マガジンのカバー画像

読んでない本の書評

132
表紙見て、あとがき読んで、数行目を通したら、だいたいわかる気がしてきた。 より深く理解するために、重さも測ることにする。
運営しているクリエイター

#コラム

読んでない本の書評81「短歌ください」

読んでない本の書評81「短歌ください」

131グラム。軽量級文学代表、短歌。これはつまり31文字で人をびっくりさせればいいルールなのだろうか。

 交通量の少ない静かな道を、雪を踏み分けながら初詣に向かうなどしていると短歌とか俳句とか、そういうものに手を染めてもいいのじゃないかしら、という気がしてくる。こういうふうに一瞬だけ匂って消えてしまう、普段と少し違う日常に対するかすかな驚きを保存する技術はあったほうがいいのではないかしら。

 

もっとみる
読んでない本の書評80「失われた時を求めて --スワン家のほうへ フランスコミック版」

読んでない本の書評80「失われた時を求めて --スワン家のほうへ フランスコミック版」

424グラム。フランスのコミック、バンドデシネ。日本でお馴染みの漫画に比べるとフルカラーで明らかにいい紙を使ってるせいもあってずしっと重い。そして高い(税別2500円)。

 プルーストといえば、全巻並んでいる背表紙をみたこともあるし、手に取って目次にじっくり目を通したこともあるし、プチット・マドレーヌのシーンを読んだこともあるし、マドレーヌが手に入ったときにわざわざ紅茶に浸してああかこうかと食べ

もっとみる
読んでない本の書評79「記憶スケッチアカデミー2」

読んでない本の書評79「記憶スケッチアカデミー2」

93グラム。たまたま見つけたのが2だった。どこかに1があるはずだ、とわざわざ探すこともせず、2だけ読む程度には爛れた年末年始を送っていて、いい具合である。

 お正月の余技として、下手な絵を描いて笑ってもらうというのもよいのではないか、と思ったのだ。LINEスタンプであけましておめでとうを済ませるよりは、なんだかわからない絵を送り付けられて初笑いの方が、次に会ったとき多少の話題にもなる。

 この

もっとみる
読んでない本の書評78「ぼおるぺん古事記」

読んでない本の書評78「ぼおるぺん古事記」

「天地創生」「出雲繁栄」「天孫降臨」の三巻で713グラム。どの巻も、まさに神ってる。

 古事記は、もともと好きなのだ。決して読みやすいと思っていたわけではないから、好き、とまで言うと少し恰好つけすぎなのかもしれないが、ものすごく面白いエキスがふんだんに入ってることにはずいぶん前から気付いていた。

「吾が身は成り成りて成り合はざる処(ところ)一処(ひとところ)在り」
「吾が身は成り成りて成り余れ

もっとみる
読んでない本の書評77「ノラや」

読んでない本の書評77「ノラや」

181グラム。猫がいなくなった、という繰り言だけを181グラムも書いて面白いのはとんでもないことだ。

 はじめて読んだときは百閒先生の文章のセンスのいいのに感動し、その後猫を飼い始めてからは、「ノラちゃんが居なくなる」という予感であらかじめべそをかきながら読むようになり。いつ読んでも本当にいい。

 年の瀬のバタバタした中で、難しい本を読むって気分でもないな、というのでまた久しぶりに手に取ると、

もっとみる
読んでない本の書評76「小川未明童話集 赤いろうそくと人魚」

読んでない本の書評76「小川未明童話集 赤いろうそくと人魚」

148グラム。著者名を見ててっきり早熟で薄幸そうな文学少女だと思い込んでいたのに、カバーの折り返しに印刷された写真が坊主頭のおじさんだったのでものすごく驚いた。未明さん、あなたでしたか。

 生粋の北国育ちで「ママさんダンプ」という言葉が、積雪地帯でしか通用しないことを知ったのは大人になってからだった。
 大雪が降った日にはどこの家でも真っ赤なプラスチック製の除雪用ダンプが翻る。面白いことに、ママ

もっとみる
読んでない本の書評74「伝奇集」

読んでない本の書評74「伝奇集」

 156グラム。ボルヘスという人は、頭が良すぎて言わんとしていることを人に理解してもらえない孤独な人なのか、それとも頭が良すぎて「これでも食らえ、愚民ども」と思って書いてるのか、どっちなんですか。

「バベルの図書館」の冒頭である。

 (他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく無限数の六角形の回廊で成り立っている。どの

もっとみる
読んでない本の書評73「星を継ぐもの」

読んでない本の書評73「星を継ぐもの」

177グラム。SFファンたちのひとかたならぬ熱い支持を信じて頑張った。苦労したからこそ、カタルシス倍増というタイプの読書もたまにはいい。

 基本的にはSFはあまり得意じゃない。なんというか、全般にボキャブラリーが固そうではないか。
メカメカしいとか、すごく大きいとか、すごく遠い、とか。見たこともない何かについてのスペックがやけに細かいとか。そうなってくるとストーリーに関係なく集中力を保つのが、

もっとみる
読んでない本の書評72「城」

読んでない本の書評72「城」

 272グラム。こんなに厚くて重いのに、何も起こらないし、未完である。とにかく城は出てこない。

 年末の大掃除というものにはゴールがない。「まあ、こんなもんだろ」と思えばそこで終わっても誰にもとがめられない代わりに、やろうと思えば延々と続けることもできる。

 たとえば、台所シンクのパッキンの黒ずみは、どこまで戦うべきものなのか。どの程度ならば見て見ぬふりをしてよいのか。パッキンにだけ年内の時

もっとみる
読んでない本の書評54「四つの署名」

読んでない本の書評54「四つの署名」

116グラム。文庫とは思えないくらい凝った綺麗な装丁である、シャーロックホームズのロゴも、その下によくみれば印刷されている隠し数字も浮き上がった加工になっている。真っ青でつるつるした表紙を指でなぞるだけでなんとなく楽しくなる。

川端康成でなくても、雪国というものは一瞬でできあがるものだ。気付いたら世界が銀色だった。朝カーテンを開けて、「あーあ、昨日までなら自転車で行けたのになあ」と思う、真冬の始

もっとみる
読んでない本の書評53「見えない都市」

読んでない本の書評53「見えない都市」

135グラム。マルコ・ポーロがフビライ汗に語って聞かせる都市の話。「枠物語」と言われるとちょっとうれしいのは「アラビアン・ナイト」のわくわくが脳内でBGM再生されるせいだろう。

目の前に魔法の絨毯を広げるように、不思議な都市が次々と立ち上がっては消えていく。読んで大変に気持ちの良い本なのである。ああ、なんてかわいらしいひとつひとつの祝祭、誰かこれを全部ジオラマにする人なんかいないものかしら…など

もっとみる
読んでない本の書評52「ナイン・ストーリーズ」

読んでない本の書評52「ナイン・ストーリーズ」

168グラム。一話あたり18.666グラム前後だが、バナナがたくさん含まれる。

 まだライ麦畑でつかまりそうなくらいの年だったころ、その年頃にしては珍しくちょっと賢そうな男の子が同級生にいたのだ。
「アメリカの作家は好きだよ、サリンジャーとか」などと言ってるのを聞き、ほほお、と思った私は古本屋でサリンジャーを探しだして読んだ。
読み終わって、ふふうん、と思い、それきりちょっとばかり賢そうだった彼

もっとみる
読んでない本の書評51「夏への扉」

読んでない本の書評51「夏への扉」

188グラム。もちろん中を読まずに、表紙の猫の後頭部を見つめる用途専用に使うのにも適している。

 自動掃除ロボットのルンバを見かけると、なんとなくいちおう値段をチェックしてしまう。購入を検討したことこそないが、「自分では買わないが、誰かが急にくれたらはしゃぐ」系家電のトップ10に入るのではないか。

 我が家は猫が二匹暮らしている都合上、とにかく掃除機をかけるのに手間がかからない部屋になってる。

もっとみる
読んでない本の書評50「犬神家の一族」

読んでない本の書評50「犬神家の一族」

216グラム。またクリスマスイブにあたらしいドラマ化作品の放送があるらしい。この言葉を使うのは本当に苦手ではあるが、以下は一応どネタバレである。

 私が犬神家の一族に最初に出会ったのは縁日のお化け屋敷である。真っ白で不気味なマスクが入口付近に展示されていて恐ろしかった。そのときは単に手を抜いたお化けなのかとおもっていたが後に「犬神家の一族」を映画で見て、ルーツはスケキヨさんだったんだな、知る。み

もっとみる