マガジンのカバー画像

タイガの読書日記

44
ラノベ・小説・学術書など様々な本を読んできたタイガが本棚の整理ついでに本の感想を書いていくマガジン。 割と最近は真面目な本を読むことが多いですが一応多種多様な本やたまに論文を紹… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

公僕もまた人間である―「現代官僚制の解剖」北村亘(編)

公僕もまた人間である―「現代官僚制の解剖」北村亘(編)

 官僚も所詮、人。しっかり組織人であり、何も特別な存在でもない。労働環境が若干違うだけなのです。

権力の巣窟、中心地である霞が関。その霞が関で行政権力を執行するのが官僚です。

彼らは法律や大臣などの意向や自身の利益拡大などの目的を果たすために、日々仕事に追われています。

本書は完全な学術書です。行政研究を行う学者の方々が日本の官僚制の問題を官僚への意識調査の結果から研究したものです。

・公

もっとみる
当たり前になった今だからこそ考える―「民主主義とは何か」宇野重規(著)

当たり前になった今だからこそ考える―「民主主義とは何か」宇野重規(著)

 人間において恐ろしいことの一つに「慣れ」があります。

当たり前だと考えてしまうと、その事について考えなくなるものではないですか。

 それこそ一人暮らしを始めた時、家事をやってくれていた親のありがたみがわかります。

世の中に当たり前のことはないのですが、日常的に経験することで慣れてしまい、当たり前でなかった時期のことを忘れてしまうのです。

 「世界は誰かの仕事でできている」という言葉を使用

もっとみる
わからないけどすごいという感覚―「精神分析とは何か」ルイ・アルチュセール(著)

わからないけどすごいという感覚―「精神分析とは何か」ルイ・アルチュセール(著)

 フランス現代思想を育てた一人である躁うつ病の革命者、ルイ・アルチュセール。本書は彼がジャック・ラカンに影響を受けたことに端を発する精神分析に関する彼自身の認識を公表したものです。

 本書は講義形式でありながら難解で、訳と関係なく初学者が読むには厳しい一冊と言えます。

 この時代の文章の書き方はあえて難解にしているのではないかというものが多く、アメリカのアラン・ソーカルは「知の欺瞞」という本で

もっとみる
世界征服はできないけど、パンを買わせることはできる―「最新版 戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」本田哲也(著)

世界征服はできないけど、パンを買わせることはできる―「最新版 戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」本田哲也(著)

 世界征服は無理でも、パン一つを買わせることはできるようになるかもしれません。

 まさかと思うかもしれませんが、私たちはその技術さえあれば人をその気にさせることができます。そしてこれはあなたにとって魅力的なことかもしれません。

 自己啓発本のベストセラーにD.カーネギーの「人を動かす」という本があり、これは現在でも売れ続けている一冊です。

ベストセラーである「人を動かす」に限らず、人に影響を

もっとみる
全ては問いから始まるー「勝つための論文の書き方」鹿島茂(著)

全ては問いから始まるー「勝つための論文の書き方」鹿島茂(著)

 「なぜ?」「どうして?」幼少の子供にこう詰め寄られると苦々しい思いをさせられます。私にもまだ小さいいとこがいるのですが、ちょっとしたことから質問攻めをされて疲れることが多々あります(笑)

 ただ幼少の子供たちが行う「問い」から「問い」への発想の連続というのは大切なことです。

まさにこの「問い」が社会の原動力であり、イノベーションのヒントに繋がっていきます。

本書は題名に論文と書いてはありま

もっとみる
自己中の国と見失った国―「日本とドイツ 二つの全体主義:戦前思想を書く」仲正昌樹(著)

自己中の国と見失った国―「日本とドイツ 二つの全体主義:戦前思想を書く」仲正昌樹(著)

「我々は手段のためなら目的を選ばない」

 これはアニメ「HELLSING」に登場するキャラクターである「少佐」の言葉です。

今回の題名に私は「見失った国」と書きました。この「見失った国」とは「戦前の日本-特に昭和初期」をさします。

当時の日本は目的を見失い、手段としての戦争を無駄に継続していました。だからこそ私は最初の言葉を思い出したのでしょう。

 日本とドイツは同じ第二次世界大戦の枢軸国

もっとみる
「政治的思考」杉田敦(著)

「政治的思考」杉田敦(著)

 本の種類もいろいろありますが、どうしても私がよく読む政治社会に関する本というのは固い印象を持たれやすく、難しいものだと思われがちです。

特に歴史上の偉人の言葉の引用なんてされると途端に専門性を感じて、敬遠してしまう人もいるように思えます。

 政治というのは万人に関係することでありながら、どこかとっつきにくく難しくて面倒と思われがちです。

そういう人に向けた政治をどう見たらいいのかという入門

もっとみる
「歴史通」谷沢永一(著)

「歴史通」谷沢永一(著)

 ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉は多用される名言の一つです。

これだけ多用されるとありがたみを段々と感じなくなるような気もしますが、長く利用される言葉というのはそれだけ歴史の修練を受けているわけでやはり価値のある言葉であると思います。

 著者である谷沢永一氏は戦後保守派の論客として知られた歴史学者です。

その保守派歴史学者による日本史からわかる日本の強みについて

もっとみる
ロシア・プーチン大統領の宣戦布告演説の全文を読む

ロシア・プーチン大統領の宣戦布告演説の全文を読む

 前々からチェックしてはいましたが、いざ実際に戦争になることを予想していた専門家は少なかったようで、揚げ足取りからいろいろ言われますね。

ミスくらい誰でもしますし、専門家は予想をするのが仕事ではないので(笑)

予想させるのはそれを求めている人がいるからなんだよな~と思いながらこれを書いている今日この頃です。

 本来はクレムリン(ロシア大統領府)のリンクを貼りたかったのですが、Anonymou

もっとみる
「リバタリアンとは何か」江崎道朗/渡瀬裕也/倉山満/宮脇淳子(共著)

「リバタリアンとは何か」江崎道朗/渡瀬裕也/倉山満/宮脇淳子(共著)

・2022年で最も刺激的な本かもしれない 新年が始まってまだ二か月ほどしか経過していませんが、本書はきっと今年の年末に振り返った時でも刺激的な一冊だったと断言できる内容であることは間違いありません。

日本の現実社会で意識されている政治思想は「保守」「リベラル」の二つだけのように感じますが、現代においてもはやその二つの区切りで政治を理解することは不可能です。

さらにその二つも言葉だけがふらふらと

もっとみる
「なぜ国家は衰亡するのか」中西輝政(著)

「なぜ国家は衰亡するのか」中西輝政(著)

 随分前に発売された本ですが、著者が本書でしている指摘は今でも通用するものだと感じます。「大英帝国衰亡史」など壮大な歴史を研究してきた著者だから感じた衰退・滅亡する国の傾向を少し紹介しようと思います。

・「誇り」を失った国は立ってられない 著者は国民の「モラル」が国家の衰亡・成長においては重要です。

かつてのローマ帝国が古代ギリシア文化への憧れとコンプレックスを持っていたことを例に、文化を自国

もっとみる
「はじめてのスピノザ」國分功一郎(著)

「はじめてのスピノザ」國分功一郎(著)

 私は自己啓発本を買うことは滅多にないのですが、社会不安からか自己啓発本の需要はあるそうです。

本来「不安」を解消するヒントを与えるような内容については思想書や哲学書がその役割を担っていたように思いますが、今の人々はそのような認識でないようです。

 かつて思想書は多く読まれました。戦後直後には日本人哲学者である西田幾多郎の本を求めて書店前に行列ができました。

その後1980年代には「ニューア

もっとみる
「群集心理」ギュスターヴ・ル・ボン(著)

「群集心理」ギュスターヴ・ル・ボン(著)

 少し前にも本書はNHKの「100分de名著」でも取り上げられたそうです。それだけ今でも学ぶところのある社会心理学の代表的な古典がこの「群集心理」です。

私たちは個人でも考えが及ばないところがあるけれども、集団によるとさらに考えが及ばなくなる。これは面白い現象です。

 著者であるル・ボンはこの集団心理に関心を向けて社会心理学という学問の道を作った人です。ですけど、他にも多くの分野に影響を残しま

もっとみる
「経済は世界史から学べ」茂木誠(著)

「経済は世界史から学べ」茂木誠(著)

 本書は世界史講師として有名な茂木誠氏によって書かれた経済入門本です。

著者の専門領域である世界史の知識によって数字に頼らない経済の話が展開されるので、数字が苦手な文系の人でも経済ってどんなもんなんだろうと理解できるまさに入門本です。

・数字に頼らなくても何となくならわかる 経済というと数字が必ずついてくると思っている人がいるかもしれませんが、そうでもないです。

経済学を大学で学ぶのであれば

もっとみる