マガジンのカバー画像

エッセイ:大ちゃんは○○である

74
大学時代~役者を経て介護業界に飛び込み、現在までを綴るエッセイ。
運営しているクリエイター

記事一覧

エッセイ:大ちゃんは○○である74

エッセイ:大ちゃんは○○である74

簡潔に言うならば恋心の暴走だった。
クラスの中で最年少だった男の子が、
同じクラスの既婚女性に恋してしまい、
一悶着が起きてしまったのだ。
当時の彼は女性とお付き合いをした経験が一度もなかったらしく、
「あんなに優しく自分と接してくれた女性は今までいなかった。」
と言っていたのを思い出す。
人を好きになるのに理屈なんてないし、
好きになってしまう気持ちは責められるものでもないと思うが、
恋は相手あ

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である73

エッセイ:大ちゃんは○○である73

初日は主に各々の自己紹介を兼ねた座談会のような形式で終わったわけだが、
年代バラバラな中でも感じたことは雰囲気の良さ、居心地の良さだった。
年齢でいえば僕は30人いる中の下から2番目だったわけだが、
同じ志を持っている者たちの集まりだからなのか、
ただただ波長が合うような人達が集まっているからなのかは分からないが
人見知りな僕があまり臆することなく場の雰囲気に馴染めたのは
驚きでもあり、発見でもあ

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である72

エッセイ:大ちゃんは○○である72

120名の応募があったなんて。
さすがにその応募人数には僕もびっくりした。
改めて、『よく選ばれたもんだよなぁ』と感心したと同時に、
この場にきての妙な安堵感が押し寄せてきたのを覚えている。
学校長の挨拶が終わると、今度はオリエンテーションに入った。
事務の女性から今後の授業の進め方・スケジュール・注意事項についての説明があり、
その説明を聞きながら僕は良い意味でも悪い意味でも
『あっ、こりゃ本当

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である71

エッセイ:大ちゃんは○○である71

定刻になり、学校長からの挨拶が始まった。
「皆さん、おはようございます。
この度は職業訓練のヘルパー2級コースに応募をいただいてありがとうございました。
ありがたいことに今回ですね、このコースに約120名の応募がありましてですね、
大変に驚いたわけですけれども、
お一人お一人の書類をじっくり拝見させていただいて、検討を重ねた結果
今回の30名を選ばせていただきました。」
2000年に介護保険制度と

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である70

エッセイ:大ちゃんは○○である70

座席位置は決められていたので
割り振られた番号を確認して席についた。
誰もいない教室はとても静かで、
僕は早く着きすぎてしまったことに自分でも苦笑いをしながら開始時刻を待った。
『どんな人達が集まるんだろう?』
『年齢層はバラバラなんだろうか?』
『介護の世界は女性に比べて男性が少ないって聞いたことがあるけど
今回の受講者も女性の方が多いのかな?』
そんなことを考えながら時間は過ぎていき、
開始時

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である69

エッセイ:大ちゃんは○○である69

一週間ぐらい経ってからだっただろうか?自宅の郵便受けに職業訓練ヘルパー2級コースの
受講通知が届いていた。
どれだけ嬉しかったことか。
部屋の中で7回ジャンプをした後、前転を3回して
さらに開脚後転を2回もしてしまうぐらい嬉しかった。
これで一度はドアを閉められて、
門前払いを食らってしまった介護の世界に改めて足を踏み入れることができる。
受講通知の封筒の中に同封されていた概要説明を読みながら、

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である68

エッセイ:大ちゃんは○○である68

実際に書いた応募動機を一言一句覚えている
わけではないので割愛させていただくが、
溢れんばかりの熱意をペンに乗せ、
枠に納まりきらないぐらいの想いを羅列した。
何が何でも職業訓練のヘルパー2級講座を受講したかった。
本当にその一心だった。
『想いよー、届け届け届け届けーー!』
何度そう念じたことか。
受講が決まった者には郵送にて通知書類が届くとのことだったので、
目安となる期日まではソワソワソワソ

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である67

エッセイ:大ちゃんは○○である67

期間は三ヶ月間。
座学と実習のカリキュラムを修了すれば、
ヘルパー2級の資格をもらえる。
ヘルパー2級の資格があれば、今までと違って随分と就職活動がスムーズになるはずだ。
資格社会といっても過言ではない介護業界。
その扉を叩く準備の一つとして、この受講は僕にとって何が何でも必要だった。
もう門前払いは懲り懲りだった。
ただし、受講するにはそこそこに高いハードルがあり、小村の説明によると
定員が30

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である66

エッセイ:大ちゃんは○○である66

「大門さん、資格はお持ちになってます?」
「いえ、それが持ってないんです。
実はここに相談に来る前に何件か電話で問い合わせをしたんですけど、
無資格だってことを伝えるとどこも断られちゃったんですよ。」
僕は素直に答えた。
そんな僕の答えを聞き、
小村は『それはそうでしょうな』といったような表情を浮かべると、ゆっくりと話し始めた。
「まあ、現実はそういったところが多いでしょうね。
職業訓練に応募して

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である65

エッセイ:大ちゃんは○○である65

ソファーに腰を下ろしてから40分程経った頃だろうか。
「25番の方、6番の窓口へどうぞ。」
とのアナウンスが響き渡った。
僕は手にしていた番号札を今一度確認すると、
やや重たく感じる腰を上げ、6番の表示が出ている窓口に向かった。
「よろしくお願いします。」
と言って、担当者に番号札を渡して席につく。
担当者に目をやると、きれいに七三に分けられた髪に銀縁眼鏡をかけた初老の男性だった。
あまり表情はな

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である64

エッセイ:大ちゃんは○○である64

「22番の方、3番の窓口へどうぞ。」
響き渡るアナウンス。フロア内は大勢の人で溢れ返っている。
25番の番号札を持った僕は、待ち合いのソファーで番号が呼ばれるのを待っていた。
ここ職業安定所には色々な事情を抱えた様々な人達が集まる。
年齢もバラバラ。服装もバラバラ。性別もバラバラ。そして、理由もバラバラ。
ただ一つ共通していることといえば、
『仕事を見つけたい』という意志を少なからず持ち合わせてい

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である63

エッセイ:大ちゃんは○○である63

「もしもし、求人を見てお電話したんですが、
まだ募集はしていますでしょうか?」
先ほどの落胆を払拭するかのように再びハツラツとした声を出した。
「はい、していますよ。面接をご希望ですよね?
現在何か資格はお持ちになっていらっしゃいますか?」
「……いえ、資格は持っていないんですが。
あの、無資格でも大丈夫なんですよね?」
嫌な予感がしたので、僕にとっては最も重要視する部分を聞いてみた。
「大丈夫…

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である62

エッセイ:大ちゃんは○○である62

1Kの狭いアパートの一室。
座椅子に腰かけコーヒーを一口啜った僕は
一件目の会社に電話をしてみた。
数回のコール音がした後、
「はい、お電話ありがとうございます。
ふれあいクラブ、佐藤でございます。」
とハキハキした口調の女性が電話口に出た。
「もしもし、あの、求人を見てお電話したんですが、
まだ募集はしていますでしょうか?」
なるべく印象が良いようにハツラツとした声を出した。
「はい、しています

もっとみる
エッセイ:大ちゃんは○○である61

エッセイ:大ちゃんは○○である61

一言で『介護』と言っても、その働き方は色々とある。
当時の僕はあまり知識がなく、介護と言えば老人ホームのような施設で働くか
訪問介護員か、デイサービス職員ぐらいしかないと思っていた。
すぐに働きたかった僕は、集めてきた求人雑誌の中から介護施設の募集要項に片っ端から目を通し、
めぼしい求人を一件一件ピックアップしていった。
本当にたくさんの募集が並んでいたが、
不思議と『無資格でもOK』という募集は

もっとみる