必要だった。 また金を借りられる。そう涼真は大袈裟に喜んでいた。 簡単な仕事だった。誰にでも出来るような簡単な仕事……。でも、僕には少しハードルが高い仕事。 職場は自宅からは遠く、電車で一時間以上かけて通勤した。
2019年7月1日 17:44
明日、「小説」本当に大切なものはなんですか?あなたは知っていますか。最終回、更新いたします。 僕の数少ない(笑)読者様におかれましては、大変長らくお待たせしてしまい、ごめんなさい。7/2の朝、7時までには更新する予定ですのでお楽しみにです。
2019年6月24日 06:38
前回はこちら▽ 沈黙が、カーテンで仕切られたこの狭い空間を満たしている。涼真と居るのに居心地の悪さを感じる。それには理由があるのだろう。明確な理由が……。僕はそれを涼真にぶつけるべきだろう。 そう……、こうやって……!「……それで?」 短いその言葉で、僕は話の続きを強引に訊き出そうとした。 涼真は口を噤み、目を伏せた。「全部、知っていたんだね。涼真は……」 涼真はゆっくりと
2019年6月23日 09:07
前回はこちら▽ 道は僕から離れてゆく。まるで空に浮かぶ雲のように遠くに……。ゆっくりと遠くに離れてゆく。 手を伸ばしても掴めない物は沢山あった。僕はいつも諦めていた。それが普通だった。欲しい物は手に入らない。いらない物だけが手元に残るんだ。僕はそれを受け入れた。いつからだろう、僕は全てを受け入れるようになっていた。それで嫌なことはなくなった。その変わりに嬉しいこともなくなった。何かを得るに
2019年6月22日 07:27
前回はこちら▽ 一番手前にある右の部屋は何もなかった。 次の右の部屋には机と本の入っていない書棚があった。 一番奥の左の部屋は、入口の向かいの壁に丸い小窓があって、そこからいつもの小さな庭が一望できた。右の壁際にベッドが置かれ、布団は綺麗に整えられていた。彼女の部屋だろう。入ったことに罪悪感を覚えた。 外は陽が沈み始めたのか薄暗い。その窓の前に置いてある机。窓から入る薄日が机
2019年6月21日 06:39
前回はこちら▽ 海から吹き付ける風は息を潜め、辺りは静けさの中にあった。あれほど狭かった道が幾分広く感じ、行く手を阻む草は大人しく佇んでいる。長く感じた道が、ゆっくりと収縮したような、何か嬉しい事でもあったような、そんな様子で僕を招き入れている。あの場所に行って、僕は変わったのかもしれない。そんな非現実的なことを思い、過去の彼女を思い、ログハウスまでの道を歩いた。 庭の中にある大きな樹は、
2019年6月20日 06:41
前回はこちら▽「この場所は私の好きな場所だわ。この場所で沢山楽しい事をしたわ。家族の思い出が沢山詰まっているわ。この波の音も、強すぎる太陽の日射しも、全部好きだわ。父さんと母さんは笑っていたわ。私は貴方と手を繋いで歩いていた。まだ歩きなれない私を貴方は優しく助けてくれた。笑いながら追いかけて来る両親を見て、私たちも笑いなら逃げたもの。流木を触っている私を見て、貴方は泣いていたわ。私にとっては…
2019年6月19日 06:52
前回はこちら▽ コーヒーの香りで目が覚めた。いつもなら、窓から陽が強く射し込み、当然の様に僕を起こすのに今日はなかった。外は曇っているのかもしれない、そう思った。 体をゆっくりと起こし乾いた目を擦る。ガラス戸のカーテンは開けられていたが、射し込む陽の光はやっぱり弱弱しく、何処か寂しそうだった。 キッチンへ行くと、いつも通り南海が朝食の準備をしている。彼女が毎日何時に起きているのか僕は知
2019年6月18日 06:55
前回はこちら▽ 今、彼女は靴に泥を付けたまま食事の支度をしている。僕は食欲はなく、何も食べたくなかった。 キッチンから聞こえてくる音。食材を切る音。それらの音が、いまの僕には不快だった。 僕の靴にも泥が付いている。拭きとらなければ、そう思った。でも、出来なかった。空が見たくて顔を上げた。そこには当たり前に天井がある。僕は、どうしてここに居るのだろうか。 僕は、どうして生きているのだ
2019年6月17日 06:39
前回はこちら▽ 当然、僕は彼女の返事を聞くつもりなど、始めからなかった。「僕たちを置いて行った親は、いつも一緒に迎えに来てくれたね。君は泣いて父さんの所へ駆け寄っていたけど、僕は泣けなかったし、駆け寄りたい気持ちにもならなかったんだ。悲しくもなかったし嬉しくもなかったんだよ。寧ろ、僕は怒っていたのかもしれない。いつも何処かへ行ってしまう母さんに対して。いつも僕たちを置いて行ってしまう大人に
2019年6月16日 07:29
前回はこちら▽ 僕は、中に潜む冷たいもう一人の自分に吸収される。僕が僕でなくなってゆく。全身が黒くなって、影になって、見上げる僕が本物の僕で、見下ろす僕は、偽善の毛布で包れた僕。 朦朧とする意識の中で、喘ぎの様な声を吐き出したかもしれない。それはまるで自分自身を喉に詰まらせたかのように。「なぜ、君は優しい?」僕は、彼女の右肩を掴んでいた。「なぜ……」自分でも問いかけている
2019年6月15日 07:30
前回はこちら▽「いただきます。……怖い夢でも見たの?」 彼女はコーヒーを飲みながら、もう一度僕の顔を覗き込み言った。 僕は顔を隠すように手に持っているコーヒーへ視線を落とした。そして言う、「これドリップ?」分かっているのに聞いた。「そうだよ。ドリップがいいでしょ。なんか、うなされていたよ」「……ありがとう」 そう言って僕はコーヒーを一口飲んだ。 時々、記憶が抜け落ちたよ
2019年6月14日 12:30
前回はこちら▽ 家の中は外から見るよりも広く感じた。毎日きちんと掃除をしているのか、絨毯には外から連れてきた泥や小石、草の切れ端が想像よりも少ししか落ちていない。それらを塵取りで拾い。元の場所、いわゆる外へ返した。その後、テーブルを拭き、窓を拭き、床を拭いた。窓から射し込む陽の光が、湿った床に届いている。 窓から外を見た。そこから見える小道は橋を架けたように窓から伸び、枯れ枝の束を運んだ倉
2019年6月13日 06:43
前回はこちら▽ 上から見た水の流れは速く。昨日の雨を背中に乗せているように見えた。「昨日の雨、凄かったから」 彼女はそう言って笑った。「普段は飲める?」「分からない。でも、綺麗でしょ」「そう? 少し濁っているよ」と言う僕の顔を見て、彼女はまた笑った。 太陽に照らされた水面は光を受け入れ、入りきれないそれらは、空への帰り道を探しているのか、僕達を照らしていた。 彼女は
2019年6月12日 07:29
前回はこちら▽ いつもなら不快に感じる朝陽が、今朝は何も感じない。不思議だった。 キッチンの方から音が聞こえる。水が流れる音。何かが焼ける様な音。物がぶつかり合う音。不快なはずの音が、ここでは僕を包み込むようにやさしく寄り添ってくる。いい香りがした。 ……母さん。なぜそんな事を思い出したのだろう、僕には分からなかった。 しばらくして、彼女がお盆を手に持ち、リビングへやって来た。