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短編置き場

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僕の書いた短編小説たちが置いてあります。完全に不定期更新です。
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【詩】虻の祈り

【詩】虻の祈り

(1)
「もう何もうむな」と言われたから
おれは 闘うのをやめた
闘いとは うむこと まもること
何もうまないなら まもるものもない

そうして何もうまずにいたら
虚しさが よみがえった
それはあっというまに 地球のすべての場所を
覆い隠して 夜にした

けれどもニュクスは なにもうまない
死も 運命も 眠りも 夢も
繋がれ 喰らわれる創造の神も
すべて まどろみの内に微笑む

どうしたことか? 

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【短篇】大人になると言うのは、いつでも死ねるようになるってことだ。

【短篇】大人になると言うのは、いつでも死ねるようになるってことだ。

 生まれてから、インターネットが当たり前にある時代の僕にとって、世の中にあふれる膨大な数の言葉たちは、まるであらゆるものを破壊しつくした聖書の大洪水のようだった。僕にとって箱舟は、あふれかえった言葉の海を渡ろうとする、必死の抵抗だった。既存の表現、美しい言葉なんていう幻想に縋りつく、愚かな自称文学者の努力、というような意味ではない。むしろどちらかと言えば、もっと個人的な叫びである。僕が僕であるため

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【短篇小説】死に場所を探していた。

【短篇小説】死に場所を探していた。

 死に場所を探していた。できれば君の隣がよかった。

 そう考えたのは、これが初めてのことではない。ずっと前にも、同じことを考えた。君と出会う前に、半年ばかり付き合っていたある女の子のことだ。その時も、今も、僕は隣で死にたいと思っていた。暖かい日差しの差し込む縁側で、君のそばでこくり、こくりと居眠りをしたいと思っていた。そう思うことは、悪いことではないはずだった。

 病院のベッドの上で目を覚まし

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【詩】寸劇

【詩】寸劇

呼吸すら許さぬほどの静寂の内で 
―宇宙が目覚める。

 泣きたい時に限って泣けなくて
死にたい時に限って死ねなくて
 生きているから苦しくて
 けれども、時々楽しいことがあるから、
  のうのうと生き延びているあたしを
無残に喰い尽くした一匹の獣が
  車裂きの刑に処されて 息絶えた

 内側から壊れていくものは 
 何も、花瓶だけではない



あたしは、真っ黒な夜だ。

 真っ黒で、何も見

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【詩】吐きそうだ

【詩】吐きそうだ

吐きそうだ 吐きそうだ
全部吐き出してしまいそうだ
朝起きて 君のいない隣を見つめて
残酷に照り付ける太陽に気が付いて
何にも悪くない鳥の鳴き声が
バタン と 車に轢かれて途絶えて
         -私の一部がそこから漏れ出した
口を押えていたら 腸(はらわた)の方から出ていくなんて
ナンセンス! そう笑う道化は斜陽に照らされて
ああ 吐きそうだ 彼岸に咲く一輪の華

【詩】夕焼けに染まったので

【詩】夕焼けに染まったので

夕焼けに染まったので
ぼくの身体は赤く燃える
てのひらから 足の指先まで
じんわり じんわりと 燃えていく
身体の輪郭が身体から解き放たれて
ぼくの内側にまで入りこんでくるそれは
心臓すらも高鳴らせる
どくん どくん
それは水平線に沈む 
ぼやけた熱気に包まれて
白雲の内にまどろみながら

【詩】どうせ人生、一度きり

【詩】どうせ人生、一度きり

どうせ人生一度きり
いずれ死ぬさ灰になって
だからハイになって生きようと思った。
けれどイキるのは嫌だ。
いやだな、こんなこと言う大人になるのは

大人はみんなみっともない
みっともなくて、見たくもない
けれどもその見たくも無い物に近づくから、
泣いているんだ 海際で一人
泣いたイルカは、海に帰りたいといった

海に帰れば何かが変わるか
変われば何かが起こるのか
起これば何かが生れるか
生れればす

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愛することは難しい

愛することは難しい

人を愛することは、他のどんなことよりも難しい。心の底からたとえ嫌いになったとしても、それでも人は人を愛さねばならない。愛とは何も恋や友情だけではない。そこに人が人としているからこそ、その人の尊厳に対して敬意を持って接することが、僕にとっての「愛」だ。
そこには欲望は存在しない。あるとすれば、その人の幸せを心から願いたいという僕の勝手なエゴだけだ。愛はいつも一方向だと弁えなければならない。見返りを求

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【詩】誰がこの絵を描いたのか?

【詩】誰がこの絵を描いたのか?

誰がこの絵を描いたのか?
知らんとは言わせぬ その眼で見よ
朽ち行く廃墟のその片隅で 泣き崩れた少年が
声をかけ続ける母親の腹を貫く 鉄くずを

誰がこの絵を描いたのか?
見たくないとは言わせぬ その耳で聞け
嘆きと憎悪の渦巻く 渇きの平原を木霊する
耐えがたきほどに厳粛な 死者たちの声を

誰がこの絵を描いたのか?
聞かぬとは言わせぬ その肌で知れ
慰めの少女を貪る悪魔を焼いた業火の中で
お前を

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【詩】不完全なそれは

【詩】不完全なそれは

不完全なそれは、
知らん顔で飛んでいく晴れた日の雲
戦争や災害や、悲しみが
過ぎ去る都市の片隅で、
鉛のように重く横たわる私の身体

不完全なそれは、
私を見つめる物言わぬ軍人の眼差し
慰めを知らぬ骨とう品はたとえ、
火薬のと血の匂いで汚されるとも、
なおも無垢なる肉として 蠅たちの祝福を受ける

不完全なそれは、
子供の頃に追いかけた一握の希望
爪と肉の間に砂を詰まらせながら、
波際で描いたスケ

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【詩】余白

【詩】余白

都市が涙を流す そんな雨の日だ
無色透明のインクは -アスファルトを黒色に染めてー
いつかすべてが本当に黒くなる
けれども、こころがそれを欲しがるので
全き余白の持ち主は 傘もささずにそれを浴びている

僕の中にあったいくつかの
絶え間ない感情のほんの一部をさらけ出すのさえ
勇気がいる
余白が汚れていくことにさえ
沈黙するという勇気がいる

【詩】知らない夢

【詩】知らない夢

瞳の奥に
満点の星が煌めいて
揺れ動く悲しみと切なさを通り越し
柔く儚き輝きが
ただその傍らに腰かける

聳え立つ尾根が
かつての天の神々の如く
久遠にして死することなき
淡い揺らめきを謳い
吹きすさぶ風が
君のいる場所を告げる

夏は嫌いだ。

夏は嫌いだ。

 夏は嫌いだ。
 命の輝きと、その耳をつんざくばかりの主張に、気がめいりそうになるから。
 照り付ける日の光に、心の底からの吐き気を混ぜて、湿り気と、空虚を、はにかんだ笑顔で誤魔化しながら、大きく二、三度息を吸う。するとどうだ。今度は、どうしようもない淋しさに駆られるのだ。
 ヒグラシの声が何度も何度も僕のことを内側から壊そうとしてくる。まるで、僕の中にある生きる意志を否定するかのように。あの都市

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初めての文章

初めての文章

 初めて文章を書いたとき、それは僕がまだ母のひざの上にいたころだった。ボールペンでノートがぐしゃぐしゃになり、真っ黒に染まるまでびっしりと文字を並べて書いたその文章を、僕はつい最近見つけた。本当の意味での処女作だった。ある探偵が、船の上の奇妙な殺人に巻き込まれる。目が覚めたら10人が同時に死んでいた。テロ小説みたいじゃないかとさえ思った。でも、このころの僕の文章は、まだまだ洗練されてはいないとはい

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