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連載小説【フリーランス】#29:Google Earthより遠い背中
旅館で出された夕食を食べ、食後の温泉に入ってしまうと、もうすることはなかった。観光地とはいえ田舎の夜は早い。ろくに体も動かしていないので、和食のフルコースが思いのほかお腹にもたれてしまい、お酒を飲みに出かける気分でもなくなって、幸代は早々に布団を敷いて横になった。旅先でそんな事態になっても、正和からは嫌な顔ひとつ、文句ひとつ向けられない代わりに、幸代も申し訳ないとは思わなかった。
引き戸を隔
連載小説【フリーランス】#26:何を言ってるのかよくわからない
黄金連休の初日、正和はいつものフィットで迎えに来た。一泊だからとたかをくくっていた幸代の荷物は思ったよりも膨らみ、一回り大きなボストンバッグが急遽クローゼットの奥から召喚された。正和はちらりと見て「やっぱり女性は荷物が多いね」とだけ言った。だから何だというのだろう。幸代がトランクを開けると先客として収まっていた正和の荷物はデイユースサイズのバックパック一つ。それに比べたら確かに多いけれども。