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白昼夢の青写真2次創作 case2 短編集

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・ウィルの酒場で起きたとある出来事「信仰」(前後編) ・ウィルの恋物語「少年少女」(全4話) ・その続編「沛雨」(全4話) ・オリヴィアの過去「生きる」(前後編) ・オリヴィア… もっと読む
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【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第4話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第4話】

今日も今日とて、最悪な事態から一日は始まった。酒場の開店準備中、父が「む…」と呻き、包丁を動かす手が止まり、その場に座り込んだ。父の目が、再び見えなくなったのか。俺はじゃがいもをほっぽり出して父のもとへ駆け寄った。これで最後かもしれない、と思うと、背筋が冷えた。

「大丈夫か、父さん。見えていないのか。」

「慌てるな…準備を進めろ。夜にはよくなる。昨日も嵐で、客はロブとエドの二人しか来なかったか

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【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第3話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第3話】

息子のウィルが、エドから文字を教わって以来、夜な夜な何かを書いていることは知っている。
エドから、「ウィルは、一度の説明で全部を覚えてしまう。天才だ。」と聞いたことがある。
あいつが、いつか成し遂げたい何かに出会うことがあるなら、それを叶えるべきだ。その才に見合った場所にいるべきだ。
いい年した息子が未だに甘えた小僧でいることが、もどかしくもある。

店の2階の集会所で、神に問うた。
「父親として

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【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第2話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第2話】

エドの伝手でやってきた医者は、終始、重々しい表情だった。疲れていただけだ、酒があれば治る、と抵抗する父を説得し、診察にこぎつけるまで、2日がかかった。その間、父の目が見えなくなることはなかったように思う。しかし、店を開くことはなかった。父なりに、思うところがあったのかもしれない。

「詳しい原因などは、私にも分かりません。ただ、似たような症状を訴える人たちを、何人も見てきました。」
医師はそう前置

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【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第1話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作 「沛雨」第1話】

一人ひとりに、人生がある。家族がいて、友達がいて、ドラマがある。我々の日々は決して、楽しいことばかりではない。むしろ、苦しみや悩みの方が多い。

さらには突然、病気になったり、怪我をしたりする。そうすれば、その日の生活を営むことすら危うい。唐突に、大事な人を失うこともある。日々、理不尽の連続。それに抗うすべもなく、己の無力さに絶望する。このテンブリッジに住む人間のほとんどは、あまりにも弱い。

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「悪夢」】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「悪夢」】

女の奴隷の生活なんて、私が詳らかに語らなくたって、容易に想像がつくはずだ。容姿に恵まれてしまった私は、必要以上に「そういう行為」に奉仕することを余儀なくされてきた。

男という性が持つ根源的な欲求に加え、暴力性、嗜虐性、倒錯性などといったものを、子供の頃から突きつけられてきた。身体を隅々まで穢されてきた。魂に亀裂が入る音を、何度耳にしただろうか。

          *

私、オリヴィア・ベリー

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「生きる」後編】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「生きる」後編】

枢機卿。
カトリックの序列において、教皇に次ぐ職位だ。その職位につく者は、緋色のマントを纏う。目の前の男が纏うは、まさしく緋色のマント。この人が枢機卿?きっとそうだ。
私はぎりぎりのところで、神に、信仰に命を救われた―
そんな幸せと感激に、心の隅々までが優しい光で満たされた気分だった。

…ところが、何かがおかしい。差し出されたパンを平らげ、ほんのわずかながらのエネルギーを得た私は若干冷静になり、

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「生きる」前編】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「生きる」前編】

捕虜として過ごした少年は、全身の骨という骨が浮き出るほどに痩せこけている。銃弾を受け剣で切られ、それでもなおろくな治療を受けなかった男は、傷口から蛆が湧き、日々高熱にうなされている。目の前で家族全員が焼死する様を見た老人男性は、へたり込んでいつもぶつぶつと何かをつぶやいている。

命からがら逃げてきたものの、救い出されはしたものの、彼らはもう、助からないと思う。私、オリヴィア・ベリーと両親、兄妹た

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第4話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第4話】

[ 第4話 大人 ]
さんざんな目に遭ったが、俺自身が「森の中の子供」にならずに済んだこと、そして、ヨナギが無事でいてくれたことは、本当に何よりだった。

ただ、怪我が無いにしては、あまりにもヨナギの姿に元気がない。むろん、見知らぬ大人から誘拐される、下手をすれば死んでいたかもしれない、なんてことを経験させられたのだ。そのショックの大きさを思えば、当然といえば当然たが、それでも、この反応は何かが違

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第3話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第3話】

[第3話 誘拐]
気が付けば、日の光に陰りが出ていた。この街は元々、曇りや雨が多い。夕方になると、空の灰色はさらに濃さを増し、夜の到来を予感させる。
お店のこともあるし、本格的に暗くなる時間帯になる前に家に帰らないと、父に叱られる。楽しい時間に終わりを告げる、ヨナギとの別れの時間を、いつもとても寂しく感じる。

「ヨナギ、今日はそろそろ帰ろうか。」
「ん。ほだね。ちょっと暗くなってきたひね。」

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第2話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第2話】

[第2話 足音 ]
(…お前の死まで見ることになるとはな。お前の冥福を祈ることくらいしか出来なくて、本当にすまない。)
首だけとなったテリーの痛ましい姿の前で、心の中で祈りを捧げる。現実は、見たくもないものばかりだ。しかし、俺くらいは、生き残った者の使命として、一人の人間が確かに生きていたという証を、最期を、見届けてやらなければいけない。せめて、この目が見えているうちは。

          *

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第1話】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「少年少女」第1話】

[第1話 予感 ]

1534年、英国教会が、ローマ教会、ローマ・カトリックと袂を分かつ。以後、便宜上、ローマ教会の教徒を「旧教徒(カトリック)」と呼ぶ。
1554年、旧教徒と国教会の戦争であるライアットの乱が起こる。
1558年、エリザベス1世、王位を継承。
1564年、俺、ウィリアム・シェイクスピアがこの世に生を受ける。

国内で戦争が起こったのは、俺が生まれるわずか10年前。この国の王族たち

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【白昼夢の青写真 case2 二次創作「信仰」extra】

【白昼夢の青写真 case2 二次創作「信仰」extra】

case1のときもやりましたが、白昼夢の青写真 case2 二次創作「信仰」を書き上げての感想、批評、反省文等です。

【ごめんなさい。】
まず最初に、お詫びです。ゴア描写は、断りなくやっちゃダメですよね。そして結構、後悔しているというか、エドにせよ誰にせよ、元々は緒乃さんが作ったキャラです。人の創作物に出てくるキャラのイメージを損なうような改変は、いけないと思いました。それは当人への敬意を欠く行

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「信仰」 後編】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「信仰」 後編】

[「信仰」完結編 ]

脳天から水を浴びせられた女性が、ようやく意識と正気を取り戻し、こういった。
「これは、どういうことですか…。」
この店で働くつもりでやってきたはずのアンは、身柄をロープで柱に固定され、おまけに後ろ手に縛られていた。

時間は10分ほど前に遡る。アンは軍事訓練でも受けていたのか、捕縛にかかった俺に、素早く右手で掌打を鼻面に放ち、頭が下がったところへ、そのまま後ろ回し蹴り

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【白昼夢の青写真case2 2次創作「信仰」 前編】

【白昼夢の青写真case2 2次創作「信仰」 前編】

[「信仰」 導入編 ]
薄暗い通りの、小さな、小さな酒場。
その小さな酒場を長年営んできた親父は、4年ほど前から目を悪くし、視力をほぼ失った。今は息子の俺、ウイリアムが実質的な店主として、店の切り盛りをしている。気の利いた料理も作れない上に、およそ酒場の店主など向かない性格だとも思っていたが、父の代からの気のおけない間柄にある常連客たちのおかげで、店はなんとか成り立っている。

…と言いたいが、

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