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【1分フィクション】

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1分以内で読み切り可能なフィクション作品集。 2022年1月より週1本追加しています。(2024.4時点) 追記:2024年度は不定期更新
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記事一覧

【私がいないこの世界で】

【私がいないこの世界で】

何も変わらない。

私がいなくても
時間は進むし
人は生き続ける。

それでも、迷ってしまう。

蔓延する疫病が人々の生気を食い尽くし、罹った人間は自らを失っていく。そして元となるウイルスは、皮肉にも我々人間の手によって日々力を増幅させていた。そんな中で、私の身体に潜む兵器は世界を助けられるそうだが、私も生ける一人の人間。私如きの人生の犠牲と世界の安定を天秤にかけてしまう。

ある日ある国から極秘

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花を咲かせ!

花を咲かせ!

それは突然だった。

離れ離れを迫られる選択。

誰にも止められない君の夢。

無限の可能性が限りあるものだと現実を知った時、君は焦った、そして戸惑った。

このままで良いのか、と。
この夢は見るもので叶うものではないのか、と。

夢を追いかけたところで夢に辿り着けるわけじゃない。理想は現実から程遠い。

でも、君は夢を選んだ。

それが、君だ。

私は拒む。
嫌だと心では叫んでいる。

ゆっくり

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怪獣と君

怪獣と君

昼下がり。
日差しは強く、曇った胸の内を照らす。
照らされて焼かれた匂いに神経を休ませる。
怪獣は、可愛い君に包まれて愛を知ったあの日を思い出していた。

怖いから遠ざけるのではなく、知ろうとした君。
誰も信じられず、諦めていた僕を温めてくれた。

それなのに僕は君に何もできずにいた。
それが優しさだとも知らずに。
不快感さえ感じて、鬱陶しかった。

本当に、何も、できなかった。

知らんぷりされ

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地球出身

地球出身

僕は地球出身だ。

アジア区域日本エリアが僕の生まれた場所。

全宇宙的に見て地球人はどちらかといえば発展している方らしく、頭が良い。

そう勝手に思っていたけど。

それは偏見だ。

ある点において優れていても、別の点においては劣っているから、一概に僕たちが正しいとは言えない。
みんなそれはわかっている。

でもそれでも、僕らが正しいと主張するしかない。後には戻れないし、先祖が頑張ってきた過去を

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王子様に迎えに来てほしいわけじゃない。

王子様に迎えに来てほしいわけじゃない。

優しくて
寛大で
かっこよくて
正義感のあって
真面目で

そんな完璧な王子様なんか、求めてない。

ズルくて
だらしなくて
ズボラで
テキトーで
地味で

そんな一見足りない人間でもいい。

己と我を大切にして愛する。
そんな、愛を知っている人間がいい。

だからね、無理しないで。
私はあなたを知っている。
大丈夫。
自分を愛していいんだよ。

取り繕ってもいい
見栄を張ってもいい
嘘をついても

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白檀と本を読む彼

白檀と本を読む彼

そこは小さな本屋だった。

森の奥に佇む隠れ家のようにひっそりと存在していて、辺り一面はとても静か。

人通りも少なく、物好きの入る店。

私はそこにいる彼に一目惚れした。

白くほっそりした手
サラサラと風でなびく長い前髪
少し猫背気味な背中
スラっと伸びる脚

存在が透明。
彼はこの世に存在しているのか。
そんなことを疑ってしまうくらい、彼は透明。

風が吹けば消えてしまいそう。
守らなきゃ。

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孤独と対峙する毎日に

孤独と対峙する毎日に

孤独の空間を浮遊する日々は
至って僕の日常だ。

友人に取り繕い
家族に偽笑を与え
仲間に見栄を張る。

誰も僕の事を正しく見てはくれない。

初対面の人間は僕の肩書きに惚れ
顔馴染みの人間は僕の嘘まみれの言葉を信頼し
親しい人間の眼には歪んだ僕の像しか映らない。

人間は僕をどんどん殺していく。

それと同時に僕は知っていた。

僕が変われば周りも変わる事を。
彼らの見る僕は僕が彼らを見ている方

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生きるって、面倒だ。

生きるって、面倒だ。

生きなきゃ
生きなきゃ
生きなきゃ

生きたい

それは死が目の前に見えているから

普段、生きなきゃなんて思わない。
ただ、怠惰に、惰性に、なんとなく。
僕はやらなきゃいけない事に追われて
生活をしているだけ。

やらなきゃいけない事なんて人生あるのか?
そんな疑問さえ、浮かばないものだ。

この世に存在し息をしている以上
逃れられない社会から逸れないために
紆余曲折、試行錯誤しながら
お金と食

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離れていても

離れていても

ずっと

ずっと

ずっと

あの日からずっと
君が好き。 

カリッとした金平糖が
弾け飛ぶのは
目線が合わさったから。

きゅるっとしたレモンの雫が
浸透していくのは
微笑み合ったから。

そんな記憶は、遠い昔で。

今君の姿は隣にいない。
この世の何処かにいるはずなのに。
もう混ざり合わない、一生会えないのだろうか。

残念ながら
現実はフィクションのようにはいかないから
必然の偶然は、無い

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世界が灰色に染まる時

世界が灰色に染まる時

何も知らなかった僕は
自分の好きなように世界を彩ることができたのに。

今、目の前には灰色しかない。

鮮やかに夢や希望を乗せた未来を描くなんて
無知の特権だ。

社会を知れば知るほどに
嘘や欲やエゴといった渦に飲み込まれ
希望を絶望に変えていった。

人間を知れば知るほどに
自分も嘘と欲とエゴに塗れた人間だと気づく。
今まで清くて素直で純粋に生きてきたと勘違いしていただけで、全てはそこに尽きるの

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おかえりなさい

おかえりなさい

ゆらゆらと暑さで揺れる視界

突き刺すような日差し

日傘と日焼け止め
保冷剤にタオル
帽子とアームカバー

完全防備スタイル。
さぞ不審がられるかと思いきや
周りを見渡せば、意外と同類が多い。

レンタカーでちょっと奥の道をゆく。
冷房をMAXにして涼み
そこに待つ人に会うため、どんどん走らせる。

駐車すればまたこの籠る空気が肌を覆い、
じわじわと滲む汗が気持ち悪い。

水を汲み、掃除をして、

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終わらない夏と詩

終わらない夏と詩

空に放たれた小さな火炎の粒たちが舞い彩る。

それを見上げる私といつもより距離を取る隣の君。

どうしても、これで終わってしまうの?

悩んでも、悩んでも、最適解は見つからない。

肌にまとわりつく空気が心をさらに狂わせた。

周りの笑顔に抉られる、私。

楽しいはずだった。だけど今はもうどうでもいい。

飲み込むしかないこのさよならを
どうにか自分なりに解読して
この先を生きていくしかないから。

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破壊衝動と妄想

破壊衝動と妄想

己も気付かぬまま、我慢していたらしい。
破壊的妄想が一日中頭を占領している。

行くあてのないまま歩いていた時
すれ違う人を急にビンタしたくなったり。

カフェで壁を眺め続けた時
手元の飲み終わったグラスを割りたくなったり。

駅のホームで電車を待っていた時
線路にジャンプして降りたくなったり。

だけどそれが現実になることはない。
我はただ、その衝動を欲しているだけだ。

もっとわかりやすい例え

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願いと笹と

願いと笹と

空を仰げば
天に瞬く小さな光の粒。
今にもここに落ちてきそう。

目を閉じてみる。
さわさわさわ
笹の揺れる音がした。

そぞろに近寄ってみると
願いの書かれた紙切れたちが
笹を彩っている。

子供達、大人達の願いって何だろうか。
健康第一?お金が欲しい?家族で幸せになりたい?
両想い祈願?足が早くなりたい?試合に勝ちたい?

そんな時、ある一つの願いがふと目に入った。

「世界平和」

温かく希

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