Tomokazu.Nishida(西田友和)

誰かを癒すために文章を書きたい。でもその前に自分を癒すための文章を。

Tomokazu.Nishida(西田友和)

誰かを癒すために文章を書きたい。でもその前に自分を癒すための文章を。

マガジン

  • バイオグラフィー -- 僕が失明するまでの記憶

    生まれてから失明するまでの記憶を、忘れないよう記録として書き留めました。 記憶に基づいた記述のため不正確な箇所や不鮮明な箇所があるかも知れませんが、一人の人間の生きた痕跡として、読んでいただければ幸いです。

  • スケッチブック -- 心の風景

    自作の短編、詩、心象風景をつづった記事をまとめています。

  • ノートブック -- 日々徒然

    エッセイ、日々の徒然、身辺雑記をまとめています。

記事一覧

固定された記事

手紙

Y.I. 様  お久しぶりです。元気にしていますか。  唐突にそう言われても、君は僕のことなど何も覚えていないかも知れない。仮にそうだったとしても、仕方ないとは思う…

誕生日に

テーブルに籠いっぱいの処方薬誕生日でも量は変わらず 「このバスは水素で走ります」だけど水素を入れるスタンドがない 鶏が先か卵が先かとの問いに答える「卵が先」と …

宇宙の神秘

「本物の星よりきれい」はしゃぐ子らプラネタリウムの外は小雨 双子座の星占いを信じれどどこに双子座あるかも知らず 一生は何秒かなと計算し星の数とも比べてみたり も…

作品を解体せよ

失明する前に通っていた小学校の体育館(そこは卒業式の行われた場所でもある)に、級友とともにいた。 僕たちはもうすでに卒業し、僕も失明していたが、そこでは当時の年…

夏のおもいで

垂直に落ちる光はぼんやりと瞼を濡らし浮かぶ残像 父親がパチンコへ行く日曜の昼ごはんはぬるい冷や麦で 陽炎が空気を曲げる夏の午後自転車で踏む乾いた地面 あまりにも…

新しい事業を立ち上げました

さて、今回は一つお知らせがあり投稿させていただきました。 昨年まで社会福祉法人施設で施設長を仰せつかっていましたが、 この度、そこでのICT相談の経験と、自身が持つ…

雨のまにまに

教科書をわざと忘れたその訳は隣に君がいてくれたから 傘のない濡れる背中を追いかけて影が重なる雨の随に 向き合ってはじめて気付く利き腕が同じ左で動きが止まる サリ…

たんすのお花畑

 たんすの一番下と下から二段目には女の子のお洋服が入っています。  下から三段目と四段目にはお母さんのお洋服が入っています。  下から五段目と六段目にはお父さんの…

短歌の勧め

絵を描くのが好きだった。絵を描いていると、絵の中の世界にとっぷりと浸ることが出来た。 また描き終えた絵は、心をいやしてもくれた。絵は、ときとして本物以上に本物ら…

夢は語る

夢は語る。 「過去に囚われず、今を生きろ」 夢の詳細は覚えていない。 でも目覚めたとき、心に残像のように浮かんでいるメッセージがこれだった。 「過去に囚われず、今を…

贅沢な時間

最近我が家で密かなブームとなっているのが、ラジオである。 金曜夕方に放送されているNHK第1の番組「Nらじ」を、家族そろって聴いている。 金曜日のNらじは、緑内障で視…

モノローグ

自分が劣った人間であるという自覚は、障害を持つ以前から持っていた。 兄の障害、親の低学歴、家族の宗教、 口下手、不器用、醜悪な見た目。 僕はコンプレックスの塊だっ…

ミッドライフ・クライシスと最近の不眠について

不定期的に不眠の症状が訪れる。 はじめてその症状を呈したのは中学生のときだった。 中学生といえばちょうど失明して間もない頃で、当時はどうしても昼間起きていられなか…

また明日

 別に学校が嫌になったわけじゃなかった。むしろ学校は楽しいとすら思っていた。それが突然、夜眠れなくなり、その分昼間起きられなくなって、行きたくても学校に行けなく…

謎の栗おこわソースから得た教訓

昨日の夕食は弁当だった。妻が東京やら日本橋やらを巡る買い物のついでに、デパートで買ってきてくれたものだ。娘には洋食、僕と妻は和食の弁当だった。 僕が選んだ弁当に…

文学の門

どうしてろくに役にも立たない文学など存在するのか。 もしそう聞かれたら、どう答えればいいだろう。 文学を味わう最大の喜びは、自らの認識枠組みが解体され、全く新た…

手紙

手紙

Y.I. 様

 お久しぶりです。元気にしていますか。

 唐突にそう言われても、君は僕のことなど何も覚えていないかも知れない。仮にそうだったとしても、仕方ないとは思う。だって、君と僕が最後に会ったのは、もう30年以上も前、小学校の卒業式のときにまで遡らなければならないから。
 本当なら僕も君も、卒業後はそのまま隣にある公立の中学校に進学するはずだった。そうなるものだと思い込んでいたし、それ以外の

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誕生日に

テーブルに籠いっぱいの処方薬誕生日でも量は変わらず

「このバスは水素で走ります」だけど水素を入れるスタンドがない

鶏が先か卵が先かとの問いに答える「卵が先」と

ニュートリノ今も地球に降り注ぐ幾億年の時空を超えて

目には目を歯には歯をと言えるならどうして言えぬ愛には愛を

光より速く思いを届けよう量子もつれにこの愛こめて

食べ終えた茶碗に残る飯粒にしつこく生きろと励まされて

夜中に響く救

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宇宙の神秘

「本物の星よりきれい」はしゃぐ子らプラネタリウムの外は小雨

双子座の星占いを信じれどどこに双子座あるかも知らず

一生は何秒かなと計算し星の数とも比べてみたり

もしここにブラックホールがあるとして離れ離れか? 体と意識

人体に誰もが抱く小宇宙 呼吸をすれば宇宙は一つ

この爪も髪の毛さえも物質の源はみなあのビッグバン

AIが教えてくれる究極の答えは一つ「愛こそすべて」

流星を見るため山へ

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作品を解体せよ

失明する前に通っていた小学校の体育館(そこは卒業式の行われた場所でもある)に、級友とともにいた。
僕たちはもうすでに卒業し、僕も失明していたが、そこでは当時の年齢に戻っていた。
体育館には僕が卒業前にやり残した美術(図工)の作品があって、それをみんなで取り壊すのが目的のようだった。

作品は跳び箱をもとに細工をほどこしたものだった。
ほんとうにいいの? と気にしてくれた女の子もいたが、僕はかまわな

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夏のおもいで

垂直に落ちる光はぼんやりと瞼を濡らし浮かぶ残像

父親がパチンコへ行く日曜の昼ごはんはぬるい冷や麦で

陽炎が空気を曲げる夏の午後自転車で踏む乾いた地面

あまりにも漆黒過ぎる夏の影プール帰りの友が眩しい

自販機で買ったサイダー握りしめ潰れたのはクシャクシャの自我

畦道を低空飛行する蜻蛉夕闇が日の終わりを告げる

食卓を囲む家族に父親はいない 今もパチンコに夢中

遠吠えが花火の音に掻き消され

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新しい事業を立ち上げました

さて、今回は一つお知らせがあり投稿させていただきました。

昨年まで社会福祉法人施設で施設長を仰せつかっていましたが、
この度、そこでのICT相談の経験と、自身が持つファイナンシャルプランナーの資格を活かし、
個人で新たな事業を立ち上げました。

人生の様々な局面で重要な役割を果たすお金。
その問題について最も頼れる存在なのがFP(ファイナンシャルプランナー)です。
しかし、障害のある人が一般のF

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雨のまにまに

教科書をわざと忘れたその訳は隣に君がいてくれたから

傘のない濡れる背中を追いかけて影が重なる雨の随に

向き合ってはじめて気付く利き腕が同じ左で動きが止まる

サリンジャー、フィッツジェラルド、カポーティもわからないのと打ち明ける君

ゴンドラが一回りするその間君は黙って空を見ていた

暮れなずむ空に隠れる星々の淡い光を探るみたいに

何故だろう夢での君は悲しげで手を伸ばしても擦り抜けてゆく

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たんすのお花畑

 たんすの一番下と下から二段目には女の子のお洋服が入っています。
 下から三段目と四段目にはお母さんのお洋服が入っています。
 下から五段目と六段目にはお父さんのお洋服が入っています。
 でも、下から七段目、つまり一番上の段に何が入っているのか、女の子は知りません。
 いくらがんばって背伸びしても、まだ一番上の段には届きません。

 「そうだ、いいこと思いついた」

 女の子は一番下の段から順番に

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短歌の勧め

絵を描くのが好きだった。絵を描いていると、絵の中の世界にとっぷりと浸ることが出来た。
また描き終えた絵は、心をいやしてもくれた。絵は、ときとして本物以上に本物らしく、観ている人の心に語りかけてくれるからだ。

失明する前に描いた絵のことは、今でもはっきりと思い出すことができる。もしあの頃桜の絵を描くことがなかったら、今ほど鮮やかにその姿を思い出すことはなかっただろう。
僕は特に風景や事物を描くのが

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夢は語る

夢は語る。
「過去に囚われず、今を生きろ」
夢の詳細は覚えていない。
でも目覚めたとき、心に残像のように浮かんでいるメッセージがこれだった。
「過去に囚われず、今を生きろ」
その通りなのだろう。

この連休は、囚われの過去を整理するための時間だった。
といって簡単にすべてを整理できるわけでもない。
それでも流れる時間に負けるわけにはいかない。
少しでも力をゆるめたら、とたんに意識は過去へと追いやら

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贅沢な時間

最近我が家で密かなブームとなっているのが、ラジオである。
金曜夕方に放送されているNHK第1の番組「Nらじ」を、家族そろって聴いている。
金曜日のNらじは、緑内障で視覚障害を持つNHK の杉田淳デスクがメインのパーソナリティーを務めていて、多様性をテーマに様々なトピックをわかりやすく解説している。

とかく障害のある人の語りというのは、意識するとしないとに関わらず、その障害に制約されてしまう傾向に

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モノローグ

自分が劣った人間であるという自覚は、障害を持つ以前から持っていた。
兄の障害、親の低学歴、家族の宗教、
口下手、不器用、醜悪な見た目。
僕はコンプレックスの塊だった。

これに失明が重なった十代の頃は、死ぬことしか考えていなかった。
何度か自殺行為を行い、死にかけたこともあった。
それでも死ねなかったのは、内側に眠るプライドがあったからなのだろう。
このまま終わりたくない、終わるはずがない、と。

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ミッドライフ・クライシスと最近の不眠について

不定期的に不眠の症状が訪れる。
はじめてその症状を呈したのは中学生のときだった。
中学生といえばちょうど失明して間もない頃で、当時はどうしても昼間起きていられなかった。
本当なら通うはずだった中学が自宅の目と鼻の先にあって、聞こえてくるチャイムや校内放送の音に堪えられなかった。
夜眠れなくなるといつも、どこにも行けず、何もできなかったあの時代を思い出す。

最近また不眠気味だ。
床についても真夜中

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また明日

 別に学校が嫌になったわけじゃなかった。むしろ学校は楽しいとすら思っていた。それが突然、夜眠れなくなり、その分昼間起きられなくなって、行きたくても学校に行けなくなってしまった。
 しばらくすれば治るだろうと最初は暢気にしていた両親も次第に心配になったようで、僕を駅前にある大きな大学病院へ連れて行った。
 結果はさして変わらなかった。長い質問をされたり、知能テストのようなことをされたり、ときには意味

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謎の栗おこわソースから得た教訓

昨日の夕食は弁当だった。妻が東京やら日本橋やらを巡る買い物のついでに、デパートで買ってきてくれたものだ。娘には洋食、僕と妻は和食の弁当だった。
僕が選んだ弁当には、肉、魚、煮物、和え物などが細かく仕切られた枠の中に贅沢に盛り付けられていて、ご飯も赤飯と炊き込みご飯らしきものの2種類が入っているとのことだった。目の見える娘が説明してくれた。
さらに、弁当には赤飯にかけるゴマ塩と、栗おこわにかけるソー

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文学の門

どうしてろくに役にも立たない文学など存在するのか。
もしそう聞かれたら、どう答えればいいだろう。

文学を味わう最大の喜びは、自らの認識枠組みが解体され、全く新たな視点で世界を見られるようになることだ。
決して語彙や知識が見に着くためではない。もしそのためだけに文学を読むなら、それは極めて退屈な作業に成り下がってしまう。

特に生きることに絶望していた若い頃、文学に惹かれたのは、自分の一面的で浅薄

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