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呻吟

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自分の思想が滲み出たフィクション小説、『呻吟』です。 さとり世代の呻吟と思春期の葛藤を描く、ユース・サスペンスドラマ。 呻吟は”しんぎん”と読みます。葛藤の類義語です。
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記事一覧

【呻吟】死

【呻吟】死

 自室に戻ると、罪を犯す前、元通りだった。改めて親への感謝が溢れてくる。砂の世界と似た雰囲気を部屋に覚え、みょうな落ち着きがあった。
 まだ彼との約束が、アドレナリンをとめどなく放出させてくる。あんな賭けはしたが、実際はそれを上回る海外大に受かろうと、芸術や作品に没頭して世間に認められようと、彼は賭けに勝ったことにしてくれるだろう。私がそれこそ文字通り、一生懸命にアツくいられる対象を見つけられれば

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【呻吟】ーーとの賭け

【呻吟】ーーとの賭け

 父、母が複雑そうな面持ちで立っていた。
 一年振り。こんな娘を迎えに来てくれるようなそんな寛大な親だったらしい。
 おかしなもので、私の心は浮足立ち。社内での両親の話も耳に入ってこなかった。
 それもこれも、両親の発した一年振の言葉が、失跡でもお帰りでもなく、「殺人未遂で事情が事情だったから、こんな一年で帰ってこれたんだ」というようなことだったからだ。期待せざるを得ない。

 他にも、「精神病」

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【呻吟】砂の世界 旅路の日

【呻吟】砂の世界 旅路の日

 かつて砂の世界だと思っていた空間は、牢だった。年齢的にも少年院入りだったため、牢とはいえ、そこそこ部屋は明るかったようだ。
 ようだ、というのは閉ざされた記憶が流れ出したのち、私が三日間寝こんでいたからだ。知恵熱だろうか。夢であの日の事件がループしていたが、思い出せないよりずっといい気分だ。
 目が覚めると、折よく釈放日だった。出る際に、色々とメンドウな説明を聞かされたが、なにせ、メンドウで覚え

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【呻吟】理の日

【呻吟】理の日

 約束の日前日。寝床にて、急に黒いナニカに襲われた。
 翌日で、彼とは二度と会えなくなるのだろうか。他人事のようだが、私が殺すことになるはずだ。
 彼が苦しむ姿を見たくはなかった。自殺同様、人を簡単に殺せるとも思えなかった。
 原因はわからないが、殺すという行為はとても恐怖に満ちていた。殺したくなくなった。

 当日、発表直前のアレと似た恐怖心が脳を支配していた。殺害方法や道具の準備を、まるでして

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【呻吟】理の日 before.

【呻吟】理の日 before.

 ーーを正面に据え、この手を血で染めることとなる三日前。ーーは寂しい教室で私と向かう合う。

 「俺のことを殺してくれないか?自殺は怖いんだ」

 突然そんなことを言い出した。
 彼の顔は暗い表情をしていたのだろうか。声は震えていた気がする。

 私は咄嗟に出してしまったこの言葉を、今でも悔やんでいる。 「三日後土曜日でしょ。私の家に来て。両親、居ないから」

 彼は笑って見せたのか、口角を不自然

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【呻吟】ユイの戯言Ⅲ

【呻吟】ユイの戯言Ⅲ

「現実と向き合うの?」ユイだ。

 無理でしょという目をしている。出てきやがったか。

「ムダよ。あなたは考えれば考えるほど、黒一色で出来上がったあなた自身に蝕まれる人でしょう。現状に満足しているのだから、なにかを成そうだなんて思わないことね」その姿は、すべてを悟った仏かのように思われた。

 たしかに、ユイのいうことも一理ある。好きなことを仕事にする人、億り人、数多の選択肢。考えるのには疲れたし

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【呻吟】ーーは真実を求め、現実を望む

【呻吟】ーーは真実を求め、現実を望む

 その日も、なんてことのない日常だと思っていた。

 あまりに平凡すぎて、この日常を物語にすることは、古今東西あらゆる文豪が集えども、難しいかのように思われた。

「真実と事実の違いをさ、優等生もどきはしってる?」

 ーーには心なしか、影が差していた。まだ夕刻五時すぎだが、季節を感じさせる。

「わからないって、私が言ったら?」 

「知らないワケじゃないんだな。優等生らしく、真面目に答えててく

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【呻吟】ユイの消失

【呻吟】ユイの消失

 ユイに失せるように言って、長く感じられるような時が経った、気がした。回っていたはずの時計がないので何とも言えないのだが。

『ユイ消失事件、完全犯罪成立』だ。笑える。

 ゴメン、そう言ってユイに現れるよう促せば、カノジョはきっと何事もなかったかのように、隣に座ってくるだろう。
 そうしなかったのは、霧の晴れない記憶を思い出すことになりそうだから。

 逃げるな。とは誰もが言われるフレーズなのか

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【呻吟】ユイの激動

【呻吟】ユイの激動

「付き合ったんだ」ユイの顔には、ニヤニヤが張り付いていた。 

「さあ」とぼけてみる。

 なおもユイの顔は変わらない。おそらく、私のすべてを知っているのだろう。 

「彼氏が欲しかった?」 

「彼氏はそりゃあ、欲しかったわ。年並みにね。でも、いらないという気持ちだってもちろんあった。共依存はイヤだし。今だって、そうよ」

「今も?どっちでもいいと思うことで、割り切ったんじゃなかったのかしら」 

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【呻吟】ーーとまともな中学生

【呻吟】ーーとまともな中学生

 『明るい』と言うと、またニュアンスが違う気もする。
 クラスメイトや私と関わる人全般には、私は夢を描ける子で、夢を叶える知性を兼ね備えているように思われていたことだろう。成績優秀で、リーダーシップを取る。クラスの人は皆私を慕い、友達がたくさんいる。
 全ての人の彼女の印象はこうだった。絵に描いたかのような優等生っぷりだ。
 そんな中、ーーだけは、私をそんな目では見ていなかった。
 『優等生もどき

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【呻吟】 ユイの戯言Ⅱ

【呻吟】 ユイの戯言Ⅱ

「君は、これから先、何をして生きていくつもりなの?」まるで、私には未来が残されてなんてないという風に、ユイが素朴な疑問んを投げつける。自身のことを教えなさい、と。

「私とあなたが出会って、7日も経ったんだから」愉快気にそう呟く、ユイの示す事実に少し驚く。

 もっと時間が経っているものだとばかり思っていた。9ヶ月と1週間、体感では同じだった。
 ゆいがまたいつ砂に帰ってしまうかもわからない。そん

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【呻吟】 ユイの戯言Ⅰ

【呻吟】 ユイの戯言Ⅰ

 ここ砂丘では、時間の経過が早い。正しくは砂丘とも呼べないのかもしれないが。
 ほんのりと暖かい白のみが広がる箱。
 ある一定の距離を進むと、見えざる壁と対峙することとなるこの異次元空間は、箱である。
 広がる砂の真上には、古今東西あらゆる『美』を寄せ集めた黒い天井が存在する。唯一とも思われる丘の、隆起した頭に腰を掛けると、一望を楽しむことができる。
 砂に美しさを見出すこと、9ヶ月。9ヶ月とは、

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呻吟

呻吟

「私たちって、どういうカンケイ?」
 目の前の中学3年生の彼、ーーは、私望む言葉を用意しているのだろうか。
 友達、幼馴染、知り合い。それとも、彼氏彼女同然?一体なんだといえるのだろう。私は・・・どれかには当てはまると思うし、どれにしても違和感を覚える。誰かに、この関係を定義してもらいたいのだろうか。
 否、たとえ科学的なデータに基づいて、どこかの誰かに定義されたとしても、きっと私は納得しない。つ

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【あらすじ】 呻吟

【あらすじ】 呻吟

 ーーを刺殺した中学3年生の私。決して脱出することのできない砂の世界に閉じ込められたことで、廃人と化す。砂の景色を眺めるだけの日々であったが、砂で形作られた心を読む少女ユイが現れ、脳内の時は刻み始める。
 流れ込む記憶によって明らかになる、ーー真相。砂の世界から抜け出すことのできた私は、未来の人生をどのようにして歩むのか。
 さとり世代の呻吟と思春期の葛藤を描く、ユース・サスペンスドラマ!

もく

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