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詩集(自選版)

13
私の紡いだ言葉たち。 自選版。
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記事一覧

【詩】ピアノの木

【詩】ピアノの木

白鍵と
黒鍵と
それらがずらりと並ぶ八十八の玉座

そして
沈んだ鍵(けん)の窪みから
人の姿に似た木が芽吹く

ピアノから生まれた木は
母なるピアノに還るべく
八十八の玉座を尋ねる

その軌跡を律とし
隠されたパターンを解き明かした時
かの扉が開くのだ

そして
浮かんだ鍵(けん)の頂から
人の姿に似た木が還っていく

私の耳に残った響きは
その生命の旅路
私の心に残った響きは
その生命の循環

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【詩】ずぶ濡れ

【詩】ずぶ濡れ

そっと差し出された傘を
私は受け取らない

他人の言葉の陰に身を寄せることなく
私は雨に打たれたい

そっと差し出された傘を
私は受け取らない

無遠慮に降り注ぐ雨に打たれるものたちと
私は同じ気持ちになりたい

そっと差し出された傘を
私は受け取らない

傷つけてしまったことを忘れぬよう
私はこの身を曝し刻みたい

そっと差し出された傘を
私は受け取らない

雨に打たれる姿が憫然たる有り様だとし

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【詩】黄金の精神

【詩】黄金の精神

黄金の

気高さを撒き孤独に伏す

危うさを燃える煌きに隠す

柔く 柔く

金色の幕引き

すべてを覆い

翳りを生む

その暗がりで

私は佇む

黄昏れる貌が見えぬよう

眩く 眩く

閃光を間借りして

景色を溶かし

その金波の余韻を束ね

脆く 脆く

精神を織る

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

己の繊細さに悩むあなたは、きっと脆くも

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【詩】名札

【詩】名札

あそこを見てみなさい
言葉を覚えたばかりの人間が
こちらを仰いで
君たちをなんと呼べばいいものか
困っている
だから
ほら
名札をつけなさい
君は「月」
あなたたちは「星」
そこの大柄なのは「夜」
と神さまは用意した名札を渡しました

しばらくすると

聞いてください
わたし
「星」なのに
人間は
「ベテルギウス」って呼ぶんです
わきのしたって意味らしいです

報告する者が現れました

それを聞

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【詩】シルバニアファミリー

【詩】シルバニアファミリー

1歳の娘が
シルバニアファミリーの
パパを
しゅーっと
口をとがらせながら
背面へ放り投げた

1歳の娘が
シルバニアファミリーの
ママを
しゅーっと
元気よく発声し
側方へ放り投げた

残された
シルバニアファミリーの
娘は
家の中で
1人
散り散りとなった
家族を探さず
1人
声もあげずに
1人

突如訪れた
一家崩壊の危機に
やさしくほほえむだけ

この子の
パパと
ママが
私の
パパと

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【詩】砂遊び

【詩】砂遊び

僕の手は
ちいさいから
足元の砂を
掬っては
家やら
山やら
団子やら
作っては
はしゃぎ
作っては
こわし
作っては
ひけらかし

黄昏がうんと
背伸びをする

みるみるうちに僕の姿は
大人と呼ばれる形になっ

次第におおきくなっていく手は
たくさん掴めるようになったから

ついめいっぱい広げるものだから
掬いたくないものまで握りしめ

山も森も川も町も人も営みも
節操なく根こそぎ掴み取

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【詩】ダム

【詩】ダム

堰き止められなかったものが
言葉になってこぼれて
滝のように
勢いよく放水されていく

お日様の機嫌が良ければ
虹がかかるかもしれない
放物線は嬉しそう

その華やかさとは反対に
しずかで
ふかくて
おおきくて
言葉にできなかった
今は何者でもないものたちが

まだかまだかと
外の世界を待って
このダムの裏側で
たっぷりと
ためられていく

ぼくのすみか
だったばしょは
とうのむかしに
そいつらの

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【詩】 3歳のクリスマス ―高階様のTweetより―

【詩】 3歳のクリスマス ―高階様のTweetより―

今回はX(Twitter)で目に留まった高階様のTweetを元に作成いたしました。
御本人の承諾のもと、Tweetのご紹介も含め詩を投稿いたします。

↓元ツイートです。

【詩】3歳のクリスマス
今年もクリスマス
毎年同じプレゼントを買っていく
君の大好きなトミカ
今年で29台目

喜んだ顔を思い浮かべる
29年経った今でも
君の笑顔は3歳のまま
あの時から
永遠に

来年はどんな車がいいかな

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【詩】“祈り”

【詩】“祈り”

かつて“祈り”は生き物だった
苦難に藻掻く人々の前に現れては
奇跡を振り撒き
邪気を退け
傷を癒やした

しかしある時
人びとは
“祈り”の
力を求め
締め上げ
血を抜き
身を洗い
毛を炙り
皮を剥ぎ
腹を裂き
腸を啜り
斧で断ち
肉を切り
鍋で茹で
喰らった

“祈り”の力を得たと言う人達は崇められ
大病が流行ると呆気なく死んでしまった

奇跡は
この苦しみは
私たちの命は
残された人々は血眼で

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【詩】手を引く者

【詩】手を引く者

小さな頃の僕は臆病で
親に手を引かれ
いつも大きな背中を見て歩いていた

思春期を迎えた僕はぶっきらぼうで
親の手を離れ
脇目もふらず先へ先へと走り出した

大人になった僕は久々に実家に帰ると
親の手はしわくちゃで
大きかった背中が小さく見えた

親になった僕は子どもを見せに行くと
親をじいじとばあばと呼ぶようになり
子どもを見る2人の姿が懐かしく思えた

子どもが歩くようになると
今度は僕が子ど

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【詩】うらおもて

【詩】うらおもて

あの地平線をひっくり返せば
空は海になるのかな

音の波に乗れば
色の波に飛び移れるのかな

影を捲れば
そこに光はあるのかな

“嫌い”をなぞっていけば
いつか“好き”に辿り着けるのかな

表を捲れば裏があり
裏を返せば表があり
元々2つは1つだったのかもしれないね

そうして僕は
粗雑に捨てられた“嫌い”という感情を
指の腹でそっと撫でた

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

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【詩】花言葉

【詩】花言葉

あなたを待っています
私を思い出して
また会う日を楽しみに
あなたを忘れない

あなたたちは色んな言葉を囁くけれど
どれも意味はわからない

佇む私たちを見て
時には笑って
時には泣いて
なぜそのような表情を向けるのかわからない

たゆたう私たちの首根っこを
嬉しそうに引き千切り
知らない場所に引き出され
誰かもわからない人へ引き渡され
そのときに唱えていた
おめでとうがわからない

君がいつも囁

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