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童貞について―三島由紀夫の場合
今では彼が自尊心から拒んでいたものすべてが、逆に彼の自尊心を傷つけていた。南国の健康な王子たちの、浅黒い肌、鋭く突き刺すような官能の刃をひらめかすその瞳、それでいて、少年ながらいかにも愛撫に長けたようなその長い繊細な琥珀いろの指、それらのものが、こぞって清顕に、こう言っているように思われた。
『へえ? 君はその年で、一人も恋人がいないのかい?』
―『春の雪』(三島由紀夫)
(覚書・Gun
あまりに薄い日めくりの紙
祖父母の家と聞けば、薄紙の日めくりカレンダーを思い出す。
幼い頃、遊びに行くと必ず「昨日」の紙が残されていた。私がそれを剥がすのが好きだということを、祖父母は知っていたらしい。
大人になった今、この僅かな記憶を再現している内に、懐かしさではなく、漠然とした不安が押し寄せてきた。
***
祖父母の家は、ふたりで住むには広すぎる戸建てで、老人が上がるには急すぎる階段が続いている。私の親の部屋は、
ポスターに騙されるな!
今年、日本で公開されたアメリカ映画は良作続きだったと思う。
『スリー・ビルボード』に始まり、『フロリダ・プロジェクト』、『ウインド・リバー』、そして(小説だが)『ブルーバード、ブルーバード』と、アメリカが忘れようとも付き纏う汚点に、誠意を持って向き合う作品が多かった。
ささやかながら、自分なりにこの一年に意味を与えようと、先送りにしていた映画を観た。
『ブラック・スネーク・モーン』。
ポスター
どんぐりと山猫と往復はがき
2週間前のこと。郵便屋を早期退職した友人に、往復はがきを100枚もらった。はじめわたしは「メール魔なのではがきをもらっても使わないよ」と言ったが、友人は「遊びでもいいから使ってみてよ」とのこと。遊ぶ物には困っていないし、なにより要らないものは部屋に置きたくないと言うと、友人は寂しそうな顔をして口をつぐんだ。郵便屋を早期退職したとはいえ、彼の飯の種の象徴のような物を要らないなんて言うべきではなかった
もっとみるホッピー中350円、外130円
この値段は東京では適正価格なのか。
千葉南房のはずれに出張中に、
年季の入ったラーメン屋の店主から問われた。
いや実際は「適正価格なのか」なんて、
気の利いた言葉ではなくて、
同じ土地で50年以上店を構えてる親父が、
乱雑に壁に貼られた価格表を指差しながら
年季の入ったぶっきらぼうが
時を経て温かみを増したような、
頑固を諦めたような優しさで聞いて来たのである。その指は震えていた。
親父は、
帰れないウィークデイ&エンド
土曜日の宇都宮で餃子
日曜日の稲荷町でタバコ
月曜日の北千住で焼き鳥
火曜日の新中野で刺身
水曜日の新橋には行かず
木曜日の新宿でニラ玉とアブサン
金曜日の渋谷でモツ煮
土曜日の六本木に篭り
日曜にようやく帰る
文もいすと
友人の文章について―かえれない平日の成立
私には友人がほとんどいないのだが、数少ないそれと呼べるふたりと、このnoteを続けている。
私を含む三人とも、映画や音楽などが好きで、そしてまた、ほどほどに趣味が分かれている。
飲み交わす度に、評論家じみた態度でくだを巻く。好みは違えど、互いの物言いを信用しているはずだし、私にとってはささやかなサロンだとも思っていて、居心地の良さを感じる。
馴れ合いだとは言わないが、ただそれが勿体ないことは知っ
グーグル・マップ・ミラノ・サンポ
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん
萩原朔太郎 「旅上」----エピグラムにかえて
* * *
ミラノに行きたい、ずっとそう思っていた、いつからだろうか、なにがきっかけだったろうか、
おそらく、中田のヒデだったと思う、あの金髪で、短髪の、切れ長の目の、中田のヒデが、ミラノでセンセーショナルな活躍をして、宮沢りえと海
「かえれない平日」について
このnoteが複数人で運営していることが分かるようにと、某映画会社勤務の"GunCrazyLarry"と名乗る男の一声で、プロフィールが明確になった。そして同時に「カルチャー&ライフスタイルマガジン」のテイなのだということも、某出版社勤務の"スウィートメモリー"と名乗る男が、意識的か無意識的かは別として、文字に起こし、方向性を定めてくれた。自分の関与しない所で形作られていくのは、疎外感というよりむ
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