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#短編小説

【祝】はんぺんチーズフライって、とってもエモーショナルな味がするんだね【編集部のおすすめ選出】

【祝】はんぺんチーズフライって、とってもエモーショナルな味がするんだね【編集部のおすすめ選出】

 掲示板に「210」の文字はなかった。

 つまり僕は、受験に失敗したらしい。

 同世代らの麗らかな声が響き渡る県立A高校玄関前。不合格なる酷な現実を前に、しかしそれでいて己が心はまるで鏡よろしく凪いでいた。

 何せ十五歳当時の僕ときたら分厚い参考書よりも電撃文庫や富士見ファンタジア文庫などの、いわゆるライトノベルを手に取る頻度の方が遥かに多かったわけであって、当然最悪のシナリオも想定内、いや

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いぬころ

いぬころ

辺りが少し明るさを増してきた頃、池園のアパートの周りに警察車両が集結した。アパートからは見えないように、交差点の角々に隠れている。

今日がその日だ。

池園は女を一人殺している。身勝手な犯行だった。身ごもった女をそれとわかって、手にかけたのだ。浴槽に水を張り、女の頭を押さえつけ窒息死させた。さぞかし、無念であったろう。犯行が明らかになる前に、池園は逃亡した。

捜査本部が設置され、指名手配がなさ

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マッチ占いの女

街の片隅に、マッチ占いの女がおりました。女は、マッチの炎を見て占うので有名でした。
ある夜、悩みを抱えた女が、マッチ占いのところにやってきました。
「私の職場は女性ばかりで、出会いの機会がありません。いつになったら、素敵な男性と出会えるのでしょうか。」
マッチ占いは、マッチを擦って、炎をじっと見つめました。
「まもなく、素敵な出会いがあります。」
と、言うが早いか、パカラ、パカラとひづめの音がして

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白い京都

白い京都

ここは、京都のとある料亭の離れの一室。会長に呼び出された経理部長の私は、秘書課の京子と、この部屋にいる。上座には、会長の席が用意され、こちらの膳に、私たち二人が並んで座っている。
「会長は遅れて来られるそうだ。先にやってくれとのことなので、そろそろ、いただくことにしようか。」
誘いかけたが、京子は前を向いたままで、箸を取ろうとしない。
「それじゃ、はじめているよ。」
と、いいながら、私は、手酌で、

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